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凛姉の決断②

「じゃあ私たちは台所にいるから」


 亜麻猫さんは腰を上げ、部屋を出て行った。途中、凛姉が呼び止めようとしたが僕が遮った。

 その亜麻猫さんは、玄関先でヒルデさんと話し込んでいた粉雪さんを自身の元へ呼び、お互い何があったか、事情を確認しだした。


「ロナさんはどうします?」


 僕は凛姉が助けを求める前に、先手をうつ。『どうします?』と聞いておいてなんだが、「残ります」と言われても、出て行ってもらうつもりだ。


 僕がこちらの世界に転移する原因を作ったのは彼女だが、死ぬ原因を作ったのは彼女ではない。それに、凛姉が自殺しようとしたのも、溝田がこちらの世界にやって来たのも、彼女には関係ない。これは僕たち3人の問題だ。


「私も台所でヒルデと話をしています。なにかあったら呼んでください」


 僕の思いをくみ取ってくれたのか、ロナさんは凛姉の視線を無視して部屋を出て行く。そしてなぜか、玄関先から逃げ出そうとしていたヒルデさんを、魔法を使って呼び止めていた。ロナさんのヒルデさんを呼び止める際に出した声は、かなり猫なで声だったのが気にはなったが、今は気にしない。そんな状況ではない。


「ほら、溝田はそこに座って。あ、お茶でも飲むか――。「はい、入れといたから。2人ともさっさと入りなさい」


 亜麻猫さんが粉雪さんと話をしながら、溝田の分のお茶を用意してくれていたようだ。湯呑みはもう無かったのか、この部屋に備え付けのティーカップに入れてくれていた。


「あ、はい」


 溝田は顔を上げ、亜麻猫さんからカップを受け取った。そしてそのまま僕の顔を見てきた。身長差があるので、彼女が俯いていてもある程度は顔色が分かる。だから泣きそうになっていたのは、気づいてはいた。ただ今の彼女の顔は笑顔だった。


「説明お願いね。ツヨシ君」


 自分の中で、弱気な心を吹っ切ることができたのだろう。それでこそ、溝田……。さんだ。僕たちもそれ相応の態度で返すべきだろう。

 僕と溝田さんは凛姉の目の前に、机越しに座った。凛姉は顔を泣きはらしたままだ。


 とりあえず、僕から話を振ることにした。

「僕がこっちの世界に転移することになった理由は聞いているか?」

「ええ、ロナさんっていう人の試験の為とか」


 やっぱりヒルデさんがその件は伝えてあったようだ。それなら試験の内容に触れられる前に話を変えよう。


「それなら良いんだ。それと凛姉をこちらの世界に呼んだことについては謝る気はないぞ。けど、まあ、なんだ。色々とありがとう」

「ツヨシ君が私にお礼を言うなんて珍しいね。どういたしまして」


 もっとからかわれるかと思ったが、今の状況ではからかうつもりがないのだろう。少し減らず口が返ってきただけだった。


「僕からは言いたいことは言えたけど……。先に聞いておくけど、溝田さんはどうしたいんだ? ただ話を聞きに来ただけなのかそれとも……」


 僕は凛姉の顔色を確認した。まだ何も言う気はなさそうだったので、話を勝手に本題へと進める。


「こっちで暮らせるのならこっちで暮らしたいな」


 溝田さんは僕の目を見ずに、凛姉の方を向いて言った。その言葉に凛姉は顔を俯かせていた。


「両親は良いのか?」

「こっちに来る前にお墓参りは済ませたよ。もう転生してあそこにはいないみたいだけど」


 溝田さんの両親は海外で考古学の研究者をしていた。だから彼女は、小さなときは祖父母に面倒を見てもらっていた。

中学生の時にその祖父母が亡くなり、母親だけが日本に帰って来て、一緒に暮らすようになった。

そして彼女が大学に入学と同時に母親は、一人暮らしをするのを許し、また外国へと戻って行った。その同年10月。夫婦揃って、日本に戻ろうとした時に飛行機で事故が起こってしまい、帰らぬ人となった。


「凛ちゃんたちの両親も、転生してるって聞いているよ」


 溝田さんはわざとだろう。凛姉の名前を出してこちらに話を振って来た。

 溝田の言うとおり、僕らの両親ももう転生しているらしい。主都に行く2日前くらいに聞いた。正直その話を聞いた時はほっとした。

ちなみに僕たちの魂は今世が初めてらしい。両親の話を聞いた時に、そう告げられた。


 話を戻すと、それなら問題ないような気がする。これ以上は自分自身で決める問題だ。こっちに来ることを止める権利など僕は持ち合わせていない。凛姉にちょっかいを掛けるのを止める権利なら十二分にあるが。


「それなら、こっちの世界に居ても問題は――。「いや、帰った方が良いよ」


 僕の言葉を遮るように、先ほどまで話す気配が無かった凛姉が言葉を被せてきた。


次回更新は11/29の予定です。

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