気の毒に思うんじゃありませんでした。
僕たちは今、一階の食事スペースで朝食をとっている。粉雪さんはいつもどおりの量を確保して、2/3程度食べ終えている。ちなみに僕とロナさんと亜麻猫さんはすでに食べ終え片づけも済ませてある。
「もう勘弁してくれ」
「嫌でーす」
僕の隣に座っているロナさんが嬉しそうに、机を挟んで向かい側に座っているヒルデさんに今朝の寝相の写真を見せてからかっている。
結局ヒルデさんは溝田が叩き起こした。僕は手伝おうとしたが、寸でのところで止めておこうと思った。やっぱり相手は女性なので、遠慮しておこうと思ったからだ。
「けど、本当に酷かったですよ」
「君まで入ってこないでくれ」
溝田もヒルデさんをからかうのに参加し始めた。残りのご飯の量的には、まだ食べ終えていないメンバーの中では1番食べ終えてはいる。けれど減らず口をたたく暇があるのならさっさと食べろと思う。ヒルデさんはさっきから全然食べることができていないので、ほとんど手をつけられていない。3つあるからあげなど1個も食べていない。
僕は気の毒に思い、口をはさむことにした
「2人ともそこまでにしておきましょう。ヒルデさんも粉雪さんと手合せするために朝食をとっておきたいでしょうし」
一応他の人には聞こえないように僕はそう言って辺りを見回した。他の客や冒険者には聞こえなかったようだ。あと、ズィーさんがいつもの席で1人本を読んでいるのが目に入った。彼女は朝食をちゃんと食べたのだろうか。
「それもそうですね。ほらさっさと食べなさい」
「お前なぁ……。まぁ、そうする」
ロナさんの言葉に僕の意識はこちら側に戻った。ヒルデさんは呆れ気味にそう言って、ご飯をかきこもうとした。その時だった。
「おはよーございまーす」
「あ、こら。すみません」
宿のドアが勢いよく開かれた。そして1人の男の子が元気よく挨拶をしながら、走って入ってきた。その男の子をよく見ると、僕が助けた男の子だった。その後を申し訳なさそうに、父親と思われる男性とエクスさんが入ってくる。この男性が、エクスさんが話し合いに呼びたいと言っていた人だろう。
「あ、お父さん。あのお兄ちゃんがそうなんだ」
男の子は僕を見つけると、お父さんの袖を引っ張って僕の方へと連れてこようとしていたので、一応席を立って待つことにした。
「初めまして。その節はジークがお世話になりました」
「いえいえ、たいしたことはしていませんので……」
男の子のお父さんはまだ若そうだった。多分25~6といったところだろう。ただ髭を蓄えようとしているのか、顎回りは剃っていないので、見様によってはもう少し老けて見える。
それは置いておくとして、そう言えばこの子の名前を今まで聞いていなかったことに気が付いた。今更、聞くに聞けなかったので知れて良かったなどと思っていると、女将さんが厨房の方から出てきた。
「おや、ジーク君も連れて来たのかい」
「ええ、ジークが行くって言って、きかなくて」
そのジーク君は宿の中を走り回りたいのだろう。ここには彼にとってカッコいいと感じると思われる、武器や防具を持った冒険者がいたり、調度品があったりと見て廻りたい物がたくさんある。年頃の子にとってはそれが正常だろう。けれど今は我慢してもらいたい。
「とりあえず、話し合いの間はじっとしていてもらいたいのですが……」
エクスさんが無表情で淡々とそう言って、僕たちのほうを見てくる。これはそういうことだろう。
「こっちで預かりますよ」
「本当ですか? お願いします」
お父さんは助かった、といった表情で僕にジーク君を預けてきた。その父親の後ろでエクスさんが無表情のままで一礼しているのが見えたので、僕も一礼してから、しゃがんで、ジーク君に目線を合わせた。
「よろしくお願いしまーす」
「ちゃんと挨拶ができて偉いね」
僕はジーク君の頭を撫でながら、お父さんの方を見る。お父さんは息子が褒められたことが嬉しかったのか、ニヤケ顔でエクスさんと女将さんと一緒にズィーさんのいる席へと向かって行った。
もう話し合いが始まるみたいなので聞き耳を立てておこう。そう思い、少しジーク君と話をして、その後は溝田に預けようと思い、パーティのメンバーの方を向こうとした。その時、なにかを忘れている気がした上に、悪寒を覚えた。
「その子は強君の知り合いか?」
僕はその声を聞いて、重大なことを思い出した。
それはこの席に、ショタコンの天使がいることだった。
次回更新は12/12になります。




