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女神様の憂鬱①

 ツヨシたちが主都からメリー村に帰る少し前に時間はさかのぼる。


 白を基調とした天空の間。ここは私が女神として振る舞うための広間だ。


「今回の報告は以上です」

 私の前で片膝をついた、私の分身である天使が報告を終えた。

 私はその天使と笑顔で言葉を交わす。

「分かりました。私の思っていた通りの結果です。報告ごくろうさまでした」

「さすがは全知全能と呼ばれる女神様です。それでは私はこれで失礼します」

 その天使を私は造り笑顔で見送った。


 いつからだろうか。名前で呼ばれず、女神様と呼ばれるようになったのは。


「女神様。次の報告者を中に入れてもよろしいでしょうか」

「分かっています。入れてください」


 扉の外側から声が掛けられる。私は事務的にそう言った。

 本当は今の天使で業務の報告は終了だと思っていた。それに今の天使の報告は私が考えていた結果よりも良い物だった。本当なら褒めてあげたかった。

 ただそれはできない。私は全知全能でなくてはいけないのだ。この天界に住む天使たちはそれを望んでいる。

 私が見守っている二つの世界とこの天界。そこで起こることを私は予測できなければならない。


「女神様。天使見習いロナとその試験対象者、酒井強の報告です」


 いつのまにか次の報告者が天空の間に入って来ていた。私は急いで呆け顔を真面目な、凛々しい顔へと変え、手で自身の淡い金色の長髪を整えた。


「それであの変わり者の調子はどうです?」

「今週は500万の借金をしました」

「そうですか!」


 変わり者とはロナの事だ。あの子は他の天使のように私を敬ったりはしない。それどころか私が間違ったことをすれば戒めてくれる。


ただそれが原因で私が彼女の事を変わり者と言わなければならなくなっている。

他の天使は私が間違ったことをしても何か深い考えがあるに違いないと思い、その行為を注意すらしてくれず、先のように褒め称えてくれる。


 だから他の同期の天使はロナの事を目の敵にする。後輩の天使は彼女の能力は認めるが、性格についてはコメントを控え、先輩天使は能力を認めたうえで、その性格を矯正しようとしていた。それは本心から辞めて欲しいと思っていた。


 私は彼女が借金をしたという報告を聞いて思わず胸が躍った。


 彼女とは一つの賭けをした。それは試験に合格することができなければ地上の監視の仕事は諦め、私の補佐官見習いとして仕えるというものだ。


 彼女には私の近くにいてもらいたい。私が間違ったことをしたら指摘してもらいたい。そしてゆっくりと他の天使たちも彼女のように、私のことを全知全能と思わなくなって欲しい。


 だから今回彼女が借金をしたというのは、私の目標に一歩近づいたと思った。試験対象の彼にも感謝しなくてはならないと思っていた。それなのに……。


「彼女が試験に合格できなくても、試験対象の彼の願いは叶えてあげましょうか」

「それなのですが……。酒井強が魔法を使い、姉の凛を自分のもとへ転移させました」

「はい?」


 私は思わず耳を疑った。彼は確か下戸だったはずだ。だからお酒が魔法の発動源になる世界に転移を許したのだ。

 元の世界では3年で1億を稼ぐことはできない。今いる世界でも、下戸でまともに魔法を使うこともできないので無理だろう。だから彼が不慮の事故で死んだ時、別の試験対象者を決めなかったのだ。代わりの対象者が1億稼ぐような者になっては困るからだ。


「一応、ロナを通じて凛とコンタクトを取り、彼女の意志を聞き、元の世界で彼女を知っている者の記憶消去を行ったのですが……」


 目の前の天使は私が素っ頓狂な声を出したにも関わらず、気にせず報告を続ける。


「1人だけ完全に記憶を消去できていないようなのです」


 頭が痛くなってきた。この際、記憶の消去が完全にできていないというイレギュラーは目をつぶろう。しかし問題は試験対象者の彼、酒井強だ。


 なぜ彼は転移魔法など使えるのだ。ロナが手伝ったとしても世界を超えて転移させる魔法など私にしか使えないはずだ。まして下戸の彼が使えるとは思えない。


 ただこの疑問も今は置いておく。それよりも――。


「記憶消去に関しては、私の方から適任者を選出しておくので心配しないでも良いです。それより、その転移魔法を使ったという彼はどういった……。いえ、彼達は今どうしているのですか」


 私は先の笑顔を何とか維持しながら、目の前の天使に聞く。途中、思わず彼の素性を探りそうになったが、どうにか思い留まれた。

 しかし胸にある嫌な予感は無くなってはくれない。それどころかその予感は的中することとなってしまった。


「主都の方へと呼び出されるそうです。ワイバーンを退治したのと、今回の転移魔法の件で王族お抱えの魔術師として白羽の矢が立ったそうで……。女神様? どうされました?」


 目の前の彼女に言われて、自分の手が震えていたことに気がついた。おそらく顔を青くなっているだろう。とりあえず取り繕わなくては。


「なんでもありません。それより酒井強はその話を受けるとあなたは思いますか」

「いえ、彼の性格的に受けないと思います。死んでしまう確率も高くなりますし」


 そう言えばそうだった。1億稼いでも3年の間幸せに生きなければ試練達成とはならないのだ。いくら高給とはいえ、この仕事は受けないだろう。


「そうでしょうね。あとはヒルデに任せましょう。報告ごくろうさまでした」

「はい。それでは失礼いたします」


 私は本日2度目の造り笑顔で、天使を見送った。

次回の更新は11/12になります。

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