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病室にて導師の意外な一面を見ることができました。

 僕はベイリーさんと共に、病室へとやって来た。やはり導師の奥さんが入院していることは大々的には公表されていないようだ。病室に行く途中の廊下に何やら認識阻害の魔法が掛けられていると、ベイリーさんが説明してくれた。


「失礼します」

「入ってくれ」


 中からの返事を待ってから、ベイリーさんは病室の戸を開け中に入って行く。僕もそれに続いた。

 

 すでにロナさんが魔法を唱えていた。結構大がかりな術を掛けられていたのか、白基調の石造りの病室の床や壁に何やら魔法陣のようなものが無数に描かれていた。最初、この部屋の認識阻害の魔法かと思ったが、今もなお点滅を続けているため、ロナさんが術を唱えるために描いたものだと思われる。


 おそらくロナさんはこんな魔法陣を描かなくても、空で魔法を唱えることができるであろう。しかし自身の能力を周りに低く見せたがる節がある。今回は事情が事情なだけに治しはするが、できるだけ大掛かりにして、自身の力を誤魔化そうとしたのだろう。


 僕は魔法陣から目を、ロナさんと奥さんに移す。奥さんはベッドに横たわって目を閉じている。息遣いなどから眠っていると見える。

 ロナさんの方は、今詠唱を終えたみたいだ。自身の右の人差し指に息を吹きかけ、その指を奥さんの額に当てた。そして――。

「解呪」

 その言葉とともに、部屋の中の魔法陣がパキンと音を立てて消え去った。


「治ったのか?」

 導師が不安そうにロナさんに聞く。この場にいるみんなが同意見だろう。

 ロナさんはその問いに、苦い顔で答えた。

「9割9分治りました。これ以上呪いが進行することはありません」


 導師とベイリーさんはその言葉に大いに喜んでいた。しかしロナさんの正体を知っている僕たちは信じられなかった。


 犯人は、天使見習いであるロナさんでも完全に解くことができない呪いをかける相手ということだ。

「とりあえず、奥様と話してみてください」

そんなことを思っていた僕らをしり目に、ロナさんは導師に奥さんと話すように促す。

「ああ、そうだな」

 導師は緊張しているのか、少々声を上ずらせた。しかし体は真っ直ぐに奥さんの方へと足を運んだ。


 導師は奥さんを起こそうと、彼女の頭に手を持っていこうとした。その瞬間、彼女は目を覚ました。

「あら? 私、生徒さんたちの前で眠ってしまったのでしょうか。」


 奥さんは体をベッドから起こし、僕たちに謝った。そして導師に何があったのか聞き始めた。それに導師は今あったことを話した。


「それで質問なんだが……。私たちが初めて会ったのはいつだ?」

 導師は少し心配そうにそう言った。その問いに奥さんはすぐに答えた。

「45年前、魔術教室です。あなたが教科書を持っていなかったので、隣の席の私が見せてあげたのが出会いですね」


 導師の顔色的に正解のようだ。僕はホッと一息ついた。

 導師は、そのまま質問を続ける。


「付き合いだしたのは?」

「40年前ですね。昨日教えてくれましたね」


 これは僕も聞いた質問だ。導師の顔色を見るまでもなく答えもあっている。それに昨日の記憶もはっきりと覚えているので一安心だ。


「それじゃあ最後の質問だ。昨日見た劇の事は覚えているか?」

 導師は再び不安そうにそう聞いた。

「ええ、途中で帰りましたよね」

 奥さんは不思議そうに、顔を傾げながら答えた。

 多分導師はそういうことを聞きたいのではないと僕は思った。


「いや、そういうことではなく……」

 導師は頭の中で言葉を選んでいるのだろう。さっきよりさらに不安な顔を浮かべながら、言葉を詰まらせる。そこにロナさんが申し訳なさそうに話に入っていった。


「先ほど9割9分と言いましたが、残りの1分がその部分です」

 ロナさんのその言葉を聞いて、導師は一度目を閉じた。しかしすぐに目を開けた。


「そうか。けれどここまでしてくれて本当にありがとう。だからそんな申し訳なさそうにしないでくれ」

 そう言って導師は、作り笑顔でロナさんにお礼を言う。僕から見ても無理して笑っているのが丸わかりだ。そうなると必然的に奥さんにも伝わってしまう。


「あなた……」

 奥さんは導師の方を、悲しげにそして申し訳なさそうに見つめている。その瞳には涙が浮かんでいた。それに導師は気が付いたようだ。


 導師は奥さんの顔を見て、何か決心したようだ。一度、自身の顔をパンと両手で叩いて気合を入れた。そして――。


「すまない。そんなに不安にさせて。だけど僕はあの劇の主人公みたいに君を不幸にはさせないよ。君のお父さんに認めてもらえるように頑張るから。だから――」


 導師は突然そんなことを言い出した。一人称も僕になっているし、奥さんの事も君と呼んでいる。それにお父さんとはどういうことだろう。

 僕は導師の言葉の続きを待った。導師の顔は、先ほど自身で叩いたものとは違うであろう赤みで、真っ赤になっていた。


「僕と付き合ってください」

“パキーン”


 先ほどの魔法陣が消える時に聞こえた音がまた部屋に響き渡った。その音が無くなると、ロナさんが導師に声を掛けた。


「おめでとうございます。これで呪いはすべて解けました」 

 そして彼女は奥さんの方を見た。奥さんも涙を流して頷いていた。


「本当か?」

「ええ。あの劇を観た後、気まずい雰囲気の中でそう告白してくれたのですよね。その5年後にあなたが術師の位を賜ったので、お父様も結婚を認めてくれたのです」

 導師の問いに、奥さんはつらつらと答えた。


「ジュネヴァ!!」


 導師はおそらく奥さんの名前を叫びながら彼女に抱き着いた。それをジュネヴァさんは優しく受け止めていた。


 本当ならその場で病室を離れるべきなのだろう。ただ捕まっている2人の事や、呪いをかけた犯人の事で話がある。特に前者は急ぎの件だ。 


 だから僕たちは、導師の気が済むまで、ほほえましい笑顔を浮かべながら、その光景を眺めていた。

次回更新は9/24になります。


訂正 次回更新は9/28になります。

   申し訳ありません。

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