124年ぶりの2月2日
「そう言えば、今年は今日が節分なの知ってた?」
「え!?明日じゃないの!?」
今日は2月2日。今まで毎年3日が節分だったから、今年も明日だと思ってたのに。
ふと思い出したように聖也くんが下校中そんなことを言い出すから、びっくりして足を止めてしまった。
「うん、明日じゃないんだって。節分が3日じゃないのは37年ぶりらしいけど、2日になるのは124年ぶりなんだってさ」
「ひゃ、ひゃくにじゅうよねん……」
流石に普通はそこまで生きていられないから、前回を知る人なんてほぼほぼいないんだろうな……。
……ん…?というか……。
「37……?それって前の時は割と知ってる人多いんじゃ…?」
「かもね。前回は一日後にずれて、4日が節分だったらしいけど」
「へー…。でもなんで…??」
「んー……ちょっと面倒くさいんだけど、簡単に言えば地球の一年が本当は365日より数時間だけ長いはずってことが原因かな」
「長い…?」
「うるう年とかって、その影響で四年に一回あるんだよ」
「あ、なるほど。ずれた数時間を元に戻すためってことか」
「そういう事。毎年のズレは六時間弱だから、確かに四年に一度なら大体一日。そうやって公転周期と合わせてきてるわけだけど…」
公転周期……。なんだろう、これはもう授業とかと変わらない状況になってないか…?
聞いてるだけなら楽しいけど、これがテストに出るとか言われたら途端にやる気をなくすのはなんでなんだろう。
「まぁ、難しい事は考えなくていいと思うよ?たまにズレる事があるんだなー、くらいで」
「うん、まぁ、そう、だけど……」
「ちなみに次は四年後だけどね」
「うるう年と同じになってない!?」
珍しい事だから、一生にそんなにないと思ってたのに…!!
むしろ希少性が今一気に落ちたよ…!?
「むしろそのうるう年が途中にあるから、またズレちゃうんだけどね」
「えー……」
整えてんだか狂わせてんだか、分からなくなっちゃってるじゃん……。
「ちなみに二年連続で2日が節分になる年も今後出てくるらしいよ?」
「もはや3日だと認識してること自体間違いな気がしてきた……」
「正確に言っちゃうと、確かに間違いかもね。立春の前日が節分なだけだし、もっと言えば太陰暦で昔の人は生活してたわけだし」
「あ、待って。もうなんか、難しい言葉はお腹いっぱいなんで……」
これ以上は、無理。
というかそういう事をなんで聖也くんが知ってるのかの方が、私としては謎だけど。
たぶんここ、あえてツッコんじゃいけないところ……。
だからもうとりあえず、いったんストップで。
むしろ私、それ以前に疑問に思って来たこともあるし。
聞いたら答えてくれそうだから、そっちを質問してみる。
「それよりも、なんで節分って豆まきするの?あれって何の意味があるの?」
だって、豆まきの必要性分からなくない?
そもそもなんで、豆…?
「う~ん……それ説明し始めると、長い上に諸説あるからなぁ……」
「え゛…」
「でも基本的にまくのは炒った大豆なんだよね。"まめ"っていう言葉を魔の目って書いて魔目って読めるから、魔を滅するっていう意味に通じる、とか」
「え、こじつけ」
「でも大体そんなもんだよ?あとちょっと違う方向からだと、五行説とか…」
「ごぎょうせつ……?」
なんかまた、難しそうな知らない言葉が出てきたなぁ……。
「うん、愛ちゃん。顔顰めないで?説明はしないから」
「……うん。そうして下さい…」
思わず頬っぺたに手を当てて、ちょっと顔のマッサージをしてみる。
私、そんなに表情に出してたかな……?
「まぁ結局、正確にはどれが正しいとか分からないんだけどね。何なら"鬼も内"とか言う地域もあるし」
「そうなの!?」
「割とあるみたいだよ?地名に鬼がつくとか、そういう理由で」
「そうなんだー…」
そんな事、ぜんっぜん知らなかった。
今まで興味もなかったから調べたこともなかったし。
「調べ始めると色々関わってくるから、芋づる式にあっちこっち見ちゃってね。だから変に知識が偏っちゃった…」
「いや、普通そこまで調べないから」
「でも気になっちゃって……」
恥ずかしそうに苦笑してるけど、そこ恥ずかしがる場所じゃないからね?
