凛姉の決断①
それはさておき、先に凛姉の顔色を見ておこう。粉雪さんは先に事情を説明してきてと言ったが、僕個人の意見としてはそれには反対だった。
勢いに任せて顔を突き合わせたほうが良い気がする。まぁ、気がするだけなので粉雪さんの言葉にしたがいはするが……。
台所を通って、リビングに足を踏み入れる。ロナさんは一見普段通りの様子でお茶を飲んでいた。凛姉は僕がさっきまで読んでいた図書館で借りた『石言葉ができるまで』の本を開いていた。たぶん開いているだけで読んではいない。その2人を見て、亜麻猫さんがオロオロとしていた。
「凛姉。聞こえていたと思うけど……」
「うん、溝田さんが来ているみたいだね」
凛姉は本を、ぱたんと閉じた。やっぱり読んでいなかったようだ。凛姉は本を読んでいる時に話しかけられても、そのページを読み終わるまでは本を閉じたりはしない。ちょうど読み終わったにしてはタイミングが良すぎる。
凛姉はベッドに仰向けに寝転がり手で顔を覆って僕に質問してきた。
「私、どんな顔をして溝田さんに会えば良いと思う?」
顔色を見ようと思っていたが、できなくなってしまった。いや、見なくてもわかりきっている。顔を手で覆っているのもあるが、声がくぐもって聞こえてくる。
その様子を見かねたのか、亜麻猫さんが凛姉に声をかける。
「その溝田って子、凛の友達なんでしょ。だったら普段通りでいいんじゃない?」
「記憶を消そうとしたのにですか」
凛姉はまだ手で顔を覆ったまま亜麻猫さんに返事をする。さっきと変わったことと言えば、あきらかに泣いているのが感じられる声色になっていた。
僕はそれを痛々しく思いながら、玄関のほうへ手招きをした。その間も2人の会話は続く。
「それは相手の為を思ってのことでしょ」
「もし、亜麻猫さんが粉雪さんに記憶を消されそうになったらどうしますか」
凛姉にしては珍しく、相手の意見をないがしろにしようとしている。それに少し声色も、泣き声が混ざってはいるが、語尾に怒気がこもっていた。
けれど亜麻猫さんは、さっきまでのオロオロとしていた態度はどこにいったのか……。いや、無理をして今の毅然とした態度を造っているようだ。凛姉からは見えていないが、目線が定まっていない。少しキョロキョロしている。だが語気だけは崩さず話を続ける。
「溝田って子と同じ状況になった呈で話すわよ。まぁ、怒るわね――。「でしょ。だから私は怒られるのが嫌で――。「最後まで話を聞きなさい」
凛姉は亜麻猫さんの言葉を遮ろうとしたが、亜麻猫さんはそれを許さない。今度は心持ちを強く持つことができたのか、目線を凛姉に定めて言葉を続ける。
「でもね。もし粉雪様が謝ってくれたなら、私が選んだ服を着てもらうとか、そういった条件を提示して和解するわ。というより、別に怒られることを恐れているんじゃないでしょ、凛は」
そうだ。これまで凛姉と溝田は何回も喧嘩をしている。別に溝田も凛姉を駄々甘やかししていたわけではない。のんびりとしている凛姉に対して怒ることも多々あった。それに凛姉のほうも溝田の行動に対して、苦言を呈することがあった。
だが、言い争いをしても、次の日にはすぐに仲直りしている。しかし今回は事が事なだけに仲直りできるかわからない。けれど凛姉はその心配をしているのではないだろう。
「まぁ、きちんと面と向かって話しなさいな。今までの会話、全部聞いていたみたいだし」
「えっ! あ」
亜麻猫さんの言葉に凛姉は体をベッドから急いで起こした。
「凛ちゃん……」
凛姉の目線の先には溝田が俯いて佇んでいた。
「あっ――。つーくん……」
凛姉は僕のほうを涙目で睨んでくる。僕が玄関先で溝田を止めてくれていると思っていたようだ。
いつもの僕ならここで謝っていたかもしれない。けれど今回は違う。亜麻猫さんが嫌われ役を買って出てくれたのだ。凛姉の実の弟である僕が日酔ってどうするのだ。
「ちゃんと溝田と話そう。僕も覚悟を決めるから」
次回更新は11/27になります。




