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異世界生活、1日目終了

 ロナさんに引きとめられて後、僕たちは一緒に1階に降りた。依頼板を見たり、このあたりの地理の勉強をしたりするためだ。ただ結果から言うと、全然自由に行動がとれなかった。


 今は部屋に帰って来て、夕食を終え、のんびりしているところだ。今日はどっと疲れた。

 

 今日一日で色々なことがあったというのが大きい。ただ、今疲れている原因は、依頼板で何か手ごろな依頼がないかを見ていたら、他の冒険者たちがパーティを組まないかとしつこく誘って来たからだ。

 

 僕の実力は粉雪さんとの模擬試合で証明済みだ。彼らも自分の食い扶持を作るのに必死なのだろう。この宿の規定で依頼料はパーティ単位で渡される。そして取り分は自分たちで決めるということになっている。そして通例だが、武器の種類によって少し変わるが、みんなで均等に分けることになっているらしい。

 

 ロナさんはともかく僕はこの世界について詳しくない。ロナさんもどこまで知っているのかわからない。最初はパーティを組むのも悪くないかと思ったが、そういった事情で断った。

 

 絶対僕を頼って高額報酬の依頼を受けるに決まっている。そんなのはゴメンだ。

 

 僕たちもお金を稼ぐために依頼を受けるが、きちんと内容を吟味してから受けたい。ロナさんの試験の為でもあるが、僕にとっても大切なことだ。それに、1億稼いでも、天寿を全うしなければならない。つまり依頼で死ぬことは許されないのだ。1億稼ぎ終わったら、隠居生活ではないが、ほぞぼぞと暮らしたい。あの人たちと組んでしまったらそれも許してはくれなくなりそうだ。

 

 ただ、彼らも必死だった。断ってもそこを何とかと言ってくらいついてきた。

 風呂にまでついてこられ、きちんと休めなかった。


 なので、夕食は部屋に戻って明日の昼食用として保存していたおでんを食べた。卵が入っていて、ソーセージが入っていなかったのでポトフではないだろう。おいしかったが、一食分損した。


 まぁ、あまりイライラしていてもしょうがない。こういうときは別の事を考えることだ。と思ったが、机越しの目の前にはロナさんが座っている。彼女と話していたほうが建設的だ。


 なにか彼女と話す話題がないか、自分の記憶をたどってみる。


「そういえば、お金が後払いとか言っていたのはなんだったんですか?」


 ここを風俗と勘違いしていた時に、ロナさんは後払いがどうとか言っていたのを思い出した。多分、ここの宿泊料のことだと思いロナさんに聞いてみることにした。


 ロナさんは、あっ、といった表情を浮かべた。僕が聞くのを忘れていたように、彼女も言うのを忘れていたのだろう。


「宿泊料は一カ月単位で払うと言う意味です。一部屋、一日二食付きで六万Gです」


「高い……? いや?」


 正直六万Gが高いのか安いのか分からなかった。しかし文句を言える立場ではない。当分の間はこの村を拠点にお金を稼いで、この地方の中心地、主都ロマネに行こうと昼の間にロナさんとは話をしていた。


「一応、適正価格ではあるそうです」


「けど、酒代とか武器代とかって自費なんですよね」


 はっきり言うとワイバーンの翼も、命を懸けた割に報酬が少ないような気がする。それなのに、酒代から何から冒険に必要な物をそろえていては足が出てしまいそうだ。


「はいそうですね。ですけど、活躍していけば宿代が無料になるみたいです」


 それならある程度は頑張った方がいいのかと思ったが、宿代のために命を懸けるのはバカらしい。どうせ宿代をタダにしたのだから「もっと働け」と言われるに決まっている。そんなのはゴメンだ。


 ただ、この世界の娯楽は知らないが、お金はあったほうが良いに決まっている。三年で一億稼ぐと言っても休養は必要だ。この世界にも本ぐらいはあるだろう。魔法があるのだからそこまで高くは無いだろうし、数冊くらいなら買っても大丈夫だろう。


「ほどほどに活躍できるように頑張りましょうか」


「あなたなら大活躍できると思うんですが……。まぁ、これ以上は何も言いません」


 ロナさんは心底残念そうな顔で僕にそう言う。


 やっぱり三年で五億とか稼いだ方が試験の点数が良いのだろうか。けれどそれはロナさんの都合だ。

 ある程度は協力するつもりだが、死ぬのだけは避けたい。とりあえず今は、目線を反らして苦笑いを浮かべておこう。僕はそう思い、目線を部屋の隅にやった。


「あれ、あの星ってなんなんですか」


 僕の目線の先には星形の置物が置かれていた。そういえば最初に説明してもらった時にロナさんが、部屋の隅全部に置いて回っていたことを僕は思い出した。


「防音装置ですね。異世界とかの話をしようとしてましたから」


 それなら納得だ。僕は、それを片づけようとし始めたロナさんを制す。自室でくらいは外の事を気にせず暮らしたい。それにまた、他の人に聞かれたらまずいことを話すかもしれない。それならそのまま置いておいてもらった方が良いだろう。

 ロナさんはすでに1つポケットにしまっていたが、それを取り出して、また同じ場所に置いた。そのあとまたポケットに手を入れ携帯を取り出した。


「そろそろ寝ますか」


 僕が疲れているのを感じたのか、ロナさんがそう提案してくる。


「今、何時くらいですかね」


 この部屋には相変わらず時計がない。ロナさんの折り畳み式の携帯で今は時間を確認してもらっている。一応、時間の表記も地球とほぼ変わらないためだ。ちなみに僕のスマホは壊れてしまっている。


「10時15分です」


 少し早いなとは思った。ただテレビもゲームもないし、疲れているのでもう寝てしまおうか。


「寝ましょうか」


 本当は、姉のことを頼もうかと思った。しかし、今日は夜に神様と通信すると言っていた。

 おそらく僕に気を使わせないために、僕が寝た後に通信するのだろう。あれだけ真剣な表情をして、通信すると言った彼女だ。忘れてはいないだろう。

 この分だと明日も姉の様子を見ることはできなさそうだ。

 

 僕はベッドから少し離して布団を床に敷く。


「私がベッドで本当にいいのですか?」


 ロナさんは心配そうにこちらに聞いてくる。僕が疲れているのを気遣ってくれている。その証拠に、一緒に寝ましょうかとか言ってこない。そういう気遣いはできる人……。いや、神様と通信するからかもしれない。一応この思いは、明日まで保留にしておこう。


「たまには布団のほうがいいです。おやすみなさい」


 僕はそのまま布団の中に入った。


「おやすみなさい」

 

 ロナさんが、部屋の明かりに使っていたランタンの炎を、精霊さんに頼んで消してもらった。

 

 こうして僕たちの異世界での1日目が終わった。


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