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溝田がこちらにやって来た。

 夜も更けてきた。いつもの僕たちならもう寝る時間だ。けれど今日はまだ寝ない。ヒルデさんからまだ連絡が来ていないからだ。


「なんだかお泊り会みたいだね」

「そうだね」

 凛姉はベッドに座ってお茶を飲みながらそう言った。僕はその横に座って、凛姉の気持ちを無視し、本を読みながら返事をした。


 今この部屋には僕たちの他に粉雪さんたちがいる。今日はもうこっちに泊まるそうだ。2人は主都で買ったおそろいの色違いの浴衣を着ている。粉雪さんが白下地に水色の花柄で、亜麻猫さんが紫色の花が刺繍されたものだ。主都で1週間近く過ごしたからか、それとも元々か、粉雪さんは浴衣をはだけさせず、ちゃんと着ていた。


 ちなみにロナさんと凛姉は2人と同じ白下地の浴衣に、それぞれ黒色と緑色の花柄があしらわれている。

 あと僕だけジャージのままだ。凛姉にエメラルドを送る夢はまだあきらめていない。それまでは出来る限り節約するのだ。


「それでまだ連絡はないのかしら」


 しびれを切らしたのか、隣に座っている粉雪さんが、ウトウトと船を漕ぎだしたからか、座布団に座ってお茶を飲んでいた亜麻猫さんが、湯呑みを机に置いて聞いてきた。


「まだ日が変わるまで時間がありますから……」


 ロナさんは少し不安そうにしながらそう答えた。

 僕は、なぜ不安そうにしているのか疑問に思った。出会った時ならともかく、今のこのメンバーの間柄なら眠っているのを起こしてもとやかく文句を本気で言う人はいないだろうに……。


「でも、ちょっと気になりますのでこちらから連絡を取ってみましょうか」

「そうしてちょうだい」

 そう言ってロナさんは携帯電話を出した。そしてダイヤルを押し始めた。


「え、そうやっていたんですか」

 僕は思わず声を出してしまった。なにか魔法陣などを描いたり、呪文を唱えたりして交信を行っていたのかと勝手に思っていた。あっ、いや、僕がこちらの世界に来たばかりの時に、他の天使見習い……。今思えばヒルデさんと連絡を取っていたのだろうか。その時は目を赤く光らせるだけで特になにかしていた覚えはない。


「あ、いえ、魔法を使って交信しますよ。この携帯電話に魔法を掛けて使うんです。今押した番号もテキトウなものです。こういった普段の一連の動作を行うことによって、魔法の効果が上がるんです。一応、今までと違って天界にではなく、異世界に連絡を取ることになるかもしれないので、簡略的には行わずに……。って、あれ?」


 ピリリリィと電子音がなった。ロナさんの携帯からだ。


「本当に魔法で交信しているんですよね?」

 多分ヒルデさんから交信がきたのだろう。だけどやっぱり電子音を鳴らされたら魔法を使っている実感がわかない。


「はい。ただヒルデがこの近くにいるみたいで――。コンコンコン。


 乾いた音が僕たちの部屋に響いた。玄関の方からだ。

 僕は一応ロナさんに出て良いか聞いてからドアを開けようと思い、彼女のほうを見た。

 ロナさんは手で僕を制してから電話に出た。


「もしもし、ロナです」

 一応もしかしたら女将さんとかかもしれないので、僕は玄関のほうで待つことにした。

「ツヨシさん。開けてください。ヒルデが来たみたいです」


 僕がベッドから腰を上げるのと同じくらいのタイミングでロナさんがそう言った。なので僕は急いで玄関へと向かった。


「一応私も……」

 さっきまで船を漕いでいた粉雪さんも刀を腰には差さず、左手で鞘を掴んで僕について来てくれた。うつらうつらしていても話自体はきちんと聞いていたのだろうか。いや、目がまだ眠そうにしている。多分聞きなれない電子音で目が覚めたのだろう。


 僕は粉雪さんから目線を切って、ドアノブを握った。

「遅くなってすみませんでした。入って下さ――。え


 僕の横を後ろから風が切っていった。だから思わず後ろを見てしまった。少し後ろに寝ぼけ眼の粉雪さんがいたはずだ。それなのにその彼女がいない。彼女の刀だけが床に置かれていた。となると……。


「出会い頭に、いきなり魔法を使おうとするのが天使の挨拶なのか?」

「いはぁ、ちふぁいます」


 急いで視線を廊下側に僕は戻した。予想通り粉雪さんが僕の横を通り抜けたときに起きた風だったようだ。

 ただ1つ思ってもいなかったことが目の前で起きていた。


 普段はのんびりとしていて、マイペースな彼女が風を切るほどのスピードで動いたのだ。騎士隊長の時みたいに、なにか攻撃を僕が受けそうになったからかばってくれたのだと思った。おおかた、ロナさんから僕の能力の説明を受けていたヒルデさんが攻撃を仕掛けてきたのだろう。そう思って視線を廊下に戻したのだ。


 その視線の先には銀髪のヴァルキリーみたいな女性が、腕を胸当ての前で組んだまま粉雪さんともう1人の女を見つめていた。おそらくこの銀髪の女性がヒルデさんなのだろう。この人がいるのは何も問題はない。それに目の前の光景を止めないのも文句はない。


 粉雪さんに右腕を後ろに引っ張られ、左腕を自身の体と壁で挟むようにして拘束され、口に指をねじ込まれ、おそらく舌を掴まれているのだろう。その女がこちらに目で助けを求めてくる。

 多分僕に魔法を使おうとしたのだろう。けれど見た目はか弱い女性に見えるからか粉雪さんはかなり手心を加えて拘束しているようだ。


 このまま目の前の女には少し反省してもらおうかと思ったが、この女は凛姉を狙う女だ。一応この女は、凛姉が女の子だから好きになったのではなく、好きになった子がたまたま女の子だったというタイプの女だ……。と思う。けれどあいつの部屋のベッドの下にあるエロ本を見るに、そうではないような気もする。


 だからもしかしたら美人な粉雪さんに口の中に指を突っ込まれているこのシチュエーションに興奮を覚えているかもしれない。


 凛姉を相手にそのような顔をしている目の前の女は腐るほど見てきた。ただ他の女性にそのような顔をしているのは見たことが無い。だから今の状況で、もしそんな顔を浮かべたら“さん”づけで呼んでいる現状が崩れてしまう。

 それはなんとなく嫌だったので、一刻も早くこの状況を解いてもらうことにした。


「粉雪さん。その人、凛姉と僕の知り合いの溝田さんです。離してあげて下さい」


 僕は一応困り顔を造って、粉雪さんにそう言った。

次回更新は11/24になります。

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