この人も危ない人ですか……。
あの後、ヒルデさんたちと今後の事を話した。その間、粉雪さんと亜麻猫さんが溝田さんにこちらの世界のことを教えてくれていた。
当面の間は溝田さんたちの金銭面での面倒をロナさんが見てくれるそうだ。溝田さんの分は僕が持とうかと思ったが、僕には1億G稼ぐという使命がある。だからこういった場合はできる限りロナさんが持つと言ってくれた。
「お願いします」
「貸し1つですよ」
ロナさんは僕にニッコリと笑いながらそう言った。そしてすぐに視線をヒルデさんに向けた。
「……。すまない」
「貸し6つですよ」
ヒルデさんはすごく嫌そうにしている。その訳は、ロナさんが僕に向けたものとは違う、邪悪な笑みを浮かべていたからだ。
そしてロナさんはその顔のままヒルデさんにそう言った。
「なんで6つなんだ?」
「こうなることが分かっていながら、無計画に彼女を連れてきたからです。その分も込みです」
「それでも6つは多いだろ」
「私があなたに無利子で貸しをつくると思いますか?」
ヒルデさんは頭を捻っているのか、額に手を当て考えごとをしだした。その様子をロナさんが勝ち誇った顔で眺めていた。
僕はその2人の不穏な様子を、意外にも穏やかな感情で見ていた。それはロナさんのあんな態度を初めてみたからだ。
多分2人の関係は、僕と溝田さんみたいなものなのだろう。傍から見たら仲が良いとは言えないかもしれないが、2人の間では言いたいことを言える関係が築かれていると思う。
しかし心配なことがある。それは2人のパワーバランスだ。
僕らの場合は、言いたいことを言い合って、時と場合によって、僕が優位に立ったり、溝田さんが立ったりと均衡が取れている……。と思う。
けれど2人の場合、今の状況だけ見るとロナさんが一方的にヒルデさんを殴り続けている。一応そろそろ助け舟を出そう。そう思った時だった。
「なんでこんなやつが女神様のお気に入りなんだ」
「あなたもなんだかんだで気に入られていると思いますけどね」
ヒルデさんは額に手を当てたままそう呟いた。それに対してロナさんはニヤケ顔を真顔に戻し、真面目な声色でそう返した。
僕はその言葉を聞いて、少しほっとした。一応相手のことを認めてはいるようだ。しかしヒルデさんにとってはその言葉は癪に触ったようだ。
ヒルデさんは何故か僕の腕を掴んで、自身の方へと引き寄せた。急だったことや体格差から僕はそのまま彼女に体を預けてしまった。
「え、ちょっと」
「ならなんでお前の試験対象はこんな可愛い子で、私のはゴリラなんだ」
「あなた、コネ使ってその試験を受けずに親衛隊に入ったでしょう。神様に気に入られていなかったら、そんなこと認められないでしょうに」
ロナさんはいつもの黒い笑顔を浮かべながら、僕をさっさと離せとジェスチャーする。いつもならブルッてしまうその笑顔だが、今回のその黒い笑顔のターゲットが僕でないこともあり、別の事を考える余裕があった。いや、その笑顔の対処方法を考えるのと同じ位、考えなければならないことになっているかもしれないからだ。だから流れをぶった斬るように質問する。
「もしかしてあのショタコンの天使さんですか?」
前にロナさんがショタコンの天使見習いに力を借りると言っていたことがあった。その時はそんな天使はいないと思っていたが、もしかしたらこの人がそうなのかもしれない。そうなるとまた面倒なことになりそうだ。
「な、ち、ち違う。ロナ、お前。私のことどんな風に説明しているんだ」
ヒルデさんは僕の言葉にすぐに反応した。この反応から見て、ショタコンなのは間違いなさそうだ。とりあえずロナさんの反応を見よう。
「実際そうでしょうに。それより早く、ツヨシさんを離しなさい」
ロナさんは黒い笑顔を浮かべたままだ。それならもう少し聞いてみよう。
「それで、僕の裸の写真はこの人に送ったんですか?」
「え、ツヨシさん?」
あの時ロナさんはショタコンの天使見習いの力を借りるために僕の上半身裸の写真を撮った。しかも手が滑ったとか言って、連射モードでだ。この反応を見るに送っていなさそうだ。
「なんだそれは」
それを聞いてヒルデさんはロナさんを睨む。やっぱり送っていないのだろう。
「知りません。何のことでしょうか? 私もそろそろ寝――。「鎖よ。あの者を縛れ」
それは不意打ちだった。突如ロナさんの周りに鎖が現れ、そしてその鎖は彼女に絡みついた。
僕は溝田さんの方を見た。すると彼女は聖水のビンを1本手に持っていた。さっき言っていたヒルデさんを止めた魔法とはこのことだったのか。
「良くやった。それでロナ。申し開きはあるか?」
「貸しを6つから1つに、でどうです?」
この期に及んでもロナさんはそんなことを言う。それに対してヒルデさんはあきれながら「事情は説明してもらうぞ」と言っていた。そこまでなら僕も安心できたのだが……。
「それとその写真も見せてもらおうか」
「見せるだけですよ」
2人がどんな顔をしていたのかは見えなかった。いや見たくなかったので見なかった。
僕はその言葉に、天使はこんなのばかりなのかと頭が痛くなってきた。
「どう。すごいでしょ」
そんな僕に溝田さんがドヤ顔をして今の魔法について聞いてくる。
「知らん。それと、やっぱりお前をさん付けで呼ぶのは止める」
「え、何で!?」
それは、こんな危険人物を僕の元へと連れてきた罰だ。それに今までほとんど呼び捨てで呼んできたのだ。さん付けより呼び捨ての方が呼びやすい。
僕は溝田の問いを無視して、台所に自分の布団を敷き始めた。
次回更新は12/1になります。




