tern3 荒ぶる神の社(後編)
振り返ったかえでを、朝霞はじっと見つめていた。
「レモングラス」
初めて彼女を見た時に感じた、イメージ。それを口にする。レモングラスはイネ科のハーブだ。酸味はないが爽やかな香りがレモンのそれとよく似ている。
「職業柄、人を見るとその人に合ったお茶やお菓子を想像する癖があるんです。レモングラスが、あなたのイメージでした。なぜでしょうね。ヨーコさんとおっしゃるあの女性や、あなたを見ているとレモングラスが浮かぶんですよ。人の手の入らない、自然なままのハーブです」
「ヨーコさん」という名を聞いた時に、彼女は少し驚いたように朝霞を見る。
「尋ねたい事はたくさんあるし、事情の説明もいただきたいのですが。僕が怒りを覚えている事は、伝えておいた方が良いでしょうね。消えた人がいる。少なくとも二人以上。まだ若い方ばかりです。親を、恋人を、友人を、待たせている方ばかりでしょう。ここで彼らが消えたままになれば、誰かが嘆きます。子を待つ親から。愛する者を待つ相手から。親しい間柄の友人から。その嘆きを背負う覚悟が、あなたにはあるのですか?」
「それは」と、彼女の唇が動いたような気がした。だが、朝霞は溢れた言葉をそのまま彼女に向けて言い放つ。
ここで、変なごまかしはいらない。
「あなたはそんな事はないと、僕らの意識をそらそうとしました。けれど、それは起きている。起こってしまっているのですよ」
自分で思った以上に、朝霞の口調は穏やかだった。
「あなたが全てを仕組んだのですか? それならば、何か理由があるのか。 答えていただきたい。ごまかしはなしで。何が起きているのですか、ここで」
じっと、かえでは朝霞を見つめている。嘘をつかない目だと、朝霞は思った。
きっと彼女は悪人ではない。でも、一連の出来事に関係がないわけがない。
「答えていただけないのなら、僕は怒ります」
「どうして?」
朝霞を見つめていたかえでの目が、伏せられた。その口元が、小さく緩む。
「どうして、私が仕組んだと思われるんですか?」
一度、ちらりと祠を見やり、ひとつ首を振るともう一度、その視線を朝霞に戻す。
「確認いたしました。男性がひとりと、女性がおふたり。彼らが自ら望んであちらに移動したわけではないのなら、事故だと考えるべきでしょう。良くない条件がいくつか、重なりましたから」
なぞめいた言葉だった。
どうやって確認したのか、そもそも彼女は何なのか。
それを、追求するべきなのか、朝霞は少し悩む。
「あなたがどう思っておられるとしても、私たちは人に危害を加えるつもりもなければ、特に深く関わるつつもりもありません。そうやって、ずっと保たれて来た、調和。それを無造作に壊すのはいつも、余所から来た旅人」
抑揚のない声で、かえでが告げる。
彼女は、「人」と「私たち」を分けて言った。それは、言い換えれば「私たち」は「人」ではないと言う事ではないのか?
