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剣道三倍段とそれぞれの戦闘スタイル

「どういうことだ?」

 多分粉雪さんも分かっている。けれどだからこそ怒っていることを表す為に質問しているのだろう。僕も対決が始まる時に気が付いていた。

「剣道三倍段という言葉があちらの世界にはあったが、こちらにはないのか?」


 剣道三倍段

 漫画とかでよく見る言葉だ。無手の者が棒を持った者に対峙するには3倍の技量が必要とか。刀剣使いは、槍使いの3倍強くなくては勝てないとかそういったものだ。


「それは知っているが……」

 やっぱり知っていたようだ。粉雪さんは先の攻撃を受けた鞘を確認しながら、残念そうにモゴモゴと、おそらく否定の言葉を口にしている。


「それなら、もう言うことはない。続けよう」

 そう言ってヒルデさんは、半身を引いて槍を構える。それを見て粉雪さんも、しかたなしといった感じで構えた。


「はぁー」「ふん」

 2人の戦闘スタイルは対照的だった。粉雪さんは亜麻猫さんと同じで、1発当てたら飛び退くスタイルで、ヒルデさんは自分からは攻めず、カウンターをしかけるスタイルに、僕からは見えた。

 実際のところ、僕は戦闘素人なので合っているかはわからない。あとで詳しいことを2人に聞こう。


「あ」「もらったー!」

 そう思っていたが、粉雪さんが飛び退いた時に足をぐねった。それを好機と見たのかヒルデさんがその足を目がけて槍を薙ぎ払った。だがそれは粉雪さんの罠だった。


「遅い」

 粉雪さんはいつのまにか左手で鞘を握っていた。そしてその鞘を相手の槍についている斧の部分に当てた。


 ガキーンと金属同士がぶつかり合う音があたりに響く。そ鞘で受け止めたからではない。

 いつも粉雪さんは草履みたいなのを履いている。けれど今は珍しく西洋風の靴を履いている。あの靴の裏は金属でも張られているのだろうか。それともスパイクみたいになっているのか、その音は、粉雪さんが斧の部分を踏みつけた時に響いた。


「な、足払いの対策もしているのか?」

「足払いが反則なのは、心身を鍛えるための剣術道場だけだが?」

「あれ?」


 普通の剣道なら足払いは禁止だったはずだ。けれど警察官になった友達の話では、警察学校では実習で足払いありだったそうだ。

 元いた世界の警察でさえその対策をしているのだから、実戦の世界で生きている粉雪さんにとっては普通の事だろう。


「槍の攻撃は封じられたな」

 粉雪さんは刀で相手の槍の柄を数度叩く。多分斬れるのなら斬るつもりなのだろう。けれどそれは無理そうだ。柄の部分は僕から見たら木のように見えるが、今粉雪さんが叩いた時に金属同士がぶつかる音が聞こえた。おそらく粉雪さんでも斬ることはできないだろう。


 それはヒルデさんも同じように考えているようだ。

「けれど、君はこのまま動けないんじゃないか」

 柄を斬ることができないならヒルデさんの言うとおりだ。

 彼女らの立ち位置は、粉雪さんが腕を伸ばしきればヒルデさんにギリギリ当たる程度に保たれている。


 粉雪さんが斧の部分から足を離したら、勢いよく槍を跳ね上げるだろう。一応主導権は粉雪さんにあるが、有利とは一概には言えない。

 だから少しの間、膠着状態が続くと思われたが、それは粉雪さんが予想外の事を言い出して打ち破られた。


「そうだな……。ちょっと一服させてもらおうか」

 彼女は刀を地面に刺し、懐から棒状の物を取りだし口に咥えた。そしてまた懐をゴゾゴゾしだした。

 多分あれは煙草だと思う。


「え、あの人って煙草吸うの?」

 溝田が疑問に思い、僕に聞いてきた。それに僕は「知らない」と答える。実際、今まで吸っていたところを見たことが無い。ロナさんと凛姉も驚いているようだし、2人も知らないようだ。


 けれど顔に出やすい亜麻猫さんは平然と審判を続けているところを見ると、まったく吸わないということはないのだろう。もしかしたら僕たちに気を使って今まで吸ってこなかったのかもしれないが、なぜこのタイミングで吸うのだろうか。


それはおそらくだが何かの魔法を使うためだろう。そうでなければ粉雪さんの性格上、この行動はおかしい。けれどヒルデさんはそうは思っていないようだ。


「一服って……。ふざけているのか!」

「すまん。ヤニ切れだ。火打ち石は……。と、あった」


 粉雪さんは悪びれもなく、煙草に火を点けた。そして一服しだした。

 それにヒルデさんがキレた。


「ヤニ切れって、こんな時にまで体が煙草を欲するくらい吸ってきたのか。君はまだ20歳やそこらだろ。ただちに消せ」

 この人もこの人で分かってはいたが少し抜けているなと僕は思った。粉雪さんの人となりをしらなくてもこの状況で奇抜なことをされたら警戒するだろうに、逆に相手の体の心配をしだした。天使としては正解だし、優しい心を持ってはいるのだろうが……。


「心配してもらって悪いが、これが私の戦闘方式だ。ふぅー」

 粉雪さんはヒルデさんを煽るように煙を吐き出した。明らかに普通の喫煙とは違う意味がある行動だ。

本当に今の状況でヤニ切れを起こして吸い出す人が、ふかし煙草はしないだろう。あの煙の白さからいって、肺まで煙を入れたとは思えない。多分……。僕は吸わないのでわからないが、先輩がふかし煙草をしている後輩をからかう時にそんなことを言っていたような気がする。


 話は戻るが、その態度を見てヒルデさんは魔法を使うことにしたようだ。だが……。

「それなら私が消してやる。“水よ”ってあれ?」

 ヒルデさんは槍から片手を離し、粉雪さんに指を向けて魔法を放とうとしたようだ。だがなぜか魔法が発動できないようだ。


 その様子を余所に、粉雪さんは火打石を懐に仕舞い、口に煙草を咥えたまま、刀を握った。そして隙を見て、槍を蹴り上げた。そして――。

「なっ、おっと」

「これも受け流すか」


 突然のことでヒルデさんが驚いた声を出してしまったようだ。ただ粉雪さんの追撃は左手の小手を使って上手く受け流した。


「魔法が使えないのは、その煙草が原因か」

「だからさっき言っただろう。これが私の戦闘方式だって。これで大がかりな魔法は2人とも使えない。まぁ、ヤニ切れなんて嘘をついたことは謝る。すまなかった」

「色々思うところはあるが、それはあとでだな」


 ヒルデさんは粉雪さんを牽制しながら、槍を拾いまた構えた。

「その煙草が消えるまで消耗戦でもするか」

 ヒルデさんは槍で攻撃するのにこだわらない性格のようだ。煙草の火が消えたら魔法を主体で戦うみたいだ。


「そう簡単にいくとでも?」

 粉雪さんはガードに使った鞘を上空に放り投げ、煙草を咥えたまま、ヒルデさんにラッシュをしかけだした。

次回更新は12/17の予定です。

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