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組み分け③

 僕はその言葉を聞いて意外に思った。

 武士は主の為に死ぬものだと思っていた。だから真面目で家の為の婿選びをするような粉雪さんもそういった考えを持っているものだと考えていた。

 それに粉雪さんの為なら死ぬこともためらいそうにない亜麻猫さんを側に置いている。


 どうやら溝田も僕と同じことを思ったようだ。僕より先に亜麻猫さんに質問しだした。

「そうなんですか?」

「意外に思った?」

「はい。かなり厳格そうな人だったので、試合運びにも驚きました。正道ではなくて邪道というかなんというか……」


 確かに試合内容だけ見れば、粉雪さんよりヒルデさんの方が武士としての戦い方をしていたような気がする。けれど邪道と言うのは違うと思う。

 あれはあれで1つの答えだと思う。邪道と言うのは人質を使ったり、闇夜で不意打ちをしたりすることだと思う。試合が始まったらだまし討ちでもなんでもありだと僕なら言う。

 現に僕も不意打ちをして粉雪さんに勝った。だから彼女の事をとやかく言う資格は僕にはない。


「まぁ、正道ではないわね。けどね、私も粉雪様も、戦いで1番重要視するのは勝ち負けより、命を繋ぐことなの」と亜麻猫さんは溝田の問いに答える。

 ということは亜麻猫さんも主の為に死ぬと言う考えは持っていないと言うことになる。


 僕は思わず「え」と小さく声を出してしまった。それに対して亜麻猫さんが溝田から目線をこちらに向けてきた。


「え、ってなによ。え、って」

「いや、亜麻猫さんなら粉雪さんの為に死ぬと思っていたので……」

「え、状況によっては死ぬわよ、私」


 亜麻猫さんはきょとんとした顔でこちらを見てきた。今の言った「え」をそっくりそのまま返してやりたい。


「今、命を繋ぐことを重要視するって言ったじゃないですか」

「そりゃそうよ。死んだら粉雪様ともう会えなくなるのよ。もしもの話をするけれど、私と粉雪様がどちらかが死ななくちゃ、両方死んでしまうって状況に陥ったら、最後まで足掻いてから私が死ぬってことよ。さっき言ったのは」

「その考えを粉雪さんは知っているんですか」

「ええ。言ったのはつい最近。国を出るときね。言うのには結構勇気が言ったわ。付き人を決める時に“主の為に死ぬ気はありません”みたいなことを言ったから粉雪様に選んでもらえた立場だったからね」


 なんでも亜麻猫さんが言うには、粉雪さんの付き人を決める面接があったのが8年前。彼女たちが12歳の時だ。2人はそれ以前から家同士の交友があり、面接の時には亜麻猫さんは粉雪さんに惚れていたそうだ。

 そのまま8年間。粉雪さんに嘘を言っていることが、心の中でつっかえていて、この地方に来る前に告白したみたいだ。


「それですんなり受け入れてくれたんですね」

「ええ。その時に改めて惚れなおしたわ。もともとゾッコンだったけど」

 僕は主人の為に死ぬ前に足掻いてから死ぬと言ったから許してくれたのかなと思った。だからそこについて詳しく聞こうと思った。それは亜麻猫さんとヒルデさんの主人のために死ぬといった考えの違いがその部分だと思ったからだ。


 けれどそれは溝田の茶々によって邪魔された。


「けど今は違う人に惚れているんですよね?」

「「はぁー!?」」


 溝田の言葉に思わず、僕と亜麻猫さんは声を上げてしまった。それを余所に溝田は僕と亜麻猫さんを交互に見てくる。

 こいつが勘違いしていることに僕は気が付いた。それは亜麻猫さんも感じ取ったようだ。


「いや、ツヨシの事は弟みたいに思っているだけよ。もしツヨシが粉雪様と付き合うことになったら殺……。9割9分殺しにするわ」

「ほとんど死んでるじゃないですか」

「完全に死んでなかったらロナが治してくれるでしょ。何年かかってでも」


 もし僕が粉雪さんと付き合うことになったら、そんな生死の境をさまよう状態の僕をロナさんは助けてくれるのだろうか。いや、助けてくれるに違いない。そう信じよう。というより僕が粉雪さんと付き合わなければそう言う事態にはならない。それならそんなことを気にする必要は無い。それより何で溝田がそんなことを思うようになったかを聞く方が先決だ。


「なんでそんなこと思ったんだ」

「え、だってヒルデさんが、ツヨシ君が刃傷沙汰になるほどモテてるって言ってたから」

 溝田は悪びれもなくそう言った。それに対して亜麻猫さんは「あの天使、殺す」と言った独り言が漏れている。


 それをなだめながら僕は、2人と一緒にヒルデさんが待っている2階の部屋へ行くことにした。


次回更新は12/28になります。

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