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天使としては正しい判断なのでしょうけれど……。

「す、すごいね」

 溝田が2人の攻防の感想を漏らす。その言葉には珍しく僕も同意だ。ロナさんにとっては分かっていたことかもしれないが、ここにいるギャラリーのほとんどがそう思っているだろう。


 2人の攻防は、どちらか一方が1つ判断を間違えると終わるものだった。

 粉雪さんはヒルデさんとの間合いを詰めに掛かり、ヒルデさんは逆に、詰めに掛かられたのを利用して、カウンターを打ちこんでいた。それもあって、粉雪さんの袴の上衣が少し肌蹴たり、破れたりしている。


 剣道三倍段って本当に正しいのかは知らないが、2人の実力的は拮抗しているように見える。そう思ったがロナさんは違う考えのようだ。


「ヒルデが押されていますね」

「そうなんですか?」


 戦いとは無縁そうなロナさんが解説に乗り出してくれた。小声だったので他のギャラリーには聞かれたくない内容も話してくれるのだと思い、僕は彼女との距離を少し詰めた。


「ええ、ヒルデは基本的には自分から攻めていきます。天界の実技試験の時もそうでした。今みたいに間合いを詰められるのを繰り返す状況は、同期との対戦では見たことがありません」

「そうなんですか。同期というとロナさんは戦いとかはどうなんですか?」

「一応、ヒルデに次いで2番目に強かったですね。彼女には何度も挑みましたが、結局試合形式では勝てませんでした」


 さすが天界の騎士団にエリート入団するくらいの人だ。2番目に強いロナさんを寄せ付けない強さだったようだ。ただそれより、ロナさんが2番目に強いのが意外だった。基本的に直接的な戦闘はせずに、索敵や回復魔法の分野で断トツの1位を取っているイメージを僕は持っていた。


「試合形式ではってどういうことですか?」

 僕たちの話を聞いていた溝田が、ロナさんに問いかけた。するとロナさんは待っていましたと言わんばかりの笑顔で解説をし始めた。


「実践形式だったら私でも彼女に喰らいつくことができるんです。ほら、今だって」

 そう言ってロナさんは2人のほうを指差した。すると粉雪さんが煙草をヒルデさんの顔を目がけて、吹き矢のように飛ばしていたところだった。


「フッ」「なっ?」

 それは彼女にとって予想外だったのか、一瞬ヒルデさんは怯んでしまった。そこを粉雪さんは上手く利用して、彼女の懐に入り込んで行った。ただ、ヒルデさんも遅れはしたが、上手く反応し、逆に自分からも間合いを詰めて、粉雪さんが刀を振るいにくい状況を作った。しかしそれは粉雪さんにとって想定内の行動だったようだ。


 ビリリと布が破れる音が耳に入ってきた。それは粉雪さんの上衣から聞こえた。

 粉雪さんは恐らく、刀などを使って一撃で決める気はなかったのだろう。彼女は自身の上衣を破りながら脱ぎ、ヒルデさんの脇をすり抜けるのと同時に、彼女の顔に叩きつけた。


「なんだこれは!?」「隙あり」

 ヒルデさんは顔に引っかかった上衣を取り払うために、左手を槍から離してしまった。その好機を粉雪さんが見逃すわけがない。今度は蹴り上げるのではなく後ろから槍を掴み、奪い取り、それをそのまま遠くで投げてしまった。


「槍や魔法が使えなくても、無手の心得はあるんだろう?」

 粉雪さんは地面に落ちた煙草を拾い、ヒルデさんから距離をとってから口に咥える。


 僕はもう勝負あったなと思った。

 槍対刀から無手対刀。

 ヒルデさんが言っていた剣道三倍段の理論がそのまま自身へと返っていくことになる。


 ただヒルデさんはまだ交戦の意志があるのか、肩を震わせている。さすがに騎士団に所属しているだけにこのまま負けるのは癪なのだろう。そう思ったがどうやら違うようだ。


「君! 早く服を着ろ。ほら、ってこれ破れて着られないじゃないか。不特定多数の者に嫁入り前の娘が肌を晒すな」


「えぇー」

 ヒルデさんの予想外の言葉に僕はずっこけそうになった。ただ、溝田が先にずっこけてくれたおかげで未遂で済んだ。

 他の人たちも僕たちと同じ感じかと思ったが、男連中はそうでもない。


「そのまま続けろー」「そうだそうだ」

 今粉雪さんは、上半身はさらし1つだ。主都に行く前の格好に戻っただけだが、今は状況が違う。もしかしたらヒルデさんが善戦してさらしを剥いてくれるかも知れないというゲスイ期待をしているのだろう。それにヒルデさんがやはりキレる。


「黙れ、痴れ者ども。ジーク君も見ているんだ……ぞ」

 僕はその言葉に反応してジーク君の様子を確かめる。

 ジーク君は顔を真っ赤にして、粉雪さんの方を見ていた。


「ジーク君?」

「え、あ、うん。服はちゃんと着たほうが良いと思う」


 ジーク君はヒルデさんに名前を呼ばれ、急いで、自身の手で目を覆った。そして取り繕ったことを言う。ただ指の間から粉雪さんのほうを見ているのは僕からも分かった。


「あー。すまん。亜麻猫、試合は終わりだ」

「え、あ、はい」


 粉雪さんも気まずいものがあったのだろう。亜麻猫さんに中止を促した。ただ亜麻猫さんは男たちと同じ気持ちのようだった。しかし粉雪さんに言われたら口答えはできない。ものすごく残念そうに終了の宣言をした。

次回更新は12/19の予定です。

すみません。急用が入りましたので、12/21に変更します。

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