ヒルデという女③
「一般の天使たちはそう思っていると思う。けれど私には、どうにもそう思えないんだ。そもそも女神様が全知全能だという気がしない。」
「なんでそうだと思うんですか」
別にヒルデさんを疑うわけではない。けれど聞かない理由がないので聞いておく。
「それは、女神様が独り言を言っているのを聞いたんだ。『なんで都合よく解釈するのですか』と」
ヒルデさんがその独り言を聞いたのは、天使見習いから天使になったばかりで、親衛隊に入る前の時だ。その時は配属や階級が決まるまでの間、一時的に女神様の補佐官の付き添いという、一種のインターンシップ生みたいな扱いだったそうだ。
だから天空の間というところで、報告者の報告を女神様の近くで聞いていたそうだ。
その時の女神様は疲れていたのか、報告者が報告をしているのに、こっくりこっくりと船を漕ぎ始めていたそうだ。それを報告者の付き添いが女神様本人に強い口調で諌めたそうだ。
「女神様は自身の行いを恥じて、報告者に謝ろうとしていたんだ……。と思う。なのにそれを横についていた先輩天使が止めたんだ。『今の報告を女神様は聞かなかったことにしてやるということだ』とかなんとか言って、逆に報告者の付き添いを叱りだして」
実際ヒルデさんから見て、報告者の報告内容や、その場での態度はお世辞にも褒められたものではなかったそうだ。
あれはもう一度最初から報告し直したほうが良かった。だから先輩天使の言い分も分かる。
けれどヒルデさんは、先輩に同調は出来なかった。それは先の言葉を聞いたからだ。
“なんで都合よく解釈するのですか”
「私は耳を疑ったよ。だから女神様の顔を思わず凝視してしまったんだ」
「どんな顔をしていましたか」
「いつもの穏和な表情が曇っていたよ。ただ、報告者の付き添いが、先輩天使に意見をし始めたら元の穏和な表情に戻っていったんだ」
だからその報告者の方にヒルデさんは、心の中では同調した。
ヒルデさんは苦々しい表情で話を続けてくれた。その間に僕は1つ思うことができた。
「もしかして、その報告者の付き添いって」
「ああ。御察しの通りロナだ」
その言葉を皮切りに、ヒルデさんは苦々しい表情から、諦めといじいじとした雰囲気を纏った顔になり、言葉を繋いでいく。
「私はロナの事自体は好きだ。言いたいことを言い合える仲だと思っている。けどな女神様が絡んでくると話は別になるんだ」
「嫉妬ですか」
「ああ、あいつに魔法関係で負けても悔しいと思いはするが、それを糧に頑張ろうと思える。けれどあの時の女神様の顔を見たら悔しいなんてものじゃなくて、胸が張り裂けそうになった」
ヒルデさんはそう言った後、「いや、嫉妬ではないな。それより醜い感情だ」と言い直した。
「私はロナみたいに、他の天使の目を気にせずに意見を言う勇気はないんだ」
次回更新は12/31になります。




