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卒業

 近寄ってはこないけど、あっちこっちですすり泣く声が聞こえてくる。

 これが卒業生の先輩たちじゃなく、在校生の声だって言うんだから、本当に驚きだよね。


「愛ちゃん」


 昔の漫画とかだと証書が入ってたのは筒状の入れ物だったらしいけど、今はブック型。

 それを片手で持ったままの聖也くんが、私を見つけて嬉しそうに名前を呼んでくれる。


「改めて、卒業おめでとう」

「ありがとう」


 きっと今日たくさんの人たちに、何度も言われているだろう言葉。

 流石に今日は一緒には登校しなくていいって言ったけど、最後なんだからって押し切られて。

 だから実は、今日一番最初にそれを聖也くんに言ったのは私だったりするんだけど。


 でも卒業式が終わった今が、本当の卒業だからね。


「にしても、すごいね……」

「え…?」

「いや…。よく制服のボタン、全部無事だったなぁって……」


 中学の時とか、たくさんの女の子たちに囲まれていたのを遠くから眺めてたから。

 あの時の制服のボタンがどうなっていたのかは分からないけど、さっきまでクラスメイト達に囲まれていたから。てっきり男女関係なく、むしろ取られるようになくなってるものだとばかり思ってた。


「あれ?愛ちゃんは好きな人の第二ボタンとか欲しいタイプだっけ?」

「いや、むしろいらない。何に使うの。ボタンだけとか邪魔なだけじゃん」

「うん、だと思った」


 冷めてると言うなかれ。


 というか、実際もらった人たちってその後そのボタンってどうしてるんだろうね?

 何かに使えるわけでもないし、思い出として取っておくにしても、ねぇ…?

 今ならスマホに写真とか残しとく方が、割と現実的じゃない?


 それに。


「ボタンなんてもらわなくても、私はもっと……」


 ずっと一緒にいられるし、何より聖也くん自身の心をもらってる。

 その方がずっといいし、大事だもん。


「うん」


 私の言いたい事が分かったんだろう。嬉しそうに目を細めて、それはそれは幸せそうに笑ったから。



 ……周りの被害が、拡大した。



 男女関係なく、息を呑むような声と。

 どこかで誰かが倒れるような音と。

 そして目の端に映る、何人かの拝むような格好。



 いや、だからおかしいって。


 あとなんでその中に先生たちまで混ざってるのか、本当に謎なんだけど。


 ほんっと、この男は無自覚の人タラシだなぁ……。



「愛ちゃん?どうしたの?」


 で、天然、と。


「……聖也くんさ、やっぱりもう少し自覚はするべきだと思うのね?」

「ん…?」

「ちょっと……大学生活大丈夫なのかなって、心配になってきたよ…」


 襲われたところで、簡単に撃退できるくらい強いのは知ってる。だからそこは心配してないけど。

 逆に信奉者を増やしすぎないかと、年々周りをおかしくする性質が強化されているような気がする幼馴染兼恋人を見上げた。


「ん~~……俺としては、愛ちゃんの最後の高校生活の方が心配かなぁ…。学校の中で何かあっても、すぐに助けてあげられないし」

「いや…!!今までも普段は何かあったの私じゃなくて聖也くんの方だからね!?」

「俺は大丈夫だよー。愛ちゃんにしか興味ないし」

「そういう問題でもないからね!?」


 なんだこの男…!!こんな日まで通常営業か…!!

 あとこんな場所でのろけとかやめて…!!なんかどっかから微笑ましそうな顔でこっち見てる人たちがいるから…!!


「でもやっぱり寂しいな。時折愛ちゃんに会うことも出来なくなっちゃうし、学校の行事にも一緒に参加できないんだから」

「うっ…」


 しゅんとした顔で言われると、流石に私も弱い。

 表情は見えないだろうに、聖也くんの後ろで口元を押さえて涙ぐみながらうんうん頷く人たちがいるおかげで、何とか気を逸らすことは出来たけど。


 ……いや、待って…?

 なんでそこ、頷いてるの?


 というか、あの人たち同じ卒業生では…?


 何なら聖也くんのクラスメイトのお姉さま方では…?


 ねぇ、ホント……聖也くん普段教室で、どういう扱いだったの…?

 どんな学校生活を送ったら、こんな状況になるのか……。

 結局最後まで謎だったなぁ……。


「愛ちゃんは?俺がいなくて寂しいって、思ってくれないの…?」


 なんて、現実逃避してる場合じゃなかったらしい。


 というか…!!

 その大きな体で肩を落としながら、良い顔を曇らせてこっちを覗き込むように見てくるんじゃない…!!

 私割と、聖也くんのその表情に弱いんだから…!!

 その顔で「ダメ?」とか言われたら断りにくいんだから…!!


 でも……。


「……寂しい、よ…?寂しいけど……同時に私、受験生なんだよね…」


 割と現実的な答えを返す。


 いや、だって。

 寂しいとか、言ってる場合じゃなくない?

 何なら勉強をまた教えてもらいたいくらいだし。


「うん、知ってる。だからまた、一緒に勉強しようね?」

「いいの?これから忙しくなるんでしょ?」


 大学生活だけじゃない。

 どうやら本格的に色々と始めようとしているらしい聖也くんは、アプリの開発なんかも始めていて。

 パイロット版って言えばいいのかな?時折使い心地だったり欲しい機能だったりを聞かれるから、もしかしたら本格的なリリースも近いかもしれない。


 だから。


 きっと今まで以上に忙しくなっちゃうんだろうなって。


 そう、思ってたのに。


「むしろようやく自由な時間が増えるんだよ?愛ちゃんと一緒にいられない時間は別の事に使うけど、それ以外の時間はなるべく一緒がいいな」


 なんて。

 それはそれは優しい顔で笑うから。



 また、人が倒れる。



 天丼か!!



「それに寂しいって、言ってくれたし、ね?」


 ふふって笑う聖也くんは、本当に嬉しそうだから。



 結局卒業しても、あんまり変わりはない。


 どころか。


 むしろ本当に一緒にいる時間が長くなっていくんだけど。



 平日は勉強を見てくれて、休日は息抜きと称したデート。


 もはや当然のようにそんなループが一年間続くなんて、この時は私だけじゃなく誰一人想像なんてできなかった。



 半年くらい経ってから、友達に呆れた顔をされるまで。

 これが普通じゃないって事にすら私は気づけなかったくらい、聖也くんは当たり前に、自然とそこにいたから。



 ただ……



 たくさんの人たちから「王子様はやっぱり王子様のままだったね」なんて。


 次の年の私の卒業式の日に、当然のように学校まで来た聖也くんの姿を見て言われることになるなんて。



 もっと想像してなかったけどね!!



 同じように今日が卒業式の人も、先週卒業式だった人も、来週以降に卒業式の人も。

 そして延期または未定になった人も。

 一つの区切りの季節ですね。


 それでも同じようにみんな卒業。


 全国の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます!!

 大変な時期ではありますが、だからこそ未来がその分明るいものでありますように。



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