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バレンタインデーは…

「あ、のね…?聖也くん……」

「ん?どうしたの?」


 我ながらなんてキャラじゃないことをしてるんだろうと、思わないわけじゃなかったけど。

 それでも幼馴染の枠から出て恋人になってからというもの、私がこうなることはよくあった。どうしても恥ずかしくて、それでも伝えたくて。

 そういう時の聖也くんは、決まって優しい顔をしているんだけど……。


 それがまた……恥ずかしさを煽ってるような気がしなくもないような気がしてるんだけどね…!?


 でも今日はそんなことを言っている場合ではなくて。

 週末の金曜日。明日から学校はお休み。

 だけど…!!


「きょ、今日ちょっとそのまま家に寄ってくれない?その……聖也くんに、一番最初にバレンタインデーのお菓子、渡したい、から……」


 い……言った…!!言い切ったよ私…!!


 いやだってもう…!!恥ずかしいじゃん!?!?

 でもバレンタインデー当日は日曜日だし、そしたら最初に渡す相手は家族になっちゃうじゃん!?

 だったらちょっと早いけど、今日のうちに作りたてを渡しちゃおうかなって…!!


 え。思っても変じゃないよね…?変じゃないよね…!?


 去年は……ほら。色々、あった、し…?

 おかげで作りたてのフォンダンショコラを渡せたわけだけども…!!

 でも今年は、その……ちゃんと、恋人、だし……。せ、聖也くんの彼女なんだもん…!!ちゃんと一番に渡したくて…!!


「こ、今年はね…!!ガトーショコラを焼く予定で、もう材料とか買ってあるの…!!だからっ、そのっ……」

「愛ちゃん……」

「っ…!!」


 何も言わずに私の言葉を聞いてくれていたはずの聖也くんが、手を伸ばして私の髪を耳に掛けたかと思えば。


「…可愛すぎ。そんな可愛い顔、外でしないで?悪い男が寄って来ちゃうから」

「ぁっ……」


 そんなことを、耳元で、囁くから……


「そ、んな、の……」

「愛ちゃんが可愛すぎて…俺、キスしたくなっちゃった」

「っ!?」


 変な男が寄ってくるのはよくある事だからって、反撃しようと思ったのに。

 更にダメ押しで言われた言葉に、もはや空気を求める魚みたいに口をパクパクさせるしかできなくて。


「ね?早く帰ろ?今の愛ちゃん、誰かに見せたくないから」


 それなのに私をそんな状態にした張本人は、そんな勝手な事を言って。

 私の手を引いて、少しだけ速足で歩きだす。


 っていうか……手、つないだまま、帰るんですか……?


 なんてことを聞く余裕もないまま、私はただ聖也くんに連れられるまま足を動かして。

 いつの間にか気が付けば無言のまま、家の前までたどり着いていた。

 なのに。


「ほら、愛ちゃん。鍵、開けて?」

「っ…」


 今度は腰に手をまわしてきて、耳に唇が付きそうなくらい近くでそう囁いてくる聖也くんは。なぜかさっき以上の色気を漂わせていて。

 ドキドキしすぎてちょっと震えつつ、何とか言われた通り家の鍵を開けて。そのまま玄関の扉を開いて、ようやく家の中に辿り着く。

 家に着いたという安心感と、さっきの色気を駄々洩れさせている聖也くんから離れられたという安心感の両方から、そっとため息をついて。肩の力が抜けた次の瞬間。


「ねぇ…なんでホッとしてるの?」

「ひぁっ…」


 後ろから抱きしめられたかと思えば、さっきと同じ色気を隠そうともせず耳元で囁いてきて。


「俺と、家の中に二人きりなのに…?俺が……」

「ふにゃぁっ…!!」



 そのまま、私の、耳を……


 パクっと、咥える、から。



「せ、やくっ……」

「ダメだよ?安心しちゃ。俺だって男なんだから、こうやって……」

「ひゃぁっ…!」


 抗議しようと思ったのに、今度は耳のふちを舌で舐められて。


 もう、なんか……恥ずかしいし、力抜けるし、変な声ばっかでるし……


「意地悪な事、したくなっちゃうかもしれないでしょ?」

「せ、やくぅん……」

「だーめ。そんな可愛い声で、俺のこと呼んじゃ。このままここで、立てなくなるくらいキスしたくなっちゃう」

「そっ、それはだめぇっ…!!」


 色々いっぱいいっぱいになってるけど、それでも最後のそれはだめったらだめ…!!

 そもそもそんなことになったら、お菓子作れなくなっちゃうじゃん…!!


「うん、だから、ね…?俺が本気で愛ちゃんを閉じ込めちゃう前に、用意しておいで?」

「うぅ~~……え…エプロン取ってくるぅぅ…!!」


 言葉を言い切って、少しだけ腕の力を緩めてくれた聖也くん。

 たぶんここで抜け出さなかったら、本当にその腕の中に閉じ込められて。立てないくらいの、すっごいキスが降ってくることになるから。

 もうそれが経験で分かってしまっている以上、言われた通りに急いで自分の部屋へと駆けだす。


 後ろから呑気な声で「うん、いってらっしゃーい」なんて聞こえてきたけど。

 もういいもん…!!聞こえなかったふりして無視してやる…!!