相変わらずちょっと天然だけど、まぁおかげでちょっとだけ賢くなった。本当に、ちょっとだけ。
そう、思っていたら。
「わっ…!!」
急に、聖也くんに腕を掴まれて引っ張られる。
「なっ…んぶ…!」
「ぐぇっ…!!」
私が聖也くんの胸に顔をうずめる格好になったと同時に聞こえてきたのは、男の人の情けなくうめいたような声。
「へぇ…?俺が隣にいるのに、見えなかったのかなぁ?突っ込んでくる馬鹿がいるなんて、思ってもみなかったよ」
「っ…」
聞こえてきた声は、普段とは全然違う冷たいものなのに。
学校の王子様なんて言われてる聖也くんらしくないのに。
ぞくぞく、した。
恐怖とは違う、何か。
同時に抱きしめられているのだと気づいて、心臓が煩いくらい主張を始める。
ドキドキして、仕方がない。
「ねぇ。まだ向かってくるつもり?邪魔なんだけど」
待って待って…!!何だその言い方!?なんだそれ!?
聖也くんらしくない、冷たくて邪険にする言い方、とか……。
は……初めて聞いた……。
「ひっ…!!ご、ごめんなさいいぃぃ!!」
あ、逃げてった。
見えないのでどうなっているのかは分からないけど、走り去る足音と情けない声だけは聞こえてきたから。
きっと撃退されて、さらに怖くなって逃げ出したんだろうな、と。冷静に考えられる部分がある一方で。
「愛ちゃん…?」
「っ…!!」
ぞくぞくして、ドキドキして、顔が赤くなってるから……。
しかも外でこんな風に抱きしめられるなんて、恥ずかしすぎて……。
「どうしたの?大丈夫?」
心配そうに声をかけてきてくれているのは分かってるんだけど…!!
「ううぅぅ~~~~……」
「愛ちゃん…?」
真っ赤になってるだろう顔を見られたくないから、代わりにぎゅーっと抱き着いて。
「聖也くん……そういうの、ずるい……かっこいい……」
そう、答える。
だって…!!反則でしょ!あんなの!!
なんなのこの人!!ホントにカッコ良すぎ…!!
「……愛ちゃんにそう思ってもらえたなら、嬉しいなぁ。ありがと」
「こっちこそ、ありがとう、だよ!その……守ってくれて、ありがとう…」
実際私は全く気付いていなかったから。
気付いていれば自分で対処できたかもしれないけど、そうじゃなければ怪我してたかもしれないわけで。
こういう時、本当にありがたいと思う。
「節分で追い出された鬼が、今は外にいっぱいいるのかもね。暦の上だと明日から春だし、気を付けないと」
「ん。気を付ける」
春は変な人が多くなるから、ってことだよね。
そう思って答えたのに。
「愛ちゃん、違うよ?今まで以上に、俺の側から離れないでねっていう意味」
「っ…!?そっ…!!」
そんなこと、耳元で囁くか…!?
なおさら顔上げられなくなるでしょ…!?
「ね、愛ちゃん。帰ろっか。あとそろそろ、その可愛い顔見せて?」
「そ……そういうこと言うー!?」
「言うよ?だって今の愛ちゃん、すっごく可愛い顔してるから。だから早く帰って、一人占めさせて?」
「うううぅぅ~~~~……」
「ふふ。行こっか」
渋々顔を上げて、それでも睨みつけた先で。
それはそれは上機嫌な聖也くんが、優しい目をしてこちらを見ていましたとも。えぇ。
さらには手まで繋がれて、そのまま歩き出しちゃうから。
なんとなく、隣に並ぶのは恥ずかしくて。
ちょっとだけ後ろを、手を引かれながら。
あと少しの道のりを歩き続けた。
今日が節分なのだと、数日前に知って急いで書き上げました。
なので見直しとか推敲とかしてる暇もなかったので、どこか間違ってたら教えてください…!!
ちなみにちょっとだけ甘さは控えめ。
今月は甘い日が控えていますからね…!!甘いのはそっちで思う存分やってますので…!!
なのでマメ知識回として、この程度の甘さでお許しください~…。




