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桃の節句

「そう言えば、愛ちゃんの家は毎年雛人形飾ってたよね?」

「え?うん。今日までは確実に出てるよ?」


 片づけるのが遅くなるとお嫁に行くのが遅くなるとか言われているから、すぐに片付けちゃうんだって小さい頃言われたけど。

 まぁ我が家のひな人形は小さいやつだから、明日とかに片づけるのも割とすぐできるから困らないし。いいんだけどね。


「あ、別に片づけるのはいつでも変わらないよ?俺が愛ちゃんをお嫁さんにもらうって決めてるから」

「う……えっ…!?」


 うん、と頷きかけて。

 言われた言葉の意味をちゃんと頭で理解するのと同時に、思わずその顔を凝視する。


 というか、朝からいきなり何を言い出すんだこの男は…!!


「え?だって今日までしか飾らないのって、そういう事でしょ?心配しなくても大丈夫だよ。愛ちゃんが大学卒業したら、すぐに結婚するから」

「それはそれで早くない!?!?」


 思わずツッコミを入れたけど、たぶんそうじゃない。

 これじゃあ聖也くんのところにお嫁に行くのは決定事項みたいじゃない。


 いや、まぁ……いいんだけどね…?それでいいんだけど…!!


「だって変なところに就職して欲しくないし。そもそも一人で外歩かせるとか、俺が嫌だ」

「うっ……」

「ホントは卒業もしたくないんだけど、そういうわけにはいかないでしょ?」


 今週末には卒業式が控えているのに、卒業したくないとはこれ如何に。

 卒業生でしょ?主役でしょ?


「比較的学校の中は安全だけど、確実に安全なんて言えないし」

「でも今までも大丈夫だったよ?」

「文化祭の時みたいなことが起きないって、言い切れないでしょ?」

「う゛…。そ、それはそうだけど……」

「あの時は他校生だったけど、同じ高校生なんだから。ちゃんと学校でも気をつけなきゃダメだよ?」

「はい……」


 反論する余地が無いとはこのこと。


 というか、何故に私は朝から聖也くんにお説教されているのか。

 そもそもはお雛様を飾っているかどうかって言う話じゃなかったのか。


「ちゃんと毎年雛人形飾ってるのに、全然厄を引き受けてくれてない気がするんだよね……。それとも引き受けた上でこれなのかなぁ…?」

「ん…?雛人形ってもしかして身代わりみたいなものなの?」

「まぁ、そんな感じかな?本来は人形(ひとがた)って呼ばれる紙とか藁で作った人形を、自分の災厄を乗せて川とか海に流す行事だったらしいから」

「……それ、むしろ私今やるべきなんじゃ…?」

「うん。俺もそう思う」


 小さい頃からずっと、お雛様は飾ってきたけど。

 本当に災厄を引き受けてくれるのなら、いっそその行事を毎年やりたかった。


「桃だって、邪気を払うって言われてるんだけどね?」

「えー?毎年ちゃんと桃の花飾ってるよー?」

「でしょ?だからその上でってことは、厄を引き受けてくれていないのか、あるいは引き受けた上で今の現状なのか」

「え、やだ。怖い」


 むしろそれ、引き受けてくれていなかったらさらに酷い事になってるってことじゃん…!!

 そういう想像したくないような怖い事、いきなり言い出さないでくれる…!?


「あ、でもあれだね。美しく成長して、良い結婚に恵まれますようにっていう願いは叶ってるね」

「!?」


 美しく…!?学校で騎士とか言われてる私が…!?

 っていうか、自分で良い結婚って言っちゃう!?ねぇ、言っちゃうの!?


「そもそも雛人形になんて頼らなくても、俺がちゃんと傍で愛ちゃんを守ればいいだけだもんね」

「なっ…!!」


 っていうか、なんかさっきから聖也くんどうしたの…!?

 今から学校だよ!?下校中じゃないんだよ!?


「春はあったかくなってくる代わりに、変な人も多くなるからねぇ…。ちゃんと周りを警戒しておかないと」

「あー…………。うん、そうだね。特に下校時間とかは、気を付けないとだね」


 寒い時期は寒い時期で、変質者がコート羽織ってたりするけど。

 この時期はこの時期で確かに面倒な人が多い。


 あとどうでもいいけど、冬にコートだけって寒くない?


 もはやそういうのに慣れすぎて、最近は見るたびにそんな感想しか浮かばなくなってたけど。

 考えてみれば、出くわすのが当たり前とかおかしかったんだよね、うん。

 ちょっと感覚マヒしてたよ。


「あ、雛人形で思い出したんだけど」

「なぁに?」

五人囃子(ごにんばやし)っているでしょ?あれ昔、賑やかしの意味の"はやし"だと思ってたんだよね」

「あー……。まぁ、うん。語源としては、間違ってないよ?囃し立てるって、能とか歌舞伎とかのお囃子の演奏から来てる言葉だから」

「そうなの!?」

「うん。盛り上げるためのものだったのが、冷やかしとか悪い意味にも使われるようになっちゃってるんだけどね」

「へぇ~…」


 なんて、物知りな聖也くんに色々と教えてもらいながら。

 いつものように二人並んで、学校へと向かう。



 聖也くんが卒業してしまうまで、あと数日。


 同じ学校の制服を着てこの道を通るのも、あと数回だけなんだな、なんて。


 ちょっとだけ、寂しい気持ちになりながら。


 



 実際には既に卒業式が終わっている人も多いかとは思いますが。

 彼らの高校は、今週末が卒業式です。



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