犯人と対峙します②
ニック導師は執務机の引き出しから煙草の箱を取り出した。そしてその箱から煙草を一本、少しだけ出してジント導師へと吸い口を向けた。
「お前も吸うだろ?」
「まぁ……。もらおうか」
ジント導師はニック導師から煙草を貰うと、山積みにされた本を少し退けて、即席の椅子みたいにしてそこに座った。そして魔法で指先に炎を灯して煙草に火を点けた。
「お前とは学生のころからの付き合いだが、こういうのは初めてだな」
「そうだな」
ジント導師は一息ついてからそう言った。それにニック導師は、灰皿を魔法でジント導師に渡してから返事をした。
僕はこのやりとりの間、ジント導師は何を考えているのだろうと思った。
病室ではニック導師は今回の件と関係ないと思おうとし、ここに来る途中自分で気が付かない程度に早足になり、研究室前まで来て自身でも取り乱していることに気が付きそうなくらいに慌てて、野次馬をかき分けながら部屋に入って行った。
そしてニック導師が犯人と確定した今。ジント導師はそのニック導師と煙草を吸っている。見たところ表情は落ち着いている。それに動揺して、煙草を逆さに持っていたりはしない。
他の人も僕と同じことを思っているのか、誰もその事に触れない。
だから僕はニック導師を急かしはせず、ジント導師の好きなタイミングで話し始めてもらおうと黙って待っていた。するとニック導師は、話す決心がついたようだ。
「そう考えるとジント。50年近くお前と争っていたんだな」
「そうだな……」
ジント導師も彼が話始めると思ったのだろう。さっきまでの普段と変わっていなかった表情が変わり、背中がピクッとしたのを僕は見逃さなかった。
「基本的にはジントに負けたのならしょうがないかと思えるんだがな、3つだけは本当に悔しいと思ったことが――。「回りくどいのは嫌いだ」
ジント導師はニック導師の言葉を遮りそう言った。彼の心の中ではさっさと言ってもらって楽になりたかったのだろう。その声は悲しそうな声色だった。
ニック導師はそう言われると思っていたのか、特に反応をせず「わかった」と答えた。そして――。
「魔法の研究ばかりしていた私だったが、一時、その手が止まりかけたことがあったんだ。それがジュネヴァの存在だ」
「お前はあのとき、ジュネヴァの事を好きではないと言ったはずだが……」
ジント導師は間髪入れずそう聞いた。その問いにニック導師は少し困り顔で答えた。
「ああ。あの時は一時の気の迷いだと思っていた。調度あの時期、お前との勝負で負けが込んでいた時、彼女と出会ったからな。だからあの時は、心が弱っていて女に現を抜かしそうになっていると思ったんだ。ただ……」
ニック導師は少し言いあぐねた。それにロナさんが反応を示した。
「ただ……。何です?」
ニック導師は煙草を思いっきり吸い込んだ。それとは対照的にジント導師は、まだ吸い切っていない、持っていた煙草の火を灰皿に押し付けて消した。
そしてジント導師が煙草から手を離したのと同時に言葉を再開した。
「お前がジュネヴァと結婚してから、やっぱりあの時の気持ちは本物だったんじゃないかと思い始めたんだ」
次回更新は10/5になります。