 でもきっと、真っ赤な顔で意地を張ってるのはお見通しなんだろう。

 聞こえてきたのはそれだけじゃなくて、くすくすと小さく楽しそうに笑う声もだったから。


 ううぅぅぅ……酷いよぉ……。からかって遊……んでるわけじゃないんだろうけどぉ……。

 本気だから、なおさら質が悪い…!!

 今日私、大丈夫かなぁ…?



 なんて。

 思ったそれが、すぐに的中するなんて。



「だっ…ぁ、んっ……ふっ……」

「はぁ…」

「せ、やく、ぅん……」


 お菓子作り用のチョコを見つけた聖也くんが、それを口にくわえて迫ってくるから。

 だめって……だめって言おうとしたのにいいぃぃ!!!!

 そのまま口の中にチョコねじ込まれた上に、流れでディープキスしてくるなんて…!!

 誰がそんなの予想できるかああぁぁ!!!!


「……愛ちゃん…ほんと、可愛すぎるんだけど……。これ以上はホントにお菓子作り出来なくなっちゃうから、もう邪魔しないけど……我慢するの、結構つらいな……」

「せ…せーやくんの、ばかぁ……」

「……それ、誘ってる?ねぇ。俺本気で、愛ちゃんの唇…」

「だめってばぁ!!」


 それ以上言わせないように、何とか動ける今のうちに聖也くんの口を両手でふさぐ。

 こうでもしないと、本当に動けなくなるまでキスされちゃうから…!!


「お菓子作るから…!!お願いだからちゃんと向こうで待ってて…!!」


 いつもだったらまだいいけど、今日は本当にダメなんだってば…!!

 っていうか、こんな中途半端な状態で台所放置できないでしょ!?


「ん」


 私が口をふさいでるせいでしゃべれないから、小さく頷いてようやく離れてくれる。

 それに安心して手を離したら、その一瞬の隙をついて頬っぺたに触れるだけのキスをして。


「待ってるね」


 なんて。

 それはそれは嬉しそうに笑って、満足そうにリビングへと向かうから。


「ぅぅ~~……もぅ~~……」


 そんな笑顔見せられたら、怒るに怒れないじゃん……。

 ずるいなぁ、聖也くん。


 結局ぶつける相手がいなくなってしまった感情は、お菓子作りのエネルギーに変換されたわけだけど。

 ハンドミキサーを使ってるから、泡立てるのにその感情をぶつけたりはできなかった。


 まぁ、でも…。


「ん~~~~。おいし~~」


 本当に美味しそうに、嬉しそうに聖也くんが食べてくれるから。

 もういい、かな。


「やっぱり俺、愛ちゃんの作ったお菓子が一番好きだなぁ」

「それ去年も聞いたけど、ありがと」

「たぶん毎年言うと思うけどね」

「バレンタインのたびに言われるんだ、それ」


 それでも一番好きな人にそう言われるのは、やっぱり嬉しいから。

 結局私も、お菓子を食べてるわけじゃないのに頬が緩んじゃうんだ。


「だってホントに美味しいんだもん。ほら、愛ちゃんも。あーん」

「え?え、っと……あー……ん」


 いや、なんで…?

 なんで私が、自分で作った物食べてるの…?


「ね?美味しいでしょ?」

「んーー……まぁ、うん、おいしい、けど…」

「あれ?なんでそんな煮え切らない返答なの?」

「いや、だって……これ、私が作ったやつだし…」


 第一、聖也くんに食べてもらいたくて美味しくなるように作ったわけだから。美味しくなくちゃ困るんだ。

 そこに込めたのは愛情だけど、それって聖也くんに向けてのものだし。私が食べたところで、うん美味しく出来たね、くらいな感想しか出てこないわけで。


「んー…?あ、そっか。じゃあ…」

「…?」


 何かを思いついたのか、そのままいそいそとガトーショコラを自分の口に運んだかと思えば。


「んぅっ…!?」


 口移しで、私にそれを食べさせてきた。


「んっ、ふっ……ぁ、はぁ…」

「…どう?美味しい?」

「ぁ……そ、んな、の…わ、かん、な……」

「あれ?味分からなかった?じゃあもう一回」

「ふ…ぇ……?あっ…!!ちょ、まっ…!!だいじょんぅっ…!!」


 私が止めるより先に、また同じことを繰り返してきて。

 こんな、食べ方……味なんか、分かるわけないじゃん…!!


「ぁ……せ、やく……」

「ねぇ、どう?美味しい?」


 けど。

 ここで美味しいって答えないと、きっとずっと続けられる。

 それは、困る。


 だから。


「お…おいしい…!!おいしいから、もう大丈夫…!!あとはちゃんと聖也くんが食べて…!!」


 そう言わないと、残り全部そうやって食べさせられる気がするから。

 せっかく聖也くんのために作ったのに、私が食べちゃったんじゃ意味ないじゃん!?


「ん。分かった」


 だからその答えに、一瞬安心したのに。


「でも食べ終わったら、愛ちゃんの部屋行こうね?もう俺、我慢しなくてもいいでしょ?」


 次の言葉で、この後の未来が決定してしまった。



 結局。


 本気になった聖也くんに、私が勝てるわけがなく。


 今日も今日とて、動けなくなった私は聖也くんの腕の中にすっぽりと納まっているのだった。



 もはやお馴染み、キスオチですね。

 聖也くんの押せ押せ具合が、最近止まらなくなってきました。危ない…。



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