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犯人と対峙します①

 ニック導師の研究室は、お城の近くにある魔術学校の敷地内にある研究塔の3階にある。ちなみに導師の研究室は5階だそうだ。


 通常この時間帯は、ニック導師は講義を受け持っていない。彼の性格上そういう時は、大抵研究室にいるそうだ。


「ここだが……。あいつの部屋の近くにも人だかりができているな」


 魔術学校の敷地に入った段階で何やら学生たちが騒がしくしていた。導師は気にしていないフリをしながらも、歩くスピードが速くなっていた。多分本人も気が付いていない。

 導師もここまで来ると、先の自身の発言に自信が持てなくなってきていたのだろう。ただ、もしかしたら違うかもしれないという淡い期待が今打ち砕かれた。


「どいてくれ」


 導師は学生たちをかき分けながら、ニック導師の研究室へと向かう。僕たちもその後をついて行く。


 部屋のドアはすでに開いていたので、僕たちはそのまま部屋に入った。部屋には大量の本が山積みにされて置かれていた。足の踏み場がないほどにだ。

 しかしそれは例えだ。実際にはドアの前の部分には人2人分くらいのスペースがあり、そこから部屋の奥にある執務机まで、人1人が通れるくらいには床が見えている。


 導師はそこを無視して、本を踏みながら執務机まで走った。


「ニック。お前……」


 そこには執務机に突っ伏して、隣の2人からおそらく回復魔法を掛けられているニック導師の姿があった。


「ジントか……。帰ってくれ。話すことは無い」


 ニック導師は、ジント導師の声を聞いて、顔を上げた。そしてそう言ってまた顔を机に突っ伏した。その顔は真っ青で、白髪交じりの髪もぼさぼさになっていた。

 それにスラスラと言葉を喋ってはいたが、元々かもしれないが、声はかすれ声だった。


 このまま理由を語らないまま死ぬつもりなのだろう。ただそれを絶対に許さない人がこの中にはいる。


「いえ、私は聞きたいことがあります」


 ロナさんは本が置かれていないところを通って、導師たちの元へと向かった。そして、止めに入って来た隣の2人を軽くあしらい、ニック導師の頭をわしづかみにして魔法を唱えた。


「なにを言って――。お前か呪いを解いたのは……」

「いえ、導師が解きました。今回私が手助けをしましたが、彼なら本当にまずいことになる前に解くことができましたよ」


 ニック導師は頭をわしづかみにされて驚いたのか、力なさげにその手を振り払おうとした。しかしロナさんがジュネヴァさんに使ったのと同じ解呪の魔法を使った為、彼女が呪いを解いた張本人だと直感的に気が付いたのだろう。その手を振り払わず顔を起こし、忌々しげにロナさんを睨みつけながらそう言った。


 ただそんな目にロナさんが屈するはずがない。彼女はニック導師の目をまっすぐ見つめながらそう返した。そして彼の頭から手を離した。


「手助けとは?」

 ニック導師は、まだ忌々しそうにロナさんを見ていた。それ目にロナさんは、涼しげな表情で返事をした。

「入念に掛けられたところ以外を解いただけです」


 彼女のその返事にニック導師は、忌々しげな顔からなにかを悟ったような顔をした。そして――。

「そうか。なら私の負けだ」


 ニック導師は、体調がもとに戻ったのだろう。体を起こし、椅子の背もたれに背中を預け、天井を見上げた。


 そこで間を見計らっていたベイリーさんがニック導師に話しかけた。

「今回の件、詳しく話してくれますか」

「まぁ、良いが。ここでか……。 ん?」


 ニック導師は背もたれに背を預けたまま、顔を天井からベイリーさんに向けた。そして、なにか違和感を覚えたようだ。

 その違和感の正体は、ロナさんが説明した。


「私たちがこの部屋に入った段階で、廊下には人払いの魔法を掛けています。それにこの部屋に防音の魔法も掛けました。そこの2人には聞かれても大丈夫ですか?」


 ロナさんは一見優しげに、ニック導師に聞いた。ただ彼女の目を見た僕は『拒否は許しません』といった断固としたものがあるように感じた。


「ああ、この2人は大丈夫だ。気遣いありがとう」

「別にあなたの為だけを思ってなどいません」


 2人はニック導師が信頼を置く生徒なのだろう。ニック導師は彼らを見ながらそう言った。

 その答えにロナさんはツンデレ少女が言いそうな返しをした。ただ、ツンデレ少女のように照れ隠しの発言ではなく、本心でそう言ったのだろう。僕はそう感じた。


 おそらく彼女はニック導師の話も聞いて、総合的にどちらが悪いか決めようとしているのだろう。だから廊下で外野に聞かれていたらマズイと思い、人払いや防音の魔法を掛けたのであろう。


 しかし多分、ロナさんはニック導師を許しはしないだろう。彼女が彼の頭をわしづかみにした時、彼女の周りの空気が凍ったように感じた。おそらく病室で導師に怒りを感じたのより大きな怒りを感じたのだろう。


 この雰囲気に比べれば、馬車の中で亜麻猫さんをからかった後に見せたロナさんの黒い笑顔は些細なものだ。


「それじゃあ。聞かせてもらおうか」

「ああ」

 ジント導師の言葉にニック導師は短く返事をし、事の次第を話し始めた。

次回更新は10/3です。

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