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11月11日、今日は何の日?

「ねぇ愛ちゃん、今日は何の日か知ってる?」

「え?今日?」


 いつも通り放課後我が家で宿題を終わらせて、部屋でのんびりしていた時にそんなことを聖也くんが突然言い出す。

 今日、って……11月11日でしょ?何の日……


「あ!ポッキー&プリッツの日!!」

「せいかーい」


 そう言いながら鞄から取り出したのは、二種類の箱。

 というか、なんで両方買ってるの?片方でよくない?

 あとどうでもいいけど、赤と緑って並ぶとなんか綺麗だよね。本当にどうでもいいけど。


「甘いのとしょっぱいの、どっちがいい?」

「どっちって……」

「あ、でも。ポッキーゲームって言うくらいだから、先に甘いのにしようか」

「……!?」


 その言葉に、なんだか嫌な予感がして。

 それなのにウキウキでポッキーの箱を開けて袋から一本取り出してる聖也くんは、その手を止めるつもりなんてきっと一切ない。

 思わず距離を取るために少し後ずさったのに。


「だーめ。折角だし、こういうお菓子会社の戦略に乗ってみるのも面白そうじゃない?」


 学校では王子様なんて言われているその顔が、今だけは悪魔の微笑みに見えた。


「わ、私はやらっ…ん!!」

「はい、ちゃんと咥えててね?離したり落としたりしたら…どうしよっかな?」

「!?!?」


 え、なになになに!?今日の聖也くんどうしたの!?なんかいつもと違うんだけど!?!?

 ちょっと待って!!なんでそんな意地悪そうな顔で、そんな曖昧なこと言うの!?!?


「チョコレートの方は愛ちゃんの分ね。あと、目を逸らすのもルール上ダメだから」

「んん!?!?」

「食べないで待っててもいいけど、そしたら俺遠慮なく全部食べちゃうからね?」


 いやいやいやいや!!そもそもポッキーゲームって、どう終わったら正解なの!?キスするための口実じゃないの!?


「じゃあ、スタート」

「っ!?!?」


 文句も疑問も何も言えないまま、反対側を聖也くんがパクリとくわえるから。私はとにかく唇を離さないようにしながら、必死で近づいてくる目を見続ける。

 見続ける、けど……。


「~~~~~~~っ」


 これ……恥ずかしすぎるっ…!!!!

 聖也くんはなんだか楽しそうに、けどなんかじわじわ食べてるし…!!

 すっごく意地悪されてる気分なんですけど…!?


「ふふっ」

「っ…!!」


 少しずつ近づいてきているその目が、嬉しそうに幸せそうに緩んで。

 ポッキーをくわえたまま器用に笑った声と、その表情に。

 私はさらに顔が赤くなるのを自覚するしかなくて。


「~~~~っ…」


 もういっそ、早くキスしてよ……!!







「…………ゆ…ゆめ……?」


 うそ、でしょ……?

 こんな夢、見る…?


「待って待って……じゃあ何で夢の中の聖也くん、あんなに意地悪だったの…?」


 私の聖也くんのイメージって、もっと優しいんだけど…?

 っていうか!!


「あああぁぁっ…」


 朝っぱらからなんっちゅー夢を見てるんだ私…!!

 よりにもよって彼氏とポッキーゲームする夢とか、欲求不満かよ!?

 不満なんて一つもないわ!!むしろちょっと過剰だわ!!


「あーもー…なんなのもー……」


 まだ起きるには少し早い時間なのに、完っ全に目が冷めちゃったじゃないか……


 ちょっと恨めしい気持ちも込めて時計を睨むけど、まぁそんなことしても何の意味もないわけで。

 結局そのまま起きて、早めの支度を開始しただけだった。




 そう、夢だったんだ。

 夢だから、言わなければいいだけの話だったのに……




「俺、愛ちゃんの夢の中でそんなことしてたの?」

「ぅ~~~~……」


 まぁ、隠し通せるわけないよね、うん。

 そもそも私が挙動不審になってたら、聖也くんが気づかないはずがなくて。


 結果。



 洗いざらい全て話すことになりました。



「確かに準備はしてあるけど…」

「何の!?」

「え?ポッキーとプリッツの。宿題終わらせて、今日はそれをお茶菓子にしようかなって思って。折角だし」


 その言葉を聞いて、思わずまじまじと顔を凝視してしまう。

 まさか、夢と同じ事をしようと思ってたとか言わな…


「うん、そんなに心配しなくても大丈夫だから。俺、流石にそこまで意地悪じゃないよ?」

「はっ…!!だ、だよね…!?」


 つい焦ってそう言えば、ちょっと苦笑した聖也くんが頭を軽く撫でてくれる。


「確かに真っ赤になってる愛ちゃんは可愛いだろうけど、そもそも俺ポッキーゲームとかやったことないし、ルールもよく知らないし」

「っ…!!」


 前半…!!それを登校中に言うとかやめて…!!


