クリスマスは制服デートで
ハッピーメリークリスマス!!
十二月二十五日。
今日は世の中はクリスマスだけど、私たちにとっては大掃除と終業式の日。
いつも通りの時間に登校して、午前中に大掃除だけしてから終業式とHRで終わり。
明日から冬休み~。
の、はずだった。
例年通りなら。
「ねぇ、愛ちゃん。今日クリスマスだし、折角ならデートしない?」
「……デート…?」
それ自体は変じゃないよ?だって、その……わ、私と聖也くんは恋人同士、だもんねっ。
でもこんな日にデートなんて、珍しい。
人が多いのなんて分かり切ってるのに、わざわざ聖也くんの方からそんな提案なんて……。
「うん。ほら、来年の三月にはもう俺卒業でしょ?こうやって同じ学校の制服着ることだってなくなっちゃうし、折角なら一度くらい制服デートしてみない?」
それは、確かに……。
「今しか出来ないこと、でしょ?制服着てクリスマスデート出来るのって、今日が最初で最後だし」
もしかしたら、これも今まで私が出来なかった経験の一つだから提案してくれてるのかもしれないけど。
最初で最後、なんて言われたら。
乗らないわけには、いかないでしょう?
「行く!……あ、でも…午前中で終わっちゃうよ?」
「うん。だからお昼も外で食べようかなって。暗くなるのも早くなったし、最後にイルミネーションだけ見て遅くならないうちに帰れば大丈夫でしょ?」
確かにこの時期は、五時でももう暗い。
そう考えると、イルミネーションを見て帰ったとしても六時台には家に帰れるだろうし。
会社に行ってる人たちとすれ違うかどうかのギリギリの時間だろうから、人が溢れかえらない内に帰宅できるちょうどいいタイミングなんだろうな。
何より、その提案は凄く魅力的で。
「愛ちゃんの今日の午後の時間を、プレゼントとして俺にちょうだい?夕方まででいいからさ」
「じゃあ私にも、聖也くんの時間をプレゼントしてくれる?」
「もちろん!」
こうして、学校終わりの制服デートが決定したわけだったけれども……。
「愛ちゃんお待たせ。行こっか」
「うん!じゃあまた休み明けにね!良いお年を!」
「はいはーい。よいお年を~。あとデート、楽しんできてね~!」
「はーい」
一緒に教室で聖也くんが来るまで待っていてくれた友人にそう返して、私は聖也くんの隣に並ぶ。
「三年生は、やっぱりちょっとHR長かったね」
「まぁねー。先生たちもこの時期は色々忙しい上に、気を張ってるだろうからね」
「……あと三か月かー…。なんか寂しいなぁ…」
一緒に学校に通えるのが当たり前みたいになってるからこそ、来年の四月からはそうじゃなくなるなんて。
なんだか実感が湧かない気がするのに、その未来を想像するとすごく寂しくなって。
「ん?うん、まぁ、学校は違うけど……でも俺、愛ちゃんの送り迎えは続けるつもりでいるよ?」
「……ん…?」
「だって一人で登下校なんて、そんな危ない事させられないでしょ?だからちゃんと、俺が迎えに行くまで待っててね?」
「……来るの…?高校に…?」
「え、もちろん。むしろ早く免許取って、車で送り迎え出来るようになるから」
「んん…!?」
「そうしたら遠出も出来るようになるし、今まで以上に色んな所に行けるね!」
「…………」
ねぇ、それ……そんな無邪気な顔して、いう事なの…?
いや、まぁ、その…聖也くんのことだから、本当に何の他意もないんだろうけどさ。
普段の登下校にまで車…?私車で通学するの?高校に?
それ、確実に目立つよねぇ…!?
「うん…え、っと……とりあえず、色々置いといて……車での登下校は、さすがに……」
「大丈夫!ちゃんと近くの駐車場に車置いてからだから!」
「……この近くって、駐車場あったんだ…」
「俺たちの家の方向じゃないけどね。探したらあったよ」
…………おっかしいなぁ……私今、来年の話してるんだよね…?
なんでこの人既に、実現する前提で色々検索済みなんだろうね…?
わっかんないやー。あっははー。
……ってことに、しておこう。うん。
なんかこれ以上この話題広げちゃいけない気がした。
そしてそれはきっと、間違ってないはずだ。うん。
「え、っと……とりあえず、靴、履き替えてくるね?」
「うん」
ちょうど下駄箱のところだったし、これで一度話題をリセットしてもおかしくはないはず。
うん、きっとそうだ。そうに違いない。
だから私が急に違う話題を提供しても……。
「あ、ところで愛ちゃん。お昼何食べたい?」
向こうから普通に話題転換された。
いや、いいけど……。
ひょっこり下駄箱の向こうから顔を覗かせてるけど、偶然それを見た隣のクラスの子が固まっちゃってるよ?
ねぇ、聖也くん。
いい加減、学校では王子様だって言う自覚、持とう?
