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険悪なムードの人たちが、もう1組増えてしまいました。

 僕は亜麻猫さんの試合終了の合図を聞いてから、ジーク君とヒルデさんの間に割って入った。それはヒルデさんがジーク君にちょっかいを出していたからだ。


「こら、ジーク君。指の間から見ているのは分かっているぞ」

「み、見てないよ」


 ジーク君は慌て手で目を覆ったまま後ろを向いてしゃがみ込んだ。彼も彼で、見たいけれど、じっと見るのは恥ずかしいことと分かってはいるのだろう。

 けれど彼も小さいといっても男だ。ばれないとでも思っているのか、脇の間から覗き見ていた。


「はぁー」

 それに気が付かないヒルデさんではない。けれどジーク君の気持ちも理解しているのだろう。額に手を当てながらため息をついて、ジーク君から離れた。そして粉雪さんに詰め寄っていく。


「亜麻猫。着替えを頼む」

「はい。分かりました」

 ヒルデさんが近づいてくるのを見て粉雪さんは、亜麻猫さんが腰に携えていた鞄から出した、替えの上衣を受け取り急いで着だした。色々言われるであろうから、きちんと前も締めていた。


「きちんと着てくれたな。とりみだしてすまなかった」

 ヒルデさんは意外なことに、粉雪さんに謝りだした。それを見て粉雪さんは珍しく驚いていた。ただ粉雪さんはそれに対しては何も言わず、ヒルデさんの戦いの考え方について聞きだした。


「ヒルデさんは、実戦経験は無いのか」

「訓練は積んではいるが、女神様に敵対する奴は、今はいないからな」

「……。そうか」


 粉雪さんは残念そうにヒルデさんの答えを聞いていた。

 先に不意打ちに弱いことや、本来の実力が発揮できないことを聞いていたことを差し引いても粉雪さんにとってものたりないものだったのだろう。


「まぁ、こんな私でよければまた付き合ってくれると嬉しい。すぐに帰る予定はないからまた誘ってくれ」

 ヒルデさんは粉雪さんが残念そうな顔をしているのを見てか、急に話を切り上げだす。

 そして言い終わると、またジーク君にちょっかいを出そうとしだした。けれどその前に、粉雪さんがまた質問をする。


「今日はジーク君がいたから脱ぐのは駄目というのは分かるんだが……。もしいなかったとしても駄目とあなたは言うのか?」

「……。ああ」


 粉雪さんの質問にヒルデさんはなぜか迷いながら答える。僕は一応ジーク君をこの場から離れさせるために、凛姉と溝田にお願いすることにした。


 粉雪さんとヒルデさんのこれからの話は、別にジーク君を責めるつもりはないだろう。けれど、粉雪さんが“ジーク君がいたから”と言ってしまった。ジーク君自信気にしないかもしれないが、変に勘ぐって自分のせいでヒルデさんが責められていると思ってしまうかもしれないのは忍びない。だから2人にこの場から連れ出してもらおうと思ったのだ。


 凛姉もジーク君がいれば、溝田と喧嘩中であっても露骨に態度には出さないだろう。そう思い、まずは溝田に頼んだら快く引き受けてくれた。そして凛姉の方も引き受けてくれた。


「ジーク君。お父さんのところ行こうか」

「え、あ、うん」

 

 ジーク君は怒られると思っているのか、少ししょげながら二人について行った。

 あの年頃から今みたいな状況の中で文句を言うような子には、個人的にはなって欲しくない。彼が12から13歳くらいなら減らず口を叩いても良いと思うが、まだ小さい。


 そんなことを思いながらジーク君たちを見送っていたら、粉雪さんとヒルデさんはお互いの意見をぶつけ合いだした。

 どうやら僕が凛姉たちに気を取られている間は、粉雪さんが煙草の火を消して、口の中をゆすいでいたようだ。

 粉雪さんの手には水が入っているひょうたんが握られている。そして今、口から水を、唾を吐くように勢いよく吐き出した。


「別に今みたいな状況で見せるくらいなら良いんじゃないか? 減る物でもなしに」

「いや、駄目だ……。女神様はそういうのを嫌う」

 ヒルデさんは粉雪さんの意見を真っ向から否定する。


 僕個人としては粉雪さんの意見が僕の考えに近い。戦闘の際にそんなことを気にしてはいられない。日常生活でも子供の目が無ければ、今みたいな恰好をしていても個人の自由だと思う。


そして粉雪さんはというと、ヒルデさんの答えに対し、突拍子もないことを言い出した。

「それなら、もし敵に敗れて命乞いをする時も、脱ぐなと言うのか」


 僕はいくらなんでも話が飛び過ぎだと思った。それに粉雪さんがいつになく他人に対して突っかかっていく。彼女の中で今回の話は何かの琴線に触れたのだろう。


 ただヒルデさんもある種、彼女らしい回答だが、とんでもないことを言い出した。

「命乞いするくらいなら死ぬ。もしかして君たちはそういった経験があるのか」

 ヒルデさんは心配そうに粉雪さんに聞き返していた。それに粉雪さんはあきれぎみに「私も亜麻猫もそういった経験は無い」と答える。


 僕は思わずロナさんのほうを見た。ロナさんは真顔で2人の話を聞いていたが、僕の視線に気が付き、こちらに対してわざとらしい苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

 ロナさんにとって、ヒルデさんの発言はいつものことなのだろう。けれど粉雪さんにとっては違う。少し彼女は怒っているようだ。

 

 その状態のまま粉雪さんはさらに、ヒルデさんに質問をする。

「命乞いはしないと言ったが、それは自分の信念の為か、それとも女神様の為にか?」

「……。後者だ」

 ヒルデさんは少し黙った後、そう言った。


「そうか。手間を掛けさせてすまなかったな。手合せ感謝する」

「こちらこそすまなかったな。また誘ってくれ」

 粉雪さんの質問から解放され、ヒルデさんはいつもの調子で、そう言った。ただ粉雪さんはいつもの調子ではなかった。


「いや、もう2度と頼まない。行くぞ、亜麻猫」

「え、あ、待ってください。粉雪様!」


 粉雪さんは呆然としているヒルデさんを無視して通り過ぎる。そして僕の元へとやって来て小声で一言言ってから食堂の方へと戻って行った。


「ヒルデさんの事を頼む」

 粉雪さんは僕に小声でそう言った。となると本心では怒ってはいないのだろうか。


 僕はあとで亜麻猫さんとロナさんに相談しようと思いながら、とりあえずヒルデさんに声をかけることにした。

次回更新は12/22の予定です。

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