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なぜそれを先に言ってくれないんですか!!(恍惚)

「それではどうぞ。今現在の様子です」


「ありがとうございます」


 僕はロナさんに礼を言い、雲のようなものを見る。

 その中には男性と話す凛姉がいた。


 応接室のようなところで2人は話している。

近くの机には何やら分厚い辞書が置かれており、男はスーツを着た真面目そうな人だ。


「弁護士さん?」


 男の人は、胸元にバッジのようなものをつけていた。それに、辞書のようなものに目を凝らしてみると“六法全書”と書かれていた。


「この度は……」

「いえ、どうも」

 

 ちょうど話が始まったようだ。どうやら内容的に僕の事を話しているらしい。ただ詳しい内容はわからない。多分今回の事故処理の話だろう。


 そうなると、もしかしたら弁護士ではなく、保険会社の人かもしれない。もっと音声や映像が綺麗にならないだろうか。


 そんなことを思っていたら音声は聞こえづらく、映像もだんだん見えづらくなってきた。ダメもとでロナさんに頼んでみよう。

 そう思い僕は顔を上げた。


「あの、もっと聞こえやすくなりま――」

 

 僕は目線を雲からロナさんに移す。するとロナさんは息を切らしながら、うつむいていた。なにやら苦しそうだ。


「ロナさん。大丈夫ですか!」

 

 僕はロナさんの方へ駆け寄る。


「大丈夫です。ただ日に2回はきついですね」


 さっき、違う世界の様子を見せるのはかなり力を使うと言っていた。

 あれは僕の裸を見るための方便だと思っていた。しかしロナさん様子から本当のことだったようだ。かなり無茶をしているのか顔が真っ青になっている。


「もういいです。凛姉も元気そうなので、この雲しまってください」

 

 本当はもう少し見ていたかった。ただ目の前の人が苦しむのをよそにまでして見たいとは思わない。


「わかりました。ごめんなさい」


 ロナさんは僕に謝ってから雲をしまった。


「今度から1日1回までで、前日までに知らせてください。準備しますので」


 ロナさんは何度も僕に謝りながらそう言ってくれた。それなら彼女の体調に気を配りながら、また今度見せてもらおう。


 とりあえずロナさんには水でも飲んでもらおう。

 僕はロナさんから離れ、台所へ向かう。


「冷蔵庫には何が入って……」


 僕は、何気なしに冷蔵庫に手をかけた。その時に僕は気が付いてしまった。


 そうか、この台所もおそらくだが今日、転移させたのだろう。それだけ力を使ったところに無茶をさせてしまった。

 口に出してお礼を言うのはもちろん、行動でも示さなければと僕は思った。


「どうぞ。普通の水で良かったですか?」

 

 僕は冷蔵庫の中にあった“普通の水エリア”と書かれたところから取ったビンをロナさんに渡す。下戸の僕に配慮して、仕切りを使ってお酒と分けてくれていた。


「ありがとうございます。それと力になれなくてごめんなさい」


「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」

 

 ロナさんはビンの蓋を取り、水を飲み始める。

 こういうときは、話しかけたほうが良いのだろうか。

 それとも、ただ黙ってそばにいたほうが良いのか……。

 

 僕が酒に酔って吐きそうなときは、話かけて欲しくない。だけど、今は吐きそうとかそう言う状態ではないような気がする。とりあえず、1回話しかけてみて顔色を見てみよう。ダメそうなら黙ろう。


「それにしても、神様ってすごいですね。どんな人? なんですか」


 ロナさんが考えなくても話せそうな、差しさわりのない内容の話題だと思った。だが彼女にとってはそうではなかったようだ。


「え、会いましたよね?」


 彼女の顔色は少し良くなっていた。

 それは置いておくとして、僕は神様に会った覚えが全然ない。もし会っていたら、気づきそうなものだが……。


「いや、会った覚えが全然ないです」


 一応もう一度彼女の顔色を伺う。顔色は良いのだが、ポカンとして首をかしげていた。


「もしかして、私の試験内容も詳しくは知りませんか?」


 首をかしげていたロナさんだったが、僕も首をかしげたのを見てか、顔つきが変わった。真剣な様子だ。


「はい。聞いていないです。というより記憶を消したりするときに、神様と通信してませんでしたか?」

 

