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導師を探ります②

 そちらを見ていないが、おそらくロナさんがこちらを黒い笑顔で見ている。粉雪さんは気にしていないだろうが、凛姉は怯えてはいないだろうか。


 僕は、おとなしくしていようと思った。そうしたら、何で機嫌が悪いのか分からないが、ロナさんの機嫌も治るだろうと思ったからだ。


 とりあえず、今日のミュージカルの演目を今更ながら確認しよう。

 僕はあらかじめ貰っていたパンフレットを初めて開いた。別に興味がなかったわけではない。ただ、忙しくて見る暇がなかっただけだ。


「今日のは、本当にあった心中事件を題材にしたものらしいわよ。それと、もう飲まないの?」


 僕がパンフレットを見始めると、すぐに亜麻猫さんが一升瓶を持って、絡んできた。

 僕は、彼女は絡み酒をするタイプではないと思っていた。何度か一緒に食事をしたことがあったが、その時は毎回飲んでいたけれど、無理やり飲まそうとしてくることは無かった。けれど、今はこうだ。さっき飲まないと言ったのにもう忘れている。しかも、その時に自分が了承していたことも忘れているようだ。


「飲みません。それより……」


 そもそも、僕と亜麻猫さんがジント導師の後ろの席に着いたのは、彼の動向を探るためだ。ミュージカルが始まったら、動向を探るもなにも、できなくなってしまう。お酒を飲むこと自体が間違っていたのだ。


 だからロナさんは怒っているのだろう。それならすでに出来上がっている亜麻猫さんは無視して、ジント導師の様子を探ろう。


 僕は、グラスを置いて、目の前のジント導師と奥さん(?)に顔を向ける。


「なによ、つれないわね」


 亜麻猫さんは僕が構わないと思ったようで、1人芋焼酎を飲みだした。これで、導師たちに集中できる。


 幸い、まだ開演まで15分程度時間がある。しかし、彼らはそれぞれの手持ちのパンフレットを見ていて会話がない。だけど、まだ15分あるのだ。何か話し出すだろう――。いや。


 僕はもしかしたら、導師が魔法で他人に自分たちが喋っていないように見せているのではないかと不意に思った。


 彼らはあまりにも喋らなすぎる。こんなことなら、無理を言ってロナさんに頼めば良かっただろうか。隣の亜麻猫さんは、酔っ払っていなくても魔法探知には疎い。


 ただ、そんなことは考えなくても良かった。


「今日のは、私が見たことありますか?」

「ああ、昔な」


 良かった。別に変な小細工をしていたわけではないようだ。しかし、奥さん(?)の方の質問に何か違和感を覚えた。まるで、他人事のような感じだ。


 ただ、奥さん(?)と会話している導師は、横顔しか見えないが、とても笑顔だった。僕は、この人こんな顔できたんだと失礼なことを思った。


「昔っていつですか?」

「付き合いだした頃だな」


 今の発言から、隣の女性は奥さんで確定だろう。導師たちが付き合いだしたころとなると、この劇は30~40年前だろうか。それなら、奥さんが忘れていても無理はない。そう思ったが……。


「私たちが付き合いだしたのっていつですか?」

「……。今年で40年目だ。結婚してからは35年だ」

「ああ。そうでした、そうでした」


 明らかにおかしい。普通、付き合いだして何年かなんて相手に聞かない。いや、もしかしたら冗談や話の繋ぎ代わりに聞いたりするかもしれない。けれど、奥さんや導師の様子からそんな雰囲気ではない。


 奥さんは、にっこり笑顔のまま導師の方を向いているが、導師の方はさっきまでの笑顔が、どんよりと曇ってしまった。


 僕は、これ以上は踏み込んではいけないと思った。だから、置いていたグラスを手に持ち、少し酒を飲んだ。


 今聞いたことは忘れよう。いくら気に入らない奴でも、凛姉やロナさんが言っていたように探りなんて入れなければ良かったと、僕は後悔した。


 よし。もう導師たちのことは忘れて、劇を楽しもう。そして、劇が終わった後、部屋に帰って凛姉とロナさんと感想を語り合おう。いや、粉雪さんと亜麻猫さんも呼んで5人で話そう。


 酔っ払っていては内容をきちんと覚えていられない。なので1回、オレンジジュースを挟もう。それに、せっかく冷たいものを買ってきてもらったのに、このままではぬるくなってしまう。

 そう思い、グラスを置いて、ジュースの入ったコップを取った時だ。


「あら。やっぱり飲むんじゃない。新しいの入れてあげるわよ」


 そう言って亜麻猫さんは、僕のグラスに手を伸ばしてきた。そして……。


 “ゴクゴク”


「たまには水割りも良いわね。それで、次はどうする? お湯で割る?」


 亜麻猫さんは、僕のグラスに口を付けて空にしてしまった。しかも僕が口を付けていた方で飲んでいた。

 いわゆる間接キスというやつだ。


「いやいや、何してるんですか!?」

「何って、ああ、あんたなら別に気にしないわよ。他の男は嫌だけど」


 亜麻猫さんはそう言いながら、自身が口を付けた部分を指で挟んでふき取った。


「これで良いでしょ。それにあんたは、凛と間接キスぐらいしてるでしょ。姉弟なんだから……」


 確かに、2人暮らしになってからは、そういう機会は無くなったが、まだ両親が健在だったころは、お互い小さかったこともありペットボトルの回し飲みとかはザラだった。


 しかし、今はそんなことを言っているのではない。亜麻猫さんは酔っ払っているから気が付いていないのだろうか。それとも酔っていて気が大きくなているのだろうか。


 僕は今、亜麻猫さんの方へ体を全部向けて喋っている。その僕の背後から黒いオーラが近づいてきているのが分かる。


 これは、僕は大丈夫でも亜麻猫さんがマズイ。ただ、振り向いてロナさんの機嫌を取るのも怖い。どうしたものかと思い、とりあえず振り向いた。


 やっぱり、黒いオーラの正体はロナさんだった。一応彼女も変装をしている。それに周りに魔力などを感知されないように、防御魔法を張っている。そのため、周りの客は彼女の黒いオーラに気が付いていない。


 僕はもう駄目だと思った。しかし、助け舟が現れた。


「開演5分前です。ご来場のお客様は席にお着き下さい」


 劇場内にアナウンスが流れた。ロナさんを連れ戻しに、粉雪さんと凛姉が彼女のもとへと駆けてきた。そして、ロナさんをなだめてから、彼女たちは自分の席に帰っていた。


 帰り際、凛姉がこちらを向いて、口元で手をグーパーさせていた。多分、適当にロナさんを説得してくれるのだろう。やっぱり、凛姉は天使そのものだ。


 あとは僕がきちんとしよう。


 僕は隣の酔っぱらいにこれ以上問題行動を起こさせないように気を付けようと決意した。

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