中休憩で亜麻猫さんがお説教を受けました。
ミュージカルは中休憩に入った。僕はすぐにロナさんたちのもとへ駆けよって行こうと思った。
しかし、隣の飲んだくれが爆睡してしまっている。いびきを掻いていなかったのが救いだが、本当に何のために僕の隣で座っていたのだろうか。
「ほら、起きてください」
「そうですね。起きてください」
「え、ロナさん!?」
声がした方を振り向くと、ロナさんとその後ろに凛姉と粉雪さんがいた
「別にもう怒っていないので大丈夫ですよ。それよりも……」
ロナさんは導師の方を見た後、僕の方へ顔を戻した。
「そうですね。今日は聞き耳を立てるの止めときます」
だから、粉雪さんと席を代わろうかと思い、僕は席を立った。すると、導師と奥さんも同時に立ち上がった。
「病院に戻ろうか」「ええ、そうですね」
導師たちは、もう帰るようだ。彼は、奥さんの肩を支えながら席を後にした。
「病院ですか」
ロナさんは1人そう呟いた。聞き耳は良くないと言っていた彼女だ。今のは聞こえてしまっただけだろう。しかし、病院となると……。
いや、よそう。今日はそのことは考えないでおこうと思ったではないか。
「あ、そうだ。席代わりますか? 粉雪さん」
「いや、いい」
「私が代わるよ」
凛姉が僕の前に来て、僕が座っていた席に座った。いやそれでは代わる意味がない。せっかく凛姉と一緒に見られると思ったのに……。
僕は凛姉を説得しようとしたが、言葉を飲み込んだ。体が震えたからだ。
ロナさんは黒いモノを出していない。もちろん凛姉もだ。
僕はこの震えの原因を知っている。粉雪さんだ。
彼女は亜麻猫さんのほうを見ていた。ロナさんみたいに黒いモノは出ていないが、目がキレている。
「おい、亜麻猫起きろ」
そう言って粉雪さんは、亜麻猫さんの頭を叩いていた。
「んごー。あ、え、粉雪様!?」
いびきを掻きだしていた亜麻猫さんだったが、頭を叩かれた衝撃で起きた。そして機嫌悪そうに、辺りを見回して粉雪さんを見た瞬間、顔が真っ青になった。
「亜麻猫。聖水を飲むのは構わない。ただ、寝るのは違うだろ。何のためにお前をツヨシと一緒の席にしたと思っているんだ」
「す、すみませんでした」
亜麻猫さんはかなり大きな声と動作で粉雪さんに謝った。しかし、周りは僕たちを気にもしない。魔法が働いているからだ。
僕とロナさんはその様子を冷ややかに見ていた。ただ、凛姉は違った。
「まぁまぁ。亜麻猫さんも疲れてたんですよ。あとは私が叱っておきますから、つーくんと一緒に劇を楽しんでください」
ああ、そう言うことか。だから凛姉は、僕と席を代わると言ったのか。ただ、それでは僕が生贄みたいではないか。
「ああ、頼む」
僕は粉雪さんに連れられて、凛姉の席に座ることになった。
その席は、粉雪さんとロナさんの間だ。
僕は、まだ凛姉の温かみが残った席に座り、劇の続きを見ることになった。
「それで、導師はどうだった。なにかわかったか?」
粉雪さんが僕の右隣に座り、導師の様子を聞いてきた。僕は「帰ってから喋ります」と言って、ロナさんの方を見た。ロナさんは、苦笑いをして僕の左隣に座った。
「今は、劇の話でもしましょうか。ツヨシさんは起きていたんですよね?」
「ええ、実際の心中事件を元にしているって聞いたんですけど……。ラスト変えてるんですかね?」
僕は、基本的に悲劇が嫌いだ。愛する二人が現世では一緒になれないからといって、来世に期待して死ぬ。それは悲劇以外の何物でもない。凛姉に借りた心中物は大体がそうだった。
ただ、1つだけ違う物があった。
厳密に言うと、二人は死ぬのだが、それではかわいそうだと二次創作などで2人が生きたまま一緒に暮らすなどのパターンが作られたりしているものがある。
まぁ、その話で1番かわいそうなのは、2人ではなく、夫が遊女に恋をしてしまった妻だ。
それに、他の凛姉に借りた心中物も、元ネタを調べてみると、盗んだお金で遊女を買って、その遊女を連れて逃げていたところを捕まった。とか元になった人がかなりのクズだったりしている。
なんとなく、二人で心中という形の方がきれいなまとまり方のような気がしてきた。いや、やっぱり死ぬのは駄目だ。そんなことをしても……。
僕は凛姉が自殺しようとしていたことを思いだしていた。すると、ロナさんが僕の考えを読んだのか、声を掛けてきた。
「今回のは、最期を変えてるらしいですよ」
そう言ってロナさんは僕の手を握ってきた。僕の顔色が優れなかったからだろう。
「すみません」
僕はロナさんに謝り、そのことを頭から追い出した。
とりあえず、この物語を今は楽しもう。
僕は楽しそうに話しをしている、凛姉と亜麻猫さんを見ながらそう思った。