だが、彼女が「何」であれ、自分の言葉を聞き、答えてくれている。だったら、今はそれで良いと朝霞は思った。
「迷い込んだ旅人は、異端です。秩序が崩れる前に、あるべき場所に戻さなければなりません。だからといって私に、何か出来るわけでもないのですが。これで、あなたの質問への返答になったでしょうか? 旅の方」
続いた自虐的な台詞と、あくまで無表情なかえでの容貌。
「それでもまだ言いがかりをつけられるなら、どうしてそう思われるのですか?」
朝霞は、小さく息を吐く。
「あなた自身がそう望んでいるから」
彼女は、眉を上げた。
「矛盾していますよ、かえでさん。あなたは最初から、人に対して侮りと嫌悪を抱いているような素振りを見せていた。隠しているようでしたが、見る者が見ればわかります。それでいてあなたからは、この変化のない日々を、誰か破ってくれと。そう誰かに叫びたいというような思いも見えた。すがりたいとでも言うかのように」
「よくもそこまで」
と、彼女が笑う。
「想像だけで、ものが言えるものですね」
呆れたような言い方に、朝霞は小さく笑う。
「ほら、そういう所。話のそらし方がぎこちなさすぎるんですよ。まるで、気がついてくれと言っているようだった。……あなたは僕に、疑ってほしかった。そうすれば、傷つく事ができる。おろかな者だとさげすむ事で、自分の心から目をそらせる」
何故か、彼女は軽く額を抑えていた。
「僕はお茶をいれるぐらいしか、能のない男です。あなたがどういう立場にいるのか、どんな役割を担っているのかわかりません。何を背負っておられるのかも。でもこれだけはわかります。滞る水は腐りますよ。ご存知でしょう。旅人は、旅人であるからこそ、変化をもたらす。それもまた、調和の内のもの。……変化をなくしたものは、滅ぶ。あとは朽ちるばかりだ」
ポケットから例の真珠色の珠を取りだし、彼女の手を取る。
「必要な物ではないのですか?」
珠を握らせると、彼女は小さく頷いた。
「それで、あなたは何を望んでいたのですか。僕に、何を言ってほしかったのです。……どんな言葉が聞きたかったのですか。教えて下さい。この期に及んでまだ、はぐらかしたり、誤魔化そうとするようなら、本気で怒りますよ。娘が待っているのでね。早く帰ってやりたいんです」
かえでは、手に持った珠と朝霞を交互に見て、途方にくれたような顔をしていた。やがて、笑い出す。
失笑や苦笑ではない。愉快そうに、くすくすと。
「参りました」
もう、笑うしかない。そんな笑い方だと、朝霞は思った。何がそんなに、彼女のツボにはまったというのだろう。
「本当で、人生相談したくなってしまった」
黒い瞳が、朝霞を捕らえる。その目が怪しく輝いたのは、一瞬の事。
「初めて見たわ。こんな人間。「この子が欲しい」と言いたい所ですが、やめますね。あなたに人生相談は、却下です。すごくばかばかしくなってきました」
小さく肩をすくめ、一度だけ空を見上げる。そのおもてに不安げな色が浮かんだのも、一瞬の事だった。
「かえでさん、はぐらかしはなしだと言いましたよね?」
「ええ。ですが時間がありませんので、社務所に戻りましょう。あなたにも力をお借りしなければなりません」
それは、彼女が社務所に居る面々に用がある事を意味する。自分が何をすれば良いのかも、きっとそこで聞けるだろう。
納得してかえでの後について行くと、思い出したように彼女が振り返った。
「朝霞さん、あなたのお子さまに、幸いある事を」
「あなたにも幸せがあるように。そう思ったのはホントです」
小首をかしげる、かえで。
「張ってばかりでは、どんな糸は切れてしまいますよ。のんびりしたくなったらうちの店にどうぞ。お茶を飲んで和んでいって下さい」
「それは……」
言いかけて、彼女は小さく首を振った。
「大きなお世話です」
そう言った彼女の笑みは、きっと彼女にとって至上の笑みだと、朝霞は思った。
― ― ― ― ―
「手水場に、神社の由来が書いたものがある」。
少年の言葉に、「手水場」を見に行くと、なるほど確かに一枚の絵があった。
三面六臂の化け物と、古代の鎧を纏った武者の姿が描かれている。
絵で見えるのは正面を向いている鬼の顔、武者を見ている人の顔だけだが、書き添えられた言葉に「三面の」と見えるので三面なのだろう。
書き添えられた言葉は、てっとり早く言えば、「かつてこの国を支配していた、三面の貌を持つ荒ぶる神が、大和の国より訪れし英雄により成敗された」という内容だ。「荒ぶる神」とやらが、この化け物で「英雄」が武者なのだろう。
そして、化け物は国を守る土地神になり、この地域を守っているらしい。
どっちかと言えば、英雄の方が「神」なんじゃないのか?
