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犯人と対峙します③

 ニック導師は今もなお独身だ。

 ただそれは出会いが無かったからではない。


 学生の頃から優秀で、基本的には人当たりが良かった。告白されたことは両手の指で数えきれない程だ。それに婿養子を条件に、貴族階級からの縁談話が何件もあった。


 ただ、彼はそれを断り続けた。


 別に女性に興味が無かったわけではない。学生時代には友人と、街の本屋にエロ本を買いに行った事もあった。

 術士になってからも仕事の付き合いで、キャバクラや風俗に何度も足を運んでいる。


 その行為自体はニック導師も楽しんではいた。ただ魔法の研究をしているほうが、何倍も楽しかった。


 エロ本を買いに行くのよりも、魔法の研究で、新たな障害が現れるのが楽しかった。

 キャバクラで研究内容を理解できていないキャバ嬢に、褒められチヤホヤされるよりも、学会で認められるほうが何倍も嬉しかった。

 風俗で女性に自身の腰を単純に打ち付けるよりも、試行錯誤しながらジント導師と競い合うほうが、心が躍った。


 その魔法バカなニック導師にも、先に言ったように魔法の研究の手が止まる事があった。


 それがジュネヴァさんの存在だ。学生時代、友人にからかわれた時は、本気で彼女に対する思いは、一時の気の迷いだと思った。しかし、それは間違いだったのではないかと思うようになっていた。


 別に結婚を急かされたわけでもない。元々、孤児院出身だ。孫の顔を見せろと誰にも言われはしない。

 子どもも欲しいとは思わなかった。学生時代は周りで、子どものことについて話すことは無かった。就職してからは、話すことはあったが、以前変わりなく魔法の研究しか頭に無かった。


 その考えが少し変わったのが、ジント導師とジュネヴァさんの結婚だ。


「最初はお前を馬鹿にしていた。結婚なんかしたら魔法の研究の時間が減る。だから、もうこれからは私が勝ち続けると」 


 たがそうはならず、今もなお一進一退の攻防を続けている。


「それで俺からジュネヴァを奪おうと?」

「信じて貰えないかも知れないが……。半分はそうだが、もう半分は納得がしたかっただけなんだ」


 ニック導師も持っていた煙草を灰皿に押し付けて火を消した。


「魔法が解かれなければ、どうにかして奪おうとしたかも知れない。ただ今の自分の感情は自分が一番分かっている。このジュネヴァに対する今の感情は、恋ではなく、何か別の腐ったようなドロドロとしたものだ」


 だから呪いを解いてくれたことには感謝しているそうだ。こんな感情の自分がジュネヴァをどうこうする資格はないと、頭ではわかっていても、心が暴走していたかも知れないからだ。


 ニック導師は席を立ち、着ているローブに付けていたバッジを机の引き出しに仕舞った。


「それじゃあ、連れて行ってくれるか?」

 ニック導師のその言葉に隣にいた2人の弟子がひどく反応した。


 けれどジント導師は冷静に言葉を返した。

「ニック。お前に頼みたい事がある。それからベイリー、お前にもだ」

「何だ?」「何ですか?」


「ニックは今、罪人に対する更生プログラム。人格矯正の魔法の開発をしているな」

「ああ、そうだが?」


 ニック導師は「なぜ、今そんなことを」といった顔をした。ただ思うことがあったのか、申し訳なさそうな顔に変わった。


「悪いが、この研究の引き継ぎは弟子の2人に任せる。だから――。

「違うそうじゃない」


 ジント導師はニック導師の言葉を遮りそう言った。そして――。


「私の教え子が今回、私の為に罪を犯した。だから協力してくれ」


 ジント導師は頭を下げた。その様子にニック導師は驚いた。


 ジント導師の考えはこうだった。

 ニック導師の研究にあの騎士隊隊員の2人が協力したは良いが、魔法の影響で罪を犯してしまったというものだ。


 そんな簡単に偽装工作などうまくいくものかと僕は思ったが、

ベイリーさんがどうにかするみたいだ。それにロナさんが、条件付きではあるが、協力を申し出た。


 その条件と言うのが、一度ジュネヴァさんも交えて3人で話し合いをすることだそうだ。


 僕はどういうことだろうと思いながらも、黙ってことの成り行きを見守ることにした。

次回更新は10/7になります。

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