一年で一番寒い日
「さっむぅ~~っ…!!」
昨日の夜の予報で、確かに今日は冷え込むって言われてたけど。
想像していた以上に、寒い。
「愛ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だけど寒いぃぃっ」
これでも防寒はちゃんとしてるけど、一番のネックはスカートだと思うんですよ。
なんてったって制服。いくら冬服でも、スカートはスカート。そりゃあそこ空いてれば寒いよねっていうのは、もうどうしようもない。
「なんでこんなに寒いの~~」
「今日は大寒だからねぇ…」
「だいかん……?」
「一年で一番寒い日だよ。大寒の前後くらいの一か月が、一番寒いって言われてるの」
「へぇ~、そうなんだ」
相変わらず博識な聖也くんは、そう言いながら私の頬っぺたを触って。
「っ…!?」
「あぁ、うん。確かに冷たくなっちゃってるね。一応ホッカイロ持ってるけど、いる?」
「いるっ!!」
鞄からスッと取り出される赤いパッケージ。
張るタイプじゃないのが、今はむしろありがたい。
「大寒過ぎたらあったかくなってくるはずなんだけどね。もうすぐ春の草花が見れるようになると思うよ」
「植物ってすごいよねぇ。何でそんなこと分かるんだろ」
「ね。不思議だよね」
袋から取り出されたホッカイロを受け取りながら、並んで歩く私たち。
こんな寒い日でも歩いて登校なので、時折強く吹く風に体が凍える。
「うぅ~~……」
「ここが外じゃなかったらなぁ…。愛ちゃんを抱きしめてあっためてあげられるのに」
「恥ずかしいからやめてください……」
「うん。だから外ではしない。愛ちゃん真っ赤になっちゃうもんね?」
たぶん聖也くんは、そういう事気にしないんだろう。私がいいよって言えば、本当に遠慮なく抱きしめてきそうだ。
でも私は無理…!!流石に外では恥ずかしすぎて、そんなバカップルみたいなこと出来ないの…!!
「俺も愛ちゃんの可愛い顔他の人に見せたくないから、ちゃんと外では我慢するよ?」
前は我慢してなかったくせに!!人前でキスしてきたくせに!!
確かに今はそういう事もなくなったけど、その代わり二人の時には遠慮がなくなってきてる気もする。
気のせいだと思いたいけど、たぶん気のせいじゃない。
別に、いいけど。
「でもそんなに寒そうにしてるの見てるの、流石に嫌だなぁ……。特に女の子の制服って、足元寒そうだもん」
「あぁ、うん。確かにスカートはね、寒いよね」
さっき思ってたことを言われて、素直に同意する。
「なんで制服って、冬服ズボンじゃないんだろうね?女の子は特に体を冷やしちゃいけないのに、学校指定の制服が一番体冷やす格好だと思うんだけど」
「確かにねー。冷え性が多いのに、余計に冷えるのどうにかした方がいいと思う。せめて選択式にしてくれればいいのに。スカートかズボンかって」
うちの学校は女子の指定ズボンとかないから、どうしたってスカートを履くしかないんだけど。
もしかしたら世の中には、そういうのがある学校もあるのかも。もしくは冬場に限りズボンオッケーとか?寒い地域ならなおさらありそう。
「タイツは校則違反なんだっけ?」
「んー?どうだろ?もしかしたら有りなのかもしれないけど、なんかあれはあれで寒そうじゃない?薄くて」
「そうなの?俺はそういう事よく分からないから、何とも言えないけど……」
そりゃそうだ。
とはいえ私もタイツなんて、薄手のものしか持ってないし。
もしかしたらデニールを変えれば厚手のあったかいのもあるのかも?今度探してみるのもありかもしれない。
「あ、じゃあさ。くつ下に貼るホッカイロとかは?足湯とかでも体結構温まるし、もしかしたら結構効果あるかもよ?」
「それいいかも!ちょっと後で調べてみる!!」
確かにそれは名案かもしれない。
とはいえ我が家にはそんなものはないので、探してよさそうなのがあったら親に帰りに買ってきてもらうしかないんだろうけど。
でもそれで多少はこの寒さも解消されるだろうし、それならオールオッケーじゃん!!
とか思ってちょっと機嫌が良くなっていた私は、見事に次の瞬間固まることになった。
もちろん、聖也くんの一言で。
だって……。
「今日学校から帰ったら、一緒にお風呂入る?」
なんて言い出しやがったんですよ!?
急に何事!?!?
「は……?」
思わず足を止めて、女子の平均身長よりも高いはずの私が、さらに男子の平均身長よりも高い顔を見上げたら。
「あれ?だめ?」
なんて。小さく首を傾げてきて。
え?なにこの人?自分が何を言ってるのか、分かってないの?ねぇ、分かってないの?
あまりにも自然すぎるから、私がおかしいのかと一瞬考えそうになって。
でもどう考えても聖也くんの発言の方がおかしいと、ちゃんと正常な思考を保つ。
「いや、え……何言ってるの…?」
「え?だから、お風呂。足だけでもあっためたら違うかなって」
「え?足?」
「そう、足。たらいとかにお湯ためて、足湯したら少しはあったかいかなーって。だめ?」
…………足かああぁぁっ!!!!
なんだそれ!!紛らわしいわ!!
というか、言葉が足りない!!圧倒的に足りてなかった!!
「……聖也くん、さ…」
「ん…?」
「ド天然なのはよく分かったから、もう少し考えて発言して?」
「え?なんで?…というか、俺別に天然じゃないよ?」
「天然だから!!明らかに!!間違いなく!!天然だから!!」
紛らわしい言い方したことに一切気づいてない時点で、天然としか言いようがない…!!
この後も少しだけ言い合いしながら、学校までの道のりを歩いたんだけど。
会話に夢中になってたおかげか、あんまり寒さは感じなくなってた。
……まさか、それが目的だったとか…ない、よね……?
教室に着いてからふと、本当に聖也くんのあれが天然発言だったのか、それとも狙ったものだったのか。
悶々と考える羽目になった私は、結局友達から声がかかるまで一人悩むことになった。
今年の大寒は、本日1月20日だそうです。
大雪で大変な地域もありますが、そうじゃなくても寒さにやられないよう、暖かくして過ごしてください。




