最初で最後のクリスマス制服デート
別に、特別でもなんでもないのがクリスマスだった。
毎年家で、家族と一緒にちょっと豪華な夕食を摂る日。
ただそれだけの認識に近かったのは、俺にとっての特別が愛ちゃん一人だけだったから。
でも、だからこそ。
今年は、違う。
「ねぇ、愛ちゃん。今日クリスマスだし、折角ならデートしない?」
そう朝の登校時に声をかけたのは、丁度今日が終業式だったからというのもあるけど。
それ以上に、一緒に制服でクリスマスデートなんて。
今日を逃したら、一生ない事に気付いてしまったから。
ただの制服デートだったら、まだこの先も出来る可能性はある。
でもクリスマスという日でそれが出来るのは、俺が卒業する前のこの日しかない。
今まで経験できなかったことを、愛ちゃんにいっぱいさせてあげたい。
公園の湖を見ただけで嬉しそうにしていたこの子は、当然ながらクリスマスに出歩いたことなんて一度もないから。
でも今日は平日。
学校も午前中で終わり。
それならデートスポットが人で溢れかえる前に、大人たちが仕事をしている間に、この子と特別な日の雰囲気を楽しむのもいいんじゃないか。
そう、思ったから。
「行く!……あ、でも…午前中で終わっちゃうよ?」
「うん。だからお昼も外で食べようかなって。暗くなるのも早くなったし、最後にイルミネーションだけ見て遅くならないうちに帰れば大丈夫でしょ?」
暗くなるのが早いからこそ、遅くならないうちに帰れる。
そうすれば変な男に会うこともないだろうから。
まぁ、そんな男が愛ちゃんに近づくなんてこと、俺が許さないけど。
でもあまりにも午後が楽しみ過ぎたせいなのか。
「お前、今日この後お姫様とデートだろ」
なんて、友人にはちょっと呆れたような顔で掃除中言われてしまった。
その通りなんだけどね。流石に顔に出過ぎてたかな?
ただ分かってくれていたおかげで、少し長引いたHRの後の挨拶は手短に済ませてくれたから。
まぁ、良かったのかな?
「……あと三か月かー…。なんか寂しいなぁ…」
愛ちゃんを教室に迎えに行って、昇降口へと向かう廊下の途中で。そんな嬉しいことを言ってくれるから。
だからつい、来年の話までしてしまったんだ。
でもさすがに、ちょっと急すぎたかな?
今まで行けなかったのは近場だけじゃないから、例えば車で行って日帰り旅行とか。何なら一泊してもいいくらいだし。
そういう事を、これからもっともっと経験させてあげられたらなと思っていたけど。
まぁ、うん…そうだよね。
そんなこといきなり言われたら、困るよね…。
それよりも今は、今日のデートをどうするかの方が大事だもんね!
