導師の問題
確かにロナさんの言うとおり劇の最期は変えられていたのだろう。二人は結婚することができた。女性の方が王子を暗殺者の凶弾から身を挺してかばったのだ。それを見て、結婚に頑なだった王女も心を入れ替えた。
ただ無理に構成を歪めたのであろう。身を挺してかばった女性が、今まで出て来ていなかった、ぽっとでの魔術師に治療されて、その場で回復していた。いくら音楽や魔法の豪快な演出でごまかそうとしても無理がある。
けれど僕はそれでも良いと思った。物語的にはご都合主義と言われるかもしれない。もっと前から重要な役割としてその魔術師を出すべきだったという意見もあるかもしれない。
だけど、一番は登場人物が幸せになることだと思う。だからこの物語の感想は二人が結婚という幸せになる準備が出来て良かったとして占めておこう。
劇が終わり僕たちは宿へと帰って来た。ベイリーさんは食事でもどうですかと声を掛けてくれたが宿で食べると言って遠慮した。するとベイリーさんも一緒に宿で食べると言い出した。
それならと僕たちは一緒にご飯を食べた。僕はなんとなく奥さんの方は良いのかなと思ったが、元々馬車の御者役をする人だ。泊りがけの仕事が多いだろう。奥さんも慣れているはずだ。それに彼には聞きたいことがあった。
だから今、粉雪さんたちの部屋に来てもらっている。ロナさんと凛姉はこの部屋にはいない。これから導師の事を話すからだ。
「えーと、僕はどこから話せば……」
僕はやっぱりさっきの導師のことを話すのは気が引けた。ただ粉雪さんと約束してしまっている。どうしたものかと思っていたら粉雪さんがベイリーさんに話を振った。
「何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「ええ、まぁ」
「それならツヨシの話の前にしておくか?」
ベイリーさんは「はい」と答え、僕たちに質問してきた。その質問は導師のプライバシーに関してだった。今この場でベイリーさんが知りたいのは粉雪さんと亜麻猫さんの答えらしい。
「私は気に食わない奴だと思ってるけど、別にこっちに危害を加えないんだったらどうでもいいわ」
「私も申し訳ないと思うが、状況的に導師が関わってるとしか思えないんだ」
「それならいいんです」
ベイリーさんが何やら納得したようだ。
「何がいいのかは知らないが、それだけか」
粉雪さんは不思議そうにしている。
「導師がツヨシさんを目の敵にしている理由をお話しします」
そう言ってベイリーさんは話し始めた。
なんでも導師の奥さんは5年前に突然、何らかの魔法の影響によって記憶が徐々に失われていくようになったそうだ。
その何らかの影響というのは、導師に恨みがある者が放った呪いが原因と言われているがその恨みがあるものというのが誰か分かっていない。
その呪いを解除しようにも誰が放ったものか分からなければ、この国の魔術師では解くことができないそうだ。
「黙っていましたが、私も導師の事を慕っております。なので、最初はあなた達に全部話す気はありませんでした。ですがあの二人みたいにあなた達と敵対する気はありません」
だから今全部話そうと思ったようだ。僕たちの反応を見たのも一応、導師のこのネタを使って脅すようなことをしないかどうか確かめるためだ。
僕や凛姉、それにロナさんは劇場でためらいがあったので大丈夫と思ったようだ。しかし、粉雪さんと亜麻猫さんの心の内が読めなかったのでここに来るまで話すか迷っていたようだ。
「とりあえず、凛姉たち呼んできますね」
僕はそう行って部屋を出て凛姉たちを呼びに行った。僕を目の敵にしている理由は凛姉たちも聞いておいたほうが後々、わだかまりが無くなって良いだろう。それに一人でも多く、現状を打開する意見をくれる人が今は欲しい。
「連れてきました」
僕は自分の部屋に戻り、凛姉たちに今のことを説明して付いてきてもらった。
「ありがとうございます。それで、今の転移魔術を完成させれば多額の報奨金を得られます。そのお金で国外の魔術師に呪いを解いてもらうように頼もうとしているようなんです」
僕がいない間も話が続いていたようだ。話が少し飛んでいる。
「それで私たちは何をしたらいいのかしら?」
亜麻猫さんが気だるげに質問した。確かにそうだ。今の話なら導師が転移魔法を完成させるしか方法が無いような気がする。俺は転移魔法について詳しくない。だから手伝えることもない。
「私が治せるか診ましょうか」
ロナさんが不意にそう言った。ああ、そうかその手があった。
「本当ですか!?」
ベイリーさんは真剣な顔つきでロナさんの肩を掴む。
「ええ、ただ……」
「え、なにを――。
ロナさんは小声で何か呟いた後、ベイリーさんの額を人差し指で突いた。するとベイリーさんは一瞬気を失った。しかしすぐに目を覚ました。
「私の質問に正直に答えてください。今回の宝石強盗未遂は導師は関わりがありますか?」
「はい。いや、いいえ?」
多分ロナさんが自白を促す類のを使ったのだろう。ただ、綺麗にかかっていないのか返答があやふやだ。
「それでは、今回の事件を起こすように犯人に命令しましたか?」
「いいえ」
今度の質問にはすぐに答えた。するとさっきのは質問の仕方が悪かったようだ。
「最初の質問の返答に迷ったのは、導師が直接は関わっていないけれど、犯人を庇っているからですか?」
「はい」
「それは自己保身の為ですか?」
「いいえ」
「そうですか。それならもういいですよ。お疲れ様でした」
ロナさんは再度ベイリーさんの額を人差し指で突いた。するとまたしても彼は一瞬気を失った。
「はっ。私は何を?」
「すみません。自白の魔法を使いました。けれどこれで心置きなく協力できます」
そう言って彼女は彼の側を離れ、僕の側に来た。
「明日、ツヨシさんと病院を訪れようと思います。セッティングお願いできますか?」
「はい!」
彼はふらふらしながらも力強く返事をした。
次回の更新は8/24になります。