そういう詳しい経緯は書かれていない。残念ながら、この「物の怪の領域」から抜け出せるヒントにはならないようだ。
仕方がない。約束通り少年の珠を探そうと、周囲を見回した隼人の目が、光るものを捕らえた。
近づいてみると、それは小さな祠だった。光っているのは、その中に収められた、鏡。
太陽に鏡が反射しただけかと、苦笑して真面目に珠を探そうと思ったが。
なんだか、違和感のようなものに捕らえられ、もう一度、鏡を見る。
鏡に映るのは、鳥居。さっき自分達がくぐった鳥居だ。振り返れば、やや左の位置に鳥居がある。鏡も鳥居に合わせてやや右に傾けられている。
傾いているからか? それにしてもと、もう一度、位置を変えて鏡を見る。その時だ。
女の悲鳴が、静寂を破った。
氷月沙弥か、白雪ミコトのものだろう。隼人は慌てて、悲鳴の聞こえた方向に駆け出す。
そこには丁度、沙弥も駆けつけた所だった。では、悲鳴を上げたのはミコトの方か。てっきり何かあったのかと思ったのだが、本人が平気そうなので内心胸をなで下ろし、合流する。
近づくと、すぐにもうひとりの存在に気がつく。
白衣に緋袴、そして翡翠の色の髪飾りがやけに目を惹く。
巫女の姿をしている、女。では、この神社の巫女か? しかし、あの少年はこの場所を「もののけの領域」だと言っていたが。
隼人は、うろんな視線を見知らぬ女に向ける。
「あの、おねえちゃん……」
田中明と名乗った少年が、その女に話しかけた。
何かに気づいたように、自分の手と周囲を見回している。
「本殿の階段の上にあったわよ」
と、苦笑しながら告げる、女。
「駄目でしょう? 大事なものを置きっぱなしにしちゃ」
「だって、大事件があったんだ」
「そうみたいね」
そう言って、彼女は改めて三人を見回した。確認するように、小さく頷く。
「旅行者が三人。そういう事ですか」
歓迎されている風ではない。むしろ、迷惑そうだ。
「ここは、この世にあって人の世ではない場所。そこに迷い込むのは、いつも旅人。でも、あなた方は望んで来たようには見えませんね」
「そういうあんたは、望んで此処に来たような口振りだな」
状況の説明をするわけでも、自ら名乗るわけでもない女に、隼人はあきらかな不信感を抱いていた。
「私は、本来ここに在ってはならないものです。望んで来たのかと聞かれると、冗談じゃないと言いたい所ですが」
隼人らをどうするか、考えあぐねているかのように、女は少し考えた。ちらりと空を見上げ、眉を寄せる。
「皆さんがどういう意図でこちらに迷い込んだのか、どうしても確認する必要があったのでここに来ました。どうやら」
女は小さく息を吐き、少年を見る。
「思いがけない出来事が、重なったようです」
少年が小さく「ごめんなさい」と告げ、例のばらばらになった念珠を取り出す。
「やっぱり」
困ったように、女がもう一度嘆息した。
「あなたは、誰なのですか?」
やはり自己紹介をしようとしない女に、その言葉を告げたのは、白雪ミコト。「ああ」と女が小さく呟く。
「その子の遠縁にあたる者です。この辺りはごくたまに混ざる事があるのですが……私がその子にお願いした事が事態を悪くさせたのかと思い、確認しに来ました」
少年が、しゅんと項垂れる。
「あの」と、氷月沙弥が一歩、足を踏み出した。
「あなたはこの世界について色々と知っているようですけれど、今の私たちの状況をわかる範囲で説明してはいただけませんか? それで、できれば帰る方法、とか……。それと、あなたはどうして私たちが旅行者だと知っているのでしょう?」
「ここは、この世にあって人の世でない場所。結界に阻まれた場所。と、言っても信じてもらえないかもしれませんが。旅行者かどうかは、見れば解ります。たまに、自ら望んで迷い込んで来る迷惑な旅行者も居るのですが、あなた方はそうではないと判断しました」
なるほど、聞かれた事には答えてはくれるわけか。えらく上から目線だが。
と、隼人は思う。
女はしばらく考えていたようだが、やがて大きく息を吐いた。
「残念ながら、私にはあなたがたを元の世界に戻す術はありません。ただでさえ歪んでいるのに、四人も一度にとなると、どんな綻びが生じるのか、想像したくもありません。だから、自力で戻って頂ければと思います」
「それって」
氷月沙弥が乾いた声で言った。
「帰れないって事?」と、彼女の言葉は続くはずだったのだろうかと、隼人は思う。だが、沙弥はぷるんと首を振り、思い直したように女を見上げた。