 これは、絶対不具合があったのだろう。最初この部屋で目覚めた時、どおりでロナさんと会話がかみ合わなかったはずだ。


「いえ、その時は、他の天使見習いに連絡していたんです。今日の夜、手短にですが聞いてみます」


 ロナさんは、通信を試みようと思ったのか、また少し顔色が青くなっていた。しかし体調的に無理だったようだ。


「無理しなくてもいいですよ。ですけど試験内容だけはロナさんが話してください」


 これ以上ロナさんに無理をさせるわけにはいかない。倒れられては困る。ただ、試験内容だけは聞いておきたかった。

 

 確か、人間と一緒に暮らして、その人を幸せにするといった、とても抽象的な説明だった。


「3年以内にあなたが1億(ゴールド)稼いで、私と生きることです」

「はい?」


 僕は思わず耳を疑った。確かに1億Gと聞こえた。

 恐らく、Gとはお金の意味だろう。すると……。

 いや待て。1億Gと言っても、日本円の1億円と一緒とは限らない。


「ちなみに日本円でいくらになるんですか」

「1億円です」


 まだわからない。もしかしたら物価がすごくて、りんご1個が千円くらいするのかもしれない。


「ちなみに、物価も大体、日本と一緒です」


 終わった。僕はそう確信した。

 日本でいた時の、高卒2年目の僕の年収が、ボーナス込みで250万円くらいだ。そんな僕が1億円を、それも3年で稼ぐのは不可能だ。


「なにをそんなに暗い顔をしているのですか」


 ロナさんは下を向いていた僕の顔を覗き込んでくる。なにをって聞いてくること自体に僕はなにをって聞き返したくなった。


「なにをって。それは1億も稼ぐのは無理ってことですよ」

「え?」


 ロナさんは素っ頓狂な声を上げる。顔もすごく不思議そうにしている。


「いや、あれだけの魔法が使えたら、モンスター退治で1億Gくらいなら可能ですよ」


 そう言って、ロナさんは懐からカードを2枚取り出す。


「これは?」

「冒険者カードです」


 そういえばクレジットカードがどうのこうの言っていた時に、冒険者カードを発行してもらっているとロナさんが言っていたことを僕は思いだした。


 冒険者カードには、僕の名前が全部カタカナで書かれていた。そして、年齢、性別、所属パーティが記されていた。

所属パーティの欄には、ロナさんの名前が書かれているだけだ。

 ただ僕はそれよりも気になる欄があった。


「所持金5万G?」


 なぜか所持金欄に5万G振り込まれて(?)いた。この場合振り込まれたで良いのだろうか。隣に置かれたロナさんのカードにも5万G振り込まれていたので、支度金か何かかと思ったが違うようだ。


「先ほど打ち払った、ワイバーンの翼の売買代金が、10万Gでした。私はツヨシさんに全部渡して欲しいと言ったのですが、この宿の決まりで、パーティで分割支払いになっているみたいなんです」


 ロナさんは僕に申し訳なさそうな顔をして、そう言ってくる。

 

 つまりそういうことか。


 いや、僕はもうあんな怖い思いはしたくない。何が悲しくて、死んだあと生き返らされて、モンスター退治なんてしなくてはならないのだ。凛姉の様子を見れることに関してはお礼をしてもしきれないが、これは話が別だ。

 

 そんなネガティブなことを僕が考えていた時だった。意識の外に会ったロナさんの声が不意に耳に入ってきた。


「凜さんとの来世のために頑張りましょうね」

「どういうことですか!?」

 

 僕は凜姉との来世とは何だろうと思い、机から身を乗り出してロナさんに詰め寄る。


「ああ、そう言えば聞いてなかったのでしたね。試験対象に選ばれたことに対しての報酬みたいなものです。私が試験をクリアできれば、ツヨシさんは記憶を保持したまま、元の世界に生まれ変わって、来世の凛さんと一緒に暮らせます」


 ロナさんの言葉は、雷が落ちたのかの如く、僕の体にピリピリとしたものを駆け巡らせた。

 なぜそれを先に言ってくれないのだ。それなら、喜んでモンスターでも、魔王でも、なんなら神様でも退治して見せるのに――。


「高報酬のモンスターはどこに行けばいますか」


 僕は先程の気持ちとは正反対のポジティブを通り越した、いわゆる“目を合わせてはいけない奴”のテンションで外に出ようとしていたが、ロナさんに引きとめられ、少し落ち着いた。

 

 とりあえず、話は最後まで聞こう。本当に“ヤバい奴”のテンションだったのか、ロナさんの顔は引きつっていた。

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