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記憶の消去は止めません。

「とりあえず部屋に行こう!」


 僕はそう言って、凛姉の腕を引っ張って宿の階段を上がった。後ろからロナさん、それと不思議そうな顔をしながら粉雪さんたちがついてきた。


「ここなら電話を取っても大丈夫だよね」

「取ってください」


 凛姉は電話が切れるのを恐れたのか、それとも他の事を思ったのか、部屋まで行かず、階段を上がってすぐにロナさんに電話を取って良いか聞いた。それにロナさんは困り顔で、だけど力強く答えた。


「もしもし、溝田さん!? 凛だけど!?」


 凛姉はロナさんの返答後、すぐに電話を取った。僕たちにも聞こえるようにスピーカーにしてくれている。

 しかし向こうから溝田さんの返事はない。だが別の人の声が聞こえてきた。


「すまない。詳しいことはロナを通して報告する。ロナ。夜になったら連絡する」

 ガチャ――。

 電話が切れた。


 凛とした低い、女性の声だった。その声の主はロナさんと面識があるようだ。僕と凛姉はロナさんの顔を見た。粉雪さんと亜麻猫さんは階段の途中で野次馬の対応をしてくれている。


「とりあえず、部屋に入りましょう。粉雪さんたちも入ってください」


 僕は先に自分たちの部屋の鍵を開け、皆を待っていた。飲み物とかの準備は後回しで良い。今はそれどころではない。ロナさんに防音の魔法を使ってもらわなければならない。それにそのロナさんに聞きたいことが山ほどある。


 僕の声掛けに応じて全員部屋に入ってくれた。申し訳ないが心配そうにしながら駆けつけてくれた人は丁重にお断りした。ただの野次馬みたいな人には不躾な対応で帰ってもらった。あとで謝りに行こう。


「それでどうしたのよ、急に」


 亜麻猫さんが部屋に入るなり僕たちに聞いてきた。それに対して、凛姉が少し慌て気味に答える。


「元いた世界の友達から電話がかかってきたんです」


 一応亜麻猫さんたちには、スマホの事を簡単に説明したことがある。それぞれの理解度に差はあるが、おおむね理解してくれている。だから今度は粉雪さんが口を開いた。


「その通話機械は世界を飛び越えて使える物だったのか?」

「いえ、無理だったんですが……」


 凛姉はロナさんの方へ顔を向ける。それにロナさんは「ここからは私が話します」と答えた。


「一応通話自体はできるのですが、魔力を消費します。通話だけなのでツヨシさんなら凛さんを転移させた時の3分の1くらいの聖水の量を消費します」

「それなのに相手はかけてこられたのか」


 粉雪さんは真剣なまなざしでロナさんを見つめていた。ロナさんはそれに答えるように冷静に話を続ける。


「多分、私の同期が原因です」

「「どういうことですか?」」


 ロナさんの回答に僕と凛姉は食いついた。

 溝田さんは元々酒をそこまで飲むタイプではなかった。というより彼女はまだ元いた世界にいる。それなら酒を飲んで魔法が使えるというものではない。それに彼女はものすごく……。いや少し変わってはいたが、魔法が使えるとかそういった様子はなかった。霊感とかもあるようなことは言っていなかった。


 だが実際に電話が溝田さんからかかってきた。

 しかしロナさんの同期が関わっているのなら話は別だ。


「ヒルデが溝田さんの周りで、こちらの世界のように魔法が使えるようにしたのだと思います。おそらくですが記憶消去の為に」

「あれ、記憶は消してもらったのでは?」


 僕は凛姉の顔を伺った。凛姉は首を縦に振った。


「そう説明は受けていたのですが……。多分完全に記憶を消去できていなかったのでしょうね。ヒルデが出張るくらいですから」


 ロナさんの話では、ヒルデさんという同期はもう、ただの天使見習いではなく、天界の騎士団にエリートとして入団し、神様からの信頼も厚いそうだ。

 そんな天使は基本、人間界の些事に口出ししない。記憶の消去の役回りは、基本は年季の浅い見習いが担当する。


 ただ今回は何らかの原因で、ただの天使見習いでは処理しきれなかったので、ヒルデが出向いたのだろうと言うことだった。


 それを聞いて……。いやなぜかヒルデという名前を聞いてから、僕の体が震えている。不安に思っているからだろうか。


「あの。そのヒルデさんって性格の方は……」


 地位の高い天使は人間の都合など考えない。それは僕とロナさんが出会った時の話をしていた時に聞いたことだ。もしかしたらそのヒルデさんも例にもれず、消さなくても良い記憶まで消してしまうのではないかと僕は思ったのだ。しかしそれは杞憂に終わった。


「心配しなくても大丈夫ですよ。あの子は人の痛みとかも考えて行動ができる天使です。危害を加えたり、不必要な記憶の消去をしたりはしませんよ」


 ロナさんも僕の気持ちを汲んでくれたようだ。優しく答えてくれた。それなのに僕の体はまだ少し震えている。

 もしかしたら凛姉の、溝田さんの記憶を消す判断を支持したことについて頭では理解しても心では拒否しているのかもしれない。


 今ならまだ間に合うかもしれない。それに僕が無茶をすれば彼女をこちらの世界に呼ぶことはできる。しかしそれはしてはいけない。その方が彼女の為だからが。


 だから僕はその場では何も言わず、夜の報告を待つことにした。


次回更新は11/17です。

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