「あの、あなたは私たちがいた世界にいらっしゃった方ですよね。どのような方法でこちらに? それにあなただけならば帰ることもできるのですか? 巫女姿のようですが、もしかして神通力とか……」
そこまで言って、やや言葉を濁す。
「そんな便利な力とか、あったらって、勝手な想像なんですけど」
しかし、それは出来ないと、女はさっき言っていた。
隼人は、ますます女への不信感を募らせていた。
彼女が言うように自力で帰れるとしたら、その可能性が有るのはあの茅の輪なのだろう。
あの輪を逆にくぐれば帰れる可能性があると、あの少年は言った。
だが、彼女の言う綻びとやらが今いるこの世界を危ぶめているのであれば、それで帰れると言う保証もないのだろう。第一、どのような仕組みになっているのか、綻びとやらがどう作用するのかが解らない状態で、その危険を冒すことは出来ない。
「それと、今までにも旅行者がいたみたいな口ぶりですが、その方々はどうやって帰ったのでしょうか? 私たちもその方たちと同じ道をたどれば帰れるのでは?」
沙弥の言葉を背後に聞きながら、隼人はそっとその場を離れた。
自力で帰れとは――どうやって迷い込んだのかも解らないし、大体あの巫女は遠縁の子供であるあの少年に責任があると言わなかったか?
隼人はそう思う。
幸い、聞きたい事は氷月さんが聞いてくれるようだ。後で話を聞かせて貰えば良い。
少年が少し前に言った「時間がない」という言葉が少しひっかかるが、それも今考えていても、仕方がない。
少年の事は、あの巫女さんに任せておけば何とかしてくれるようだし、だったら自分は気になっていた事を解決させようと、隼人は思う。
先ほどの祠に近づき、もう一度鏡を見る。
映っているのは、やはり鳥居。
今度こそ、違和感の正体が解った。
振り返ると、鳥居前に四人の人間が居る。氷月沙弥、白雪ミコト、少年、そして巫女。それが鏡に映っていないのだ。
そして鏡に近づいた隼人の姿も。
その上、風景もやや違ってきている。この鏡に映っている空は曇天で、しかもたまに稲光のようなものが映る。
見上げると、確かにバスを降りた直後と比べると空はやや曇ってきてはいるが、雷を起こすような雲までは出ていない。
不思議に思い、隼人は鏡を手に取る。
不意に、鏡に映る景色が歪んだ。と、思うと全然別の景色が映し出される。
それは、どこかの室内だった。同じバスに乗っていた乗客たちが、椅子に腰をかけている。寝ている者も居るが、起きている者の視線を辿ると――と、隼人が思うとその映像がややずれて、彼らの視線の先にひとりの巫女の姿が映る。
ちらりと、隼人が鳥居を振り返る。そう、あそこに居る巫女と、着ているものも、顔も同じ。違うのは、髪型のみだ。
鏡に映っている方は、長い髪を垂らしているが、あそこに立っているのは髪を結って髪飾りで止めている。
あちらの世界を写しているのか? 声は届くのか?
隼人は鏡に耳を近づけるが、残念ながら音声は聞こえて来なかった。呼びかけても映像に変化はないので、こちらの声も届いていないようだ。
これは、何だ?
鏡が祀られていた祠を見ると、「水明鏡」という文字が書かれていた。
鏡を裏返すと、かすれが文字が見えた。「映るもの即ち」「覗」「心」などという文字が読みとれるが、ひどくかすれている上に達筆すぎて全体を読みとる事は出来ない。
呆然と鏡を見つめていると、足音が聞こえた。
振り返ると、あの少年が隼人の後ろを通り過ぎて本殿の裏に駆け込む姿が見えた。
「今までにも旅行者がいたみたいな口ぶりですが、その方々はどうやって帰ったのでしょうか? 私たちもその方たちと同じ道をたどれば帰れるのでは?」
沙弥は、諦めきれずに巫女姿の女性に問いかける。
この人は、知っている。バスの中で見た。
そう、通り過ぎる風景の中に立っていて、そして不意に消えた人。
あの時は、幽霊かと思った。でも、またこの異世界で会うのなら。不思議な力を持っている人だと思って良い筈だ。
「ここは、結界によって切り離された場所なのです。だから、私も実体を送り込む事は出来ません。この姿は、影のようなものです。ですから、あなた方を元の世界に戻すことは、私には出来ません」
「そうだったんだ」
と、呟いたのは少年。
「迷い込んだ旅行者は、結界に拒絶され、少しずつ元の世界に戻るというのが常でした。ですが、悪い条件が重なっていて……」
そういえば、「旅人」は何らかの拍子にもとの世界に戻れると、その少年も言っていた。
だが、今回は何が違うのだろう?
