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この人以外がするなら、微笑ましい光景なのでしょうね。

 僕は顔を引きつらせながら、ヒルデさんの方へ振りかえった。すると意外なことに彼女は真顔だった。


「ええ、そうです」

 彼女にとっても、この子は幼すぎるのだろう。見た目は5~6歳くらいの子だ。いくらなんでも失礼なことを考えたかと僕は思い、心の中で謝りながら返事をした。


「ジークです。初めまして」

「私はヒルデだ。しっかりとした子だな」


 彼女はジーク君が挨拶をしようとしているのに気が付き、しゃがんで彼に目線を合わせた。そして挨拶を返して、彼の事を褒める。


 やっぱり僕の考えすぎだったようだ。そう思い、溝田にもジーク君に挨拶をするように促そうとした時に、ロナさんの顔が目に入った。

 彼女の目線はヒルデさんたちに向いており、その目は汚物を見るような目だった。


 僕はその目を見てヒルデさんを再度見直した。すると、手をなぜか、わきわきとさせていた。そして僕に見せた真顔はどこにいったのか、少しニヤケ顔だった。多分、僕がしたようにジーク君の頭を撫でたいのだろう。一応釘は刺しておこう。


「ヒルデさん。ご飯食べましょうか」

「え、あ、えっ。あ、そうだな。ジーク君を頼む」


 やっぱり、最初に覚えた悪寒は正しかった。ロナさんは彼女のことをショタコンと言っていたが、この子にまで手を出そうとするのは、ペドフィリア(?)と言うのではないだろうか。


 いや、手を出すか迷っていたので、まだそこまでは言わないでおこう。勝手に人の性癖を決めつけて、勝手にドン引きするのは駄目なことだ。ただ見張ってはおこう。なにかあってからでは遅い。


「溝田も、ほら」

「あ、うん」


 とりあえず、ジーク君に溝田を紹介しよう。他のメンバーは主都に行く前、僕が血を吐いて寝たきりになっていた時に、顔合わせが済んでいる。

 と思ったが少し目を離した瞬間にジーク君はヒルデさんへとついて行っていた。


「あ、からあげだぁー。おいしそう」

 ジーク君はぐぅー、と短くお腹を鳴らした。多分まだ朝ご飯を食べていないのだろう。ヒルデさんの皿を見ながらそう言った。


 ヒルデさんは、早く食べ終えてジーク君と話をしたかったのか、茶碗を手に持ってそのままご飯を掻きこんでいた。けれどその手はジーク君の言葉で止まった。そして「まだ手をつけていないから。1個だけなら良いぞ」と言って、彼に皿を突き出した。


 ジーク君の身長は机の高さと同じくらいだ。だから今も少し背伸びをしてヒルデさんのお皿を覗き込んでいた。その為ヒルデさんはジーク君が指で掴みやすいようにそうしたのだろう。

 ただジーク君は指で掴む気は無いようだ。


「ほんと! ありがとう。それじゃあ」「なっ!」

 ヒルデさんがジーク君の普通の行動に狼狽える。それは何かというと、ジーク君は口を開けてヒルデさんが食べさせてくれるのを待っていたのだ。


 僕はヒルデさんに危険な兆候を感じ、調理場のほうにある箸置き場へと向かうことにした。ヒルデさんが暴走しそうになったらロナさんが止めるだろう。そう思ったからだ。ただその心配はいらなかった。


「ほら。あーん」「あーん」

 ヒルデさんは自身の箸の反対側でからあげを挟んで、ジーク君の口に持っていった。一応、大人にとっては一口で食べられるくらいの大きさのからあげだが、小さな子供にとってはそうもいかない。一度噛み切らせて、残りは皿の上に戻させていた。


「それでは、私は先に裏庭に行っているので、ゆっくりで構わないからな」

 そんな光景を余所に、粉雪さんは食事を黙々と続け、食べ終わったようだ。後ろに亜麻猫さんを引きつれ、ヒルデさんに話しかける。


「あ、ふぉめんなぁふぁい」

 子供心に、なにか申し訳なく感じたのだろうか。ジーク君は食べながら粉雪さんに謝っている。それを粉雪さんは「気にしなくて良いから、ゆっくり食べるように」と言って、その場を亜麻猫さんとともに去って行った。

 けれどジーク君は気にしているようだ。口をモゴモゴと早く動かしている。


「あー」

 そして口の中を空っぽにできたので、また口を開け、残りを催促している。

「あのお姉ちゃんが言ったように、ゆっくりで構わないからな」

 ヒルデさんは残りのからあげをジーク君の口に持って行く。そして自身の食事の時間に戻った。


 ヒルデさんの顔には、先ほどのニヤケ顔ではなく、心配そうな顔が浮かんでいた。今もチラチラとジーク君の方を見ている。喉に詰まらせないかとか、舌を噛まないかとか心配なのだろう。ただ自身はというと、ガツガツと口の中の物が呑み込めていないのに、次々と箸を付けていた。だからお約束のごとく、自分が喉に詰まらせた。


「ごぼっ」

「あ、お姉ちゃん。えーと、はいお水」


 それを見て、ジーク君以外のメンバーは呆れていた。けれど彼は、慌ててロナさんの側に置かれていたコップをヒルデさんに手渡した。


「あ、あぃがぁとう」

 ヒルデさんは自分のコップではないと気が付かぬまま、ロナさんのコップを受け取り、その水を一気に飲み干した。


「お姉ちゃん大丈夫?」

「ああ、助かったぞ。あれこれ私のコップじゃない……。あ」


 ヒルデさんはここで自身がロナさんから白い目で見られていることに気が付いたようだ。

 「こほん」と短く咳払いをして、何事もなかったかのように、今度はゆっくりと食べるのを再開し始める。


 そんな彼女をジーク君だけが心配していた。

次回更新は12/14になります。

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