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ヒルデという女④

 ヒルデさんはもういいだろうと言って、ベッドから立ち上がった。

 それを見て亜麻猫さんは「どこに行こうとしているのかしら」と言ってヒルデさんを引き留める。


 ヒルデさんはこの村に来たばかりだ。村の中に行くあてはない。もしかしたらそのまま天界に帰ってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。だから僕は考えがまとまっていないが、自分の思いを話すことにした。


「ヒルデさん、すみません。さっき僕は嘘をつきました。口では命を懸けないと言いますが、凛姉の為ならまた命を懸けてしまうと思います」

「今更そんなことを言って、私をどうしたいんだ」

 ヒルデさんは僕を睨みながらそう言ってきた。彼女は目を少し赤くしていた。

 元々後に引く気は無かったが、その表情を見て僕は、尚更後には引けなくなった。


「どうしたいって……。文句を言いたいだけです。なんで僕が、粉雪さんやロナさんとヒルデさんの喧嘩の仲裁をしなくちゃいけないんですか。それに粉雪さんもロナさんも僕に後はヒルデさんのことを頼むとか言って……。あっ」

 僕はわざとらしく、演技がかったような言い方でそう言った。


「なんでロナもそんなことを頼むんだ?」

「知りませんよ。ロナさんも腹が立ったんじゃないんですか。女神様の思いに気が付いていながら、粉雪さんにあんなことを言ったから」


 前にロナさんに聞いた時に感じた、僕の女神様の印象は傲慢な人なのかなと思った。けれどヒルデさんの話を聞いて、少し可哀想な人という印象に変わった。

 それは侮蔑の意味ではない。おそらくだが女神様自身も今の、女神様の言うことに従うのが最高の幸せという天界の状況を変えたいのだろう。

 だから自分の思ったことを素直に口に出すロナさんを側に置きたいのだと思う。


 ロナさんが女神様のことをどう思っているかは分からない。

 ロナさんがヒルデさんに望んでいることは何だろうか。


 女神様の事が嫌いで、自分の代わりになってくれそうなヒルデさんに後を託したいのだろうか。いやそれはないだろう。ロナさんの性格的に嫌いな人の世話を同僚に丸投げしたりはしないだろう。それもあんなに楽しそうに話ができる同僚には尚更だ。


 だから僕は自身の意見をまとめることにした。もし間違っていたら、その時はその時だ。僕に任せたロナさんたちが悪いのだ。尻拭いはしてもらおう。


「女神様の思い?」

「そうです。女神様は全知全能を演じるのに疲れてるんじゃないんですか。多分ロナさんも同じことに気が付いているはずです。だからロナさんは女神様に突っかかっていくんですよ。別にそんな仮面を被っている必要は無いよと」


 これは僕が勝手に思ったことだ。ロナさんは自身が突っかかることによって、女神様の仮面を剥がしにいっているのだろう。

 もしかしたらそんなことは関係なしに女神様に突っかかっているかもしれない。けど今はそんなことは関係ない。僕はロナさんが女神様の事を思って突っかかっているのだろうと本心で思ったのだ。


「だから、ヒルデさんもロナさんときちんと細かいところまで女神様関係の話をしてみてくれませんか」

 これ以上僕にはどうしようもできない。そう思い、もうロナさんに投げようと思った。

 ロナさんが僕に期待していたことは話すことができただろう。

 

 僕がヒルデさんと話して過去の行いを反省すること。

 ヒルデさんが自分の気持ちに素直になれるように誘導すること。


 多分この2つを僕に望んでいただろう。だから後は粉雪さんの件だ。

 僕は1度亜麻猫さんに変わってもらおうと思い、彼女に話を振ろうとした時だった。


「その前に君の意見を聞きたい」

 ヒルデさんは僕の目を真っ直ぐ見て、そう言ってきた。


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