「あ、ところで愛ちゃん。お昼何食べたい?」
そういえば聞いてなかったことを思い出して、まだ靴を履き替えてるのを分かっていて聞いてみる。
実は前々から気になってたところがあるんだけど、もしも愛ちゃんがイタリアンの気分じゃなければ別のところにしようと思って。
けど……
「ん~~!おいっしぃ~~!!」
「それならよかった」
生パスタも窯焼きピッツァも気に入ってくれたみたいで。
ずーっと幸せそうな顔で頬張る姿を見れるだけで、連れてきて良かったなと思う。
ホント、こういう時の愛ちゃんは無防備ですごく可愛い。
「特にこの生地凄いよね!薄いのにもっちもちで!」
「だね。ソースとチーズもくどくないから、一人で一枚食べられちゃいそうだよね」
「ね!」
鼻歌でも歌いだしそうなくらい上機嫌な姿を外で見られるなんて、本当に珍しい事だから。ここはリピートしようと決めた。
また今度デートの時に、こっちに来ることがあったら利用しようかな。
近くに駐車場もあったし、来年とかはここでランチでディナーはもう少し先のホテルとかでもいいかも。
なんて。
来年の事はまた来年考えればいいか。
「ん~~っ!」
今は愛ちゃんとのこの時間を楽しまないとね。
この後は愛ちゃんに似合うだろうと思ったチョーカーを見に行って。
きっと愛ちゃんも気に入ってくれるはずだから、クリスマスプレゼントにと思ってたし。あのくらいの値段なら、きっと受け取ってくれるからね。
あんまり贈りすぎても、本当にあげたいものを受け取ってもらえなくなっちゃうから。
でもまぁ結局、俺が勝手に買って来ちゃえば愛ちゃんは受け取らざるを得なくなるんだって知ってるんだけどね。
それは本当に高い物の時だけって決めてるから。
実際ネックレスはそうやって受け取ってもらったわけだし。
ここぞという時にしか使わないようにしないと、ね。
だから。
「う~~……」
「それ一個じゃ足りないなら、他にも何か買おうか?」
「いいです…!!むしろ時間以外のプレゼントもらう気なんてなかったのに…!!」
「でも俺がどうしてもつけてもらいたかったから。ごめんね?」
「うぅ~~……聖也くんのそういうとこ、ずるい……」
…………うん……俺がずるいことは百も承知なんだけど、さ…。
それよりも俺はむしろ、愛ちゃんのそういう所がずるいと思うんだ。
なんでこんな外で、そういう可愛い顔するかな?
キス一つ出来ないのに。
ちょっと頬を膨らませて上目遣いに見上げてくるなんて、本当にずるいと思うよ?
だから、ね。愛ちゃん。
「私、何にもプレゼント用意できてないのに……」
もうちょっと、ずるい事しても……いいかな?
「じゃあさ、愛ちゃん」
「ん?」
「今日帰ったら、俺のお願い一つだけ聞いてくれない?」
「お願い?うん、いいけど……今じゃダメなの?」
「だーめ。だってここじゃあ……」
そこまで言いかけて、ふと思いついた。
ゆっくりと人差し指を口元に持っていって、指で唇を触りながらゆったりと微笑んで見せる。
あくまで表情は優しく、優しく。
でも。
瞳だけは、愛ちゃんをまっすぐ見つめて。
胸の中に灯った熱量を、隠さないまま。
「っ…!!」
その瞬間、俺が言いたい事が分かったんだろう。顔を真っ赤にさせて、金魚みたいに口をパクパクさせる。
「ふふっ…。だから、ね?帰ったら俺にもプレゼント、ちょうだい?」
「ぁぅっ……。ぅぅ………………う……うん…。いい、よ…?」
恥ずかしそうに俯きながらも、小さな声で小さく頷いてくれる。
それが嬉しくて、思わず笑みが零れてしまったけれど。
残念ながらというべきか、幸いなことにというべきか。俯いていた愛ちゃんには、その表情は見られることはなかった。
だから。
俺のお願いが何なのかを理解した上で、それでも頷いてくれただけでいいと思ってたんだけど。
「一緒に制服着て見れるのはこれが最後だけど、来年もまた一緒に来ようね?」
そう言った俺に。
「でも来年だけじゃなくて…毎年、一緒に見たいな」
なんて、返してくるから。
ごめんね?愛ちゃん。
たぶん俺、家に着いたら我慢できないから。
今日はめいっぱい、愛ちゃんを堪能させて?
俺が満足するまで。
キス、やめないから。
ちゃんと、付き合ってね?
聖也くんバージョンでした!
結局キス魔になるのは、もはやこの二人のオチなのだろうか……。
何はともあれ、2020年のクリスマス小話はこれで終了です!
この二人の続きは来年になるので、またイベントの季節にお会いいたしましょう!
ではでは、一足お先に。よいお年を~!!
(※他連載作品の更新は、年末年始関係なく曜日通りになります)




