導師の許可は下りました。
あの後部屋に戻り、明日の準備をしてからすぐに寝た。
ベイリーさんは話を終えた後、水をコップ1杯飲んでから、導師の奥さんが入院している病院に話をしに行った。導師もまだ今の時間なら病室にいるだろうとのことだった。
なので明日の朝一番で結果を伝えに来るらしい。
と言っても、断られても無理やり行く算段で僕たちはいた。だから夜はまだ早いがベッドに入った。
そして今は朝食を食べ終わり、ベイリーさんが来るのを宿の外で待っていた。
「ベイリーさんが報告に来るのって8時でしたよね」
「ええ、そうですね」
病院までこの宿から歩いて大広場を通り、30分程度時間がかかる。それに病院の親族以外の関係者の面会開始時間が、9時からだそうなのでこの時間になった。ベイリーさんが来てから説明の時間も少しは必要だろう。
今は7時55分だ。もうそろそろ来ていてもおかしくはない。そんなことを思っていたら、彼は一人でやって来た。
「みなさん、お早いですね。導師には昨日許可を頂きました。ただ……」
「ただ?」
「ちょっと待ってください」
僕のオウム返しに、ベイリーさんは苦笑いを一度してから話を続けようとした。だがその前にロナさんが魔法を唱えた。周りには僕たちの話がたわいのない会話に聞こえる魔法だ。
「これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、ツヨシさんたちには導師の生徒のフリをしてもらいたいのです」
ベイリーさんが言うには、導師が今回の話を聞いた時はかなり喜んだそうだ。ただ、すぐにいつもの能面のような顔に戻ったそうだ。
『見てもらって解呪できないとなったら妻をぬか喜びさせることになる』
なので、頼みごとをする立場の自分がさらに上から注文を付けるのは申し訳ないが、自分の優秀な生徒として妻に紹介をしたいからに訪れてもらった、という形で来てくれとのことだった。
そう言うことならこの中で誰も文句を言う者はいなかった。
「導師は今、あなたたちを持て成すということで、お菓子を買いに行っています」
本当なら自分が出向くべきなのは分かって入るが、自分の性格上、生徒を迎えに行ったりはしない。そもそも奥さんに生徒を自分から会わせたことがないらしい。なのであまり普段と違う行動をして奥さんから怪しまれたくないそうだ。
「それならお菓子を買いに行くのも可笑しな行動じゃない?」
亜麻猫さんがもっともなことを言った。確かに言われてみるとそうだ。
「そこの店主が導師の教え子だった人なんです。だから昨日の夜無理を言ってツヨシさんたちの為のお菓子を作ってもらったんです。それに挨拶もかねてとのことなので……」
「どういうことです?」
「今回奥さんの呪いが解けても、誰が掛けたかまで分からなかったらまた狙われる恐れがあります。なので一時的に国外に移住するつもりのようです。だから挨拶できるところにはしておきたいそうです」
僕はそう言われ胸がキュッとした。呪いを解くことだけを考えてその後のことを何も考えていなかった。もしかしたらこの国に帰って来られないかもしれないのだ。それなら僕たちより人間関係をきちんと清算しておいたほうが良い。
「ロナさん。誰が掛けたかまでは分かりませんか?」
「私が見たことのある人が掛けていたら分かるかもしれません。多分……」
ロナさんは自然に自分の右耳を左手で触った。そして話を再開した。
「探知は無理だと思います」
彼女が右耳を左手で触るのは『これから嘘を言います』という合図だ。まだメリー村にいた時にみんなで決めたものだ。この合図はいつも使うものではない。使う時はその日の朝か直前に言ってから使う。
話を戻すと、本当は探知もできるのだろう。ならなぜしてあげないのか僕には分からなかった。ベイリーさんがいなくなった時を見計らって聞いてみよう。
そう思っていたら粉雪さんが口を開いた。
「話しながら病院に向かわないか? 宿の前で立ち話もあれだからな」
先ほどから宿から出てくる人が増えてきた。なのでここに居ると邪魔になると粉雪さんは思ったのだろう。ちなみに、粉雪さんもロナさんの仕草に気が付いているようだ。
ベイリーさんも「そうですね。とりあえずここから離れましょうか」と返事を返したので、僕たちは歩き出した。
まだ時間が8時を少し過ぎたくらいなのでゆっくり行くことになった。聞いたところベイリーさんも朝食を食べてから来たそうなので、飲食店に入るのは無しになった。
「とりあえず、大広場の噴水の所に行きましょう。導師が買いに行っているお菓子店から病院に行くのにも大広場を通りますし」
それなら導師が買い物と店主との話を終えて、病院に行くところで会うことができる。導師の生徒役をするのにも役作りが必要だ。話を少しでも詰めておきたい。
「分かりました」
そう言って僕らは役作りの話をしながら噴水へと向かった。
次回更新は8/31になります。