「あきらくん」
呼ばれて、少年は彼の遠縁だと名乗った女性を見上げる。
「間違えたわけじゃ、ないでしょ?」
少年の動きが、止まった。
女は膝をついた。目の位置を少年に合わせ、彼の目を覗き込む。
「わざと、でしょう?」
じっと女性を見つめていた明少年が、いきなり顔を背けた。
そして、社殿に向かって走り去る。
「ああ!」
と、はじかれたようにその後を追ったのは、ミコトだ。
巫女の方は少年の行動に意表をつかれたように、立ちつくしている。
少年とミコトの姿が視界から消える前に、沙弥も慌ててその後を追った。
この不審な女性と、ふたりきりになるのが不安だったからだ。
沙弥が二人に追いついたのは、社殿の裏。
ミコトが少年にお願いをして、ブタのぬいぐるみを返してもらっている。
「おぶたさまあぁぁ」
と、ぬいぐるみを抱きしめる、ミコト。
貴女が追ったのは少年ではなくて、ぶたさんだったのねと、沙弥は苦笑した。
「ごめんなさい」
少年が、小さな声で呟く。
「え? どうかなさいました?」
「おぶたさま」を無事取り戻したミコトがやっと、少年に尋ねる。
走ったばかりで、まだ息は乱れていたが。
「ぼく、お姉ちゃんにどこにも行って欲しくなかったんだ。だから、道に迷ったら、お姉ちゃんが追いかけて来てくれるかなって思ったんだ。でも、僕のせいで、おねえさんやおにいさんが、か、帰れなくなっちゃって……」
再び泣き出す少年に、沙弥は正直うんざりしていた。相手は子供なのだからと思う自分と、男の子がぐじぐじ泣くな! と叱咤したくなる自分が同時に居る。
「わざと、迷ったの? どうやって? それに、きみは帰れる自信があったの?」
沙弥の声は、自分が思った以上に棘があった。
「お姉さん、どこかに行かれるのですか?」
反して、ミコトはいつものおっとり丁寧口調。
沙弥は、少しほっとした。
「あの念珠が壊れるなんて、思っていなかったんだ。僕のこと、守ってくれるって聞いていたから。だから、安心して……ついて行っちゃだめだって言われたモノに、ついて行ってしまったんだ」
「だったら」
背後から、別の声がかかる。
やっと追いついた巫女姿のあの女性が、そこに立っていた。
「やり直さなければね」
そう言って、女性は二人を見つめる。
「先ほども言いました。私にはあなた方を元の世界に戻す力はありません。だから、誰かの協力が必要になります」
― ― ― ― ―
まだ、たまに光っている窓の外をたまに見ながら、美智花はやがてうつらうつらとしていた。
お菓子でお腹もふくれ、気持ちもいつか落ち着いていた。隣に座る陽水にもたれ、目をつむる。
どれぐらい時間がたっただろう。
話し声と、なんだか緊張したような空気に、目を覚ます。
いつの間にか、朝霞とかえでが戻っていた。かえでの方は、先ほどまでと服装が違う。白い着物と赤い――ハカマっていうのだろうか。お正月に初詣に行く神社の巫女さんが着ている服装だ。
何で着替えたのかな? 不思議に思いつつ、美智花は他の人たちの会話を聞くともなしに聞いていた。
「あなたを見かけた時、私は人を捜していました。私が頼んだ用事で出かけた子供から、連絡がないので」
かえでの言葉は、裕に向けられたものだ。
「今日が日が良くないので心配していたのですが、どうやら心配した通りになったようです」
「今日って、大安じゃなかったかしら」
と、呟いたのは楢木幸助。思い出したように、朝霞に向かって右手を差し出す。
「そうそう、さっきの珠なんだけど、そろそろ返してくださる?」
「すみません。あれは、かえでさんに渡しました。神社……の関係者の方の物のようですので。彼女に渡しておくのが順当かなという気がして」