「んー……とりあえずなんかあったかいものがいいなー」
でもここで私が時間を取れば、ますます大変なことになってく。
今までの経験上それを知ってるから、何事もなかったかのようにその場を通り過ぎて。
とにかくこの学校の王子様を、一刻も早くこの場から退場させないと。これ以上の被害が出る前に。
「じゃあ気になってたイタリアン行ってみてもいい?」
「いい、けど……制服で行っても大丈夫なところ…?」
「トラットリアだから大丈夫!値段もそんなに高くないけど、手書きの看板がすごく凝ってて可愛いんだよ。生パスタもあるし」
トラットリアって…確か大衆食堂みたいな意味だったよね?
まぁ、うん。この格好で行けるお店だって聖也くんが言ってるんだし、たぶん大丈夫なんだろうけど。
こういう時にチェーン店選ばない辺りが、何とも聖也くんらしい。
「そこでご飯食べて、少しウィンドウショッピングでもしに行かない?何なら本当のショッピングでもいいけど」
「いや、いいです。ウィンドウで十分です」
「えー、残念。この間愛ちゃんに似合いそうなチョーカー見つけたんだけどなー」
「最初っから買い物する気だったんじゃん!!」
「でも愛ちゃんが気に入らないようなら、俺は別に買わないよ?」
「見るのは決定事項なんだ!?」
「うん。見るだけ見て欲しいかなー」
呑気に言ってる場合か!!
ってか、これ確実に私も気に入るようなやつだ…!!
聖也くんほど私の好みを知ってる人はいないから、きっと一回見たら気に入る自信があって誘ってるんだよこれ…!!
そうは思っていても、結局連れていかれちゃうんだろうなぁ…。
もはやそこは諦めの気持ちで、早々に頷いておくことにした。
「分かったよ、もう…。でも本当に、一応だからね?一応」
「うん、それでいいよ。見てくれるだけで十分だから」
にこにこにこにこ、笑顔が崩れる事のない聖也くんは本当に嬉しそうだけど。
これあれだなー。なんやかんや理由をつけて、クリスマスプレゼントという名目で何かを贈りつけてくるんだろうなー。
だったらなるべく安いもので満足してもらおう、うん。
なんてことを考えていた私の思考は、次の聖也くんの言葉できれいさっぱり吹き飛んでいた。
だって。
「その後はちょっと休憩がてらコーヒーショップにでも寄ろうか。確か今の時期、抹茶フレーバーが出てたはずだから」
「え!抹茶!?」
クリスマスの時期だから、白と赤と緑が使われることはよくある。それは知ってる。
けど…!!
まさかイチゴじゃなくて抹茶で来るなんて…!!
「赤が多い時期なのに、珍しいよね?」
「うん!しかも抹茶って……コーヒーなのに…!?」
「あ、いや…コーヒーではなかったかも…?」
「あ、なるほど。それなら納得」
そんな他愛もない話をしながら、家とは逆方向に歩いていく。
予定通りに、聖也くんが気になっていたイタリアンのお店でご飯を食べて。
あ、生パスタも美味しかったけど、窯で焼いたピッツァも生地は薄いのにもちもちで美味しかった!
それからウィンドウショッピングに行って。
当然のようにチョーカーは私へのクリスマスプレゼントになりましたよ。えぇ。
だって…!!シンプルだけどすごく可愛かったんだもん…!!気に入っちゃったんだもん…!!
悔しいけど聖也くんの見立ては正しかったよ…!!
「あったか~い…」
「流石にこの時間になると、やっぱり急に気温が低くなった気がするね」
「日が落ちるとどうしてもねー」
「テイクアウトにして正解だったね」
「ね!美味しいもの飲みながらイルミネーション見れるって、こんなに幸せだったんだね」
「……うん…。でも俺は、愛ちゃんと一緒にいられればそれだけで幸せだけどね」
「っ…!!」
あ…あっぶなぁ~……危うく飲み物零しかけたんですけど…!?
そういう事をさ!?不意打ちで言うのやめない!?
お店が割と混んでたのもあって、じゃあ飲みながらイルミネーション見て帰ろっかって話になったところまではいつも通りだったのに…!!
今日はこういうのないと思ってたのに…!!
「一緒に制服着て見れるのはこれが最後だけど、来年もまた一緒に来ようね?」
「う、うん……」
でも結局、この幸せそうな笑顔に私はどうやったって勝てないわけで。
だけど、やられっぱなしはなんとなく悔しいから。
「でも来年だけじゃなくて…毎年、一緒に見たいな」
「…!!」
周りもイチャイチャしてるし、こっちの事なんて気にもしてないから。
時には意趣返ししても、いいよね?
驚いたように目を見開いてこっちを見てる聖也くんに、してやったりと思った私は。
家に帰ってから、違う意趣返しが待っていることを。
この時はまだ、知らなかった。
ダイジェスト風になってしまいましたが、折角なので聖也くんバージョンも明日アップしようかなと思っています。
当初の予定では、なかったはずなんですが……。
割と書き始めると楽しくなってしまうのが、この二人では多い気がします。




