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溝田と言う女③

「まさか魔法を使ったのか……。しかしいくら下界に降りるために弱体化したとはいえ、私を止めるほど……。しょうがない――」


 不審者はなにやら1人ブツブツ言いながら、目を閉じた。そんな彼女をしり目に、私はゆっくり腰を落したまま後ずさりしてベランダへ行こうとした。立てるのならダッシュで逃げ出したいが、やはりまだ体が重い。


「クソ、なんで解けないんだ」


 不審者はまだ目をつぶったままだ。このままベランダから助けを……。

カランッ――。


 しかし途中で机にぶつかってしまい、さっき飲んだ梅酒の缶を床に落としてしまった。


「あ、おい、待ってくれ。えーっと君、目から血が出ているぞ。手当をしてあげるからこの魔法を解いてくれ」


 不審者に気付かれてしまった。ただなぜか彼女は、今の場所から動かず私を呼び止めてくる。それも下手な嘘をついてだ。なぜ私の目から血が流れるというのだ。もし血が流れることがあるとすれば槍が原因だ。その槍を扱っている人に手当をしてやると言われても信用などできない。だから彼女の言葉を無視した。


 しかしそれが多分彼女の逆鱗に触れた。


「……。鎖よ。あの者を縛れ」

「え、キャー」


 何か小声で呟いたかと思えば、中二臭いセリフをこちらに聞こえる声で言ってきた。ただ、その口にした言葉通りの現象が私の身に起こった。

 突如何も無かった空間から鎖が現れ、私の両腕と両足を拘束した。


「すまない。女の子にそんなことをしてしまって。痛いだろ。だから私にかけた魔法を解いてくれ。そうしたら私も解くから」


 不審者は最初に私に見せた敵意のようなものをにじませながらそう言った。確かに彼女が言うように縛られた箇所が痛い。しかし今それはどうでも良かった。この腕の痛みはどこかで、つい最近経験したような気がする。


“凛ちゃん。馬鹿なことは止めよう!!”


 そうだ。あの時だ。あの女の子がビルの屋上から飛び降りようとしていたのを助けようとして金網のフェンスの穴の部分に無理やり手を突っ込んだ時の痛みだ。

 しかしなぜ私はその女の子を凛ちゃんと呼んでいるのだろうか。これではまるでかなり親しげな間柄だったような……。


「君は一度記憶を失った方が良いんだ。今の自堕落な生活を続けるつもりか? こんな酒におぼれるような。一日で酒瓶を何本も空けるような生活を女の子が送るつもりか」


 それでもなお、不審者は私に問いかけてくる。自身の言葉を無視し続ける私にいら立ったのか、それとも本気で私の心配をしてくれているのかわからない。けれどそんなことどうでも良い。ある1つの言葉が頭に引っかかった。


「さか…びん…。さか…りん。あ」


“酒井凛です。よろしくお願いします”


 あれは一目ぼれだった。中学1年の頃初めて彼女を見た時に、これが恋かと初めて理解した。それから中学3年までは一緒のクラスになることがなかったので、遠くから見つめるだけだった。


「凛ちゃん……」


 なぜ忘れてしまっていたのだろうか。大切な人なのに。


「おい嘘だろ。まさか完全に記憶が戻ったのか!?」


 不審者がなにやらひどく驚いている。しかし私にはそんなことは関係ない。ただ聞きたいことは1つだ。


「凛ちゃんは今どこにいるんですか」


 あの時凛ちゃんは、ビルの前で錯乱状態になって突如姿を消した。それなのに私は今の今までそれを忘れていた。


 なぜか私は無意識のうちに、自身を縛っていた鎖を引きちぎり、梅酒の缶をもう1本空けていた。


「言えるか。それより私の問いに――。「鎖よ。あの者を縛れ」「そんな不完全な呪文で、って馬鹿な」


 見よう見まねだが、きっと不審者がしたように鎖で相手を縛ることができると思った。そして実際にできてしまった。しかも相手を大の字のように縛れてしまった。


「私、男の子より女の子のほうが好きなんです」

 そう言って私は、不審者のお腹を服の上から艶めかしくまさぐった。


「正気か。普通こういうことは好きな異性と――。ひゃあっ」

「私、ノンケだってかまわずって人なので……」


 今言ったことは本心ではない。私だって本当は、初めては凛ちゃんに捧げたい。

 これからすることは、目の前の不審者と私のチキンレースだ。

 私はベッドの下からHな本を取りだし、その本の1ページを不審者に突きつける。


「今の状況ってこの本と一緒ですよね」

「ヒィッ」


 彼女は短く悲鳴を上げた。それもそのはずだ。いわゆる“くっ、殺せ”展開のオークを敵の女幹部に替えたエロシーンを見せた。純情そうな彼女には刺激が強いだろう。それに今まさに自分が囚われの姫騎士状態なのだ。つまり純潔の危機なのだ。


 私自身こんなことする気は毛頭ない。ただ本当にしそうだなと相手に思われないといけない。


「へぇー。お尻はやわらかいんですね。それじゃあ太腿はっと」


 私は彼女のお尻を片手で鷲掴みにした。そして次はと、スカートの下側から手を突っ込んで太腿を直に撫でようとした。だが手が止まってしまった。その理由は――。


「や゛め゛て゛く゛れ゛。゛初゛め゛て゛は゛無゛垢゛な゛男゛の゛子゛に゛捧゛げ゛た゛い゛ん゛だ゛」


 目の前の不審者がとんでもないことをカミングアウトしながら泣きだしたからだ。


次回更新は11/20になります。

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