朝霞治はそう答え、かえでに笑みを向ける。朝霞のおじさんらしい優しそうな笑顔だなと、美智花は思った。
さっきまでとは、全然違う。二人でどこかに行っていたけど、何があったんだろう。
「これは、その時にその子が持たせたお守りの一部です」
かえでが、小さな珠のようなものを袖口から取りだした。
「元は一連の数珠だったのですが、それが壊れてしまい、その子は――さきほどそちらの方が言っておられた「神隠し」という言葉に似た状態に会った」
「そちらの方」のところで、かえでは陽水咲季を見た。
美智花もつられて隣に座る咲季を見る。
「推測でしかないのですが。ばらばらになった数珠はもう一度ひとつになろうとして、たまたま、側に居った力……「人」を呼び寄せたのではないかと、それが、皆さんが言う消えた人達なのではないかと、思います」
かえでの話は難しく、寝ぼけている美智花には理解できない。
でも、誰かがゆくえふめいになっちゃったのだなと、何となくそう思った。
「私があの子に頼まなければ、こんな事にはならなかった。そういう意味では、私が元凶なのでしょうが」
そう言って、かえでは窓の外を見る。同じようにそちらを見た美智花の目には、やはりたまにゴロゴロしている空が見えた。
「私は、ここから離れる事が出来ません。そして、迷い人は絶対に――」
今度は、隣に居る朝霞を見た。
「待っている人の元へ、送り届けなければならないと思います」
小さく頷いた、朝霞。
「力を貸して頂けませんか?」
「僕はいいですよ。尾咲さん一人じゃどうにもならなさそうですし」
最初に答えたのは、谷川裕。
「困った時はお互い様。こんな時は助け合って、困難を乗り切るのもいいと思う。僕で何か役に立てるなら、喜んで協力させて貰うよ」
続いて、陽水が答える。
「別に構いませんよ。 ところで私はなにをすれば良いのかしら?」
楢木もまた、頷く。
「お手伝いします」
朝霞が、そっとかえでの肩を叩く。
「面白くなってきたな」
後ろでそんな声が聞こえて、美智花は振り返った。
さっきまで眠っていた人が、大きく伸
「巻き込まれたんだったらもうタルいとか言ってられんしな。ヒロとかカマい奴とか知り合ったやつもいることだし乗り掛かった船が沈まれても困る」
その人の周りに、なんだか別の人影が見えたみたいなのだけど。
それはすぐに見えなくなったので、目の錯覚なんだと美智花は思った。
解らないけど、みんなでどこかに行くのかな?
「あの、私も」
みんながどこかに行くのなら、美智花も行きたい。
他の人たちはみんな寝ちゃってるし、まだお外はたまにゴロゴロしている。残されちゃうのは、怖い。
「私も行きます」
最後に美智花が言うと、尾咲かえでは笑った。
「ありがとう」
「あたしは、行かない。それで良いのよね?」
美智花が最後ではなかった。
後ろで寝ていたお兄さん――上谷秋紀のお友達のおねえさんが、そう言う。
「申し訳ないのですが」
と、かえでが言う。
「あーあ、面白そうなのになぁ」
そんな言葉を聞きながら。
美智花はさっきまで夢にみていたおじいちゃんの顔を思い出す。
美智花、もうすぐおじいちゃんの苺、食べに行くからね。
大変に、苦戦いたしました。
参加者の皆様、本当に申し訳ありませんでした。
多分、これで繋がってくれたと思います。
途中、ハッタリぶっこいてるかもしれません。
いえ、ぶっこいています。(ちょっとだけね)
だって、皆様のキャラクターがキョーレツで。
素で書くのが無理だった……。(すみません、すみません)
後は。(あとは)
ラストにむけて(むけて)
皆様、どうか力を貸してください。(お願い)