「というか、あれってルールあるのかな?」


 なんて言いながら、小さく首を傾げるから。


「あったとしても、何を競うの…。どうせただの盛り上がりのためのゲームでしょ?」


 なんて、ちょっと冷めた言葉を返してしまう。


「気になるし後で調べてみようかな…」

「いい、けど……間違っても、クラスの人に聞いたりしちゃダメだよ?」

「流石にそれはしないかなぁ」


 忘れてはいけない。この人は学校の王子様なのだ。

 その人がいきなり「ポッキーゲームってどういうルールなの?」なんて誰かに聞いたなんてことになったら、それこそ大騒ぎになる。


 あと、もれなく私に被害が及ぶ。


 それはどうしても避けたいので、先に釘を刺しておいたけど。どうやらその辺りの線引きはちゃんとしてるらしい。

 ま、そりゃそうか。普通いきなり聞くような内容じゃないもんね。



 なんて思っていた私は、すっかり油断していたわけだ。


 だって聖也くんだもんね。調べて満足して終わり、なんてことあるわけないよね。



 でも、さ……



「チーム分けした対抗戦じゃない限りは、結局キスして終わりみたいだね。競う場合だけ、残ったポッキーが一番短かったペアの勝ちになるらしいけど」


 そんな説明を……わざわざ私の唇にポッキーを押し当てながらする必要、あります…?


「でもそれなら折角だし、一回だけやってみる?」

「な…!?」


 あっ、しまった…!!口開けちゃった…!!


 なんて思った私の予想とは裏腹に、ポッキーは口の中には入ってこなくて。

 けどなぜか目の前で、今の今まで私の口元にあったはずのポッキーを口に入れてる聖也くん。


「……!?」

「そんなに驚かれるとなぁ……。別に愛ちゃんが嫌がることをするつもりはないから、やらなくてもいいんだけどね?」

「い、嫌っていうか……」


 単純に、恥ずかしい。

 夢で見たあのルールは、どこかで見聞きしたことがあったのか割と本当だったみたいで。でもだからこそ、見つめ合ったままとか……恥ずかしすぎるじゃないか。


「ゲームとしての延長線上だったら、愛ちゃんの方からキスしてもらえるかなって思ったんだけど…」

「へっ!?な、なんで…!?」

「え?だって…俺の方からするんだったら、別にポッキーゲームしなくていいでしょ?」


 いつも通りなんだから、なんて。ちょっと不思議そうに首を傾げながら可愛く言うの、やめてくれませんかね?

 というか、なんかハードル上がったんじゃ…?


「でも無理はして欲しくないし。いつか愛ちゃんの方から素直にキスしてくれるの待とうかな」

「あぅっ……ぅぅ~~……」


 そう言われてしまうと、確かにこういう方法以外でというのは難しいかもしれない…。

 でも聖也くんは気にしてないみたいで、ポッキーを食べ終わった手で今度はプリッツに手を伸ばす。


 どうでもいいけど、甘いものとしょっぱいもの交互に食べると、無限に食べられるって言うよね?

 ってことはそれ、無限ループなんじゃ……


 なんて、現実逃避してる場合じゃない…!


 葛藤はあったし、恥ずかしいことに変わりはないけど。

 この機会を逃したら、なんだか本当に次なんてないかもしれないと思ったから。


「うぅ……もうっ…!!」


 えぇい!!女は度胸だ!!


「んっ!」

「……え…?」


 勇気を振り絞り羞恥を捨て去り、私はポッキーをくわえたまま聖也くんに向き直る。


「え、っと……いい、の……?」

「ん」


 くわえたままは喋れないから、そのまま頷くだけにするけど。

 あの……早くしてくれませんかね?このまま一人こうしてるの、これはこれですごく恥ずかしいんですが…!


「ん…?」

「あ…や、やるっ…!!」


 やらないの?と首を傾げてみれば、焦ったような声で聖也くんがそう言って。

 そのまま、反対側にパクリと食いつく。


「……」

「……」


 あ……ダメなやつだ、これ…。二人とも無言になるからめっちゃ恥ずかしい…!!


「~~~~っ…」


 それでも何とか食べ進める私の顔は、きっと、たぶん、確実に、赤い。


「ふふ…」

「!?」


 それなのに、ポッキーをくわえたまま一向に食べ進める気配のない聖也くんは、なぜかとても嬉しそうに笑うから。

 その姿が一瞬夢の中の聖也くんと被って驚いたけど、今は私が徐々に近づいていってるほう。

 サクサクと食べ進めて、口の中にチョコレートの甘さが広がるのを感じながら。チョコレートと同じくらい甘くてとろけそうなその瞳に、まるで吸い寄せられるように。

 ふわり、と。

 一瞬だけ、唇が優しく触れた。


「っ…!!んっ!ゲーム終わり!」


 知っているはずなのに、なんだかその感触が妙に恥ずかしくて。

 急いで唇を離して、そんな風に言い放つ。


「うん。……ふふ。やっぱり真っ赤になってる愛ちゃん、すごく可愛かった」

「なっ…!!」

「それに……嬉しいなぁ…。初めて愛ちゃんの方からキス、してもらえた」

「っ!!!!」


 そう言う聖也くんの顔は、本当に嬉しそうで、幸せそうで。

 文句を言おうとしていたのに、そんなこと言えなくなる。どうでも良くなる。

 そのくらい、満足げな表情だった。





 ちなみに。


 その後結局、キス自体はし足りなかったみたいで。

 お返ししなきゃ、なんて言いだした聖也くんに、いつもの通り足腰立たなくなるまでキスされました。


 部屋でじゃなきゃヤダって言った私、英断だったと思う。





 折角のイベントデーなので、この二人にやってもらいました!!

 現代ものの一番いいところだと思います。イベントごとを書けるのって。


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