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溝田という女①

 私の名前は溝田カオリ。大学4年生だ。

 自分で言うのもなんだが、容姿もスタイルも他の人とは一線を画している。その証拠に街を歩いていると、街で見つけた美人特集的な雑誌の取材をよく申し込まれる。それにその記事を見た都会の芸能事務所からスカウトの話がきたこともあった。


 今も相手には申し訳ないが大学の同級生の男子に観覧車の中で告白されているところだ。

「溝田さん。僕と付き合って下さい」

「ごめんなさい」


 まさか初めてのデートで告白されるとは思っていなかった。けれどそれは私の態度が原因だ。

 彼とは大学のゼミが一緒で男子の中では多分一番話していたと思う。それに遊園地に2人きりで行こうと誘われてOKしてしまったのも彼を勘違いさせた原因だ。


“お前みたいなクソ女に凛姉は渡さないからな”


 私はここまで人の好意に気が付かない女だったのだろうか。そんなことを考えていたら、不意に頭の中に先の言葉が浮かんだ。


 確かこの言葉を言われた時も、男の子と一緒に観覧車に乗っていたような気がする。ただその時は今みたいな告白される雰囲気ではなかったし、暴言を吐かれたのに心の中では楽しく思っていたような気がする。


 そもそも今の男の子は誰だ。成人していそうな男の子で仲が一番良いと思うのは目の前の彼だ。それなのに頭の中に出て来た男の子と過ごした観覧車の方が、今のこの観覧車の状況よりよっぽど楽しそうだった。


「今日はもう帰りましょうか……」


 観覧車も地上に降りてきたところで彼が私に声を掛けてきた。それに私は返事をして観覧車を下りた。


 その後、私たちは観覧車に乗る前の距離感を保てないまま遊園地を後にした。


◇◇◇


 やっぱり最近の私はどこかおかしい。

 コンビニに入り、買い物かごを手に取り、店の奥へと足を進めながら1人考えた。


 いつの間にかコンビニから成人向け雑誌が消えていた。いつも来ているのなら無くなったのに気が付いた時に不思議に思うだろう。けれどコンビニを頻繁に利用するようになったのはつい最近だ。


 昔は体に気を使ってコンビニで弁当を買わずに自炊していた。しかし今は晩御飯はコンビニ弁当で済ませてしまっている。それどころか化粧品類までコンビニで買うようになってしまった。


 なぜここまで急に生活が変わってしまったのだろうか。もし失恋でもしたのであれば今の状況を理解できる。自分を綺麗に見てもらう必要がなくなるからだ。けれどそんな相手はいない。

 あの観覧車の男の子は違うだろう。名前すら出てこないのだ。多分違う。


 私は冷蔵庫から缶の梅酒を5本取ってかごに入れた。そして弁当コーナーの方へと足を運ぼうとした時にお菓子コーナーが目に入った。


“溝田さん。このシソ味のポテトチップスおいしそうじゃない?”


 そうだ。私がコンビニをよく利用していた時は、雑誌が陳列されているところを通らず、お菓子コーナーで何を買うか今頭の中に出て来た女の子と話をしていた。


 だけどやっぱり先の男の子のように名前が思い出せない。


「お弁当は止めておこう」


 今日は晩御飯を食べる気が無くなってしまった。だからあのポテトチップスを肴に、梅酒を飲もう。


 私は弁当コーナーに寄るのを止め、そのお菓子と梅酒を買い、コンビニを出た。


 あの女の子が原因で私は梅酒を飲むようになったのかなと思いながら、帰路につく。

 途中、私には関係のない工務店の社長とその息子と弁護士が警察に捕まった話が耳に飛び込んできた。なんでも息子が薬物を使っていたのをもみ消そうとしたが失敗したそうだ。 

 そのもみ消し方がかなり非合法のものだったからそれに関わった弁護士も警察のお世話になるそうだ。


 それを聞いてなぜか私の胸がスーとした。本当になぜだろうか。


◇◇◇


 家に帰るなり私はベッドに体を投げだした。白い枕にファンデーションが少し付いた。だけどどうでも良かった。今はお酒を飲むとしよう。お風呂は明日でもいいや。化粧を落とすのは晩酌が終わった後にしよう。どうせ薄く塗っただけだ。すぐに落とせる。


「本当に私どうしたんだろう」


 私はそう言いながらベッドから体を起こした。そしてやっぱり先にお風呂に入ろうと思った。さすがに今日お風呂に入らないのは女を捨てすぎている気がしたからだ。


「あっ」

 

 それはタンスから下着類を出そうとした時だった。買った覚えのない男物の下着が目に入った。

 昨日までは一人暮らしで危ないからダミー用で買ったのを忘れていたのだと思うことにしていた。ただ今日は違った。


“お前、僕のと一緒に凛姉のまで持って帰っただろ”


 またあの男の子だ。またこの子が私の頭の中に出てくる。となるとこの下着はこの子のものなのか。


「もう、いや……」


 私は知らない間に薬物にでも手を出してしまったのだろうか。お酒でここまでの記憶障害は起こらないだろう。吐きそうになる。


「080-……」

 私は思わずスマホの電話マークをタッチしてダイヤルを回す。これは誰かわからない番号だ。ここ最近不安なことがあるとこの番号を無意識の内に押している。きっと悪い奴に繋がる番号なのだ。そう思い通話することを躊躇っていた。


 私は買ってきた梅酒を一本空開け、一気に飲み干した。


「よし」


 もしこれが薬の売人に繋がる番号なら自主しよう。自主する前に、一人暮らしを許してくれた両親に謝りに行こう。同じ県内だ。その足で警察に向かおう。


 私は意を決し、通話ボタンを押した。

 相手は中々出てくれない。友達に電話する時にこれだけ鳴らしたら、今は電話に出れない状況なのだと思い、通話を切る。


 だから通話を切ろうとしたその時だった。


「本当に記憶が完全に消去できていないのだな……」


 1LDKの私の部屋に、急に銀髪ロングの凛々しい天使みたいな女性が現れた。

次回更新は11/16の予定です。

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