表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/100

導師を探ります①

 写真を撮った後、すぐに馬車に乗り、劇場に向かった。予定通り、馬車は30分で着いた。ただ、中を見て廻ることはしなかった。

 

 時間が無かったわけではない。あったとは言えないが、開演まで45分はあった。15分前に席に着いたとしても30分は廻れる。


 見る物が無かったわけでもない。廊下には、絵画や彫刻が飾られていたし、売店もあった。僕が飲み物を買いに行けばよかったと、今、買いに行ってもらっている亜麻猫さんのことを思う。


 なら、なぜ廻らなかったのかと言うと“目の前の人”が原因だ。


「楽しみですね」「ああ、そうだな」


“目の前の人”とはジント導師だ。横にはおそらく奥さんと思わしき女性を連れている。


 僕たちがホールの中に入った時に、ちょうど導師たちが劇場に入るところだった。だから僕たちは、足を慌てて止めた。そして一旦外に出て、簡単な話し合いした。


 ここでの話し合いとは、導師の動向を探るかというものだった。


 先の宝石盗みの件で、亜麻猫さんは導師も疑っている。粉雪さんもその可能性を、頭の片隅に置いている。なので、2人は導師たちの近くで様子を探りたいようだった。


 それとは逆に、ロナさんと凛姉は反対した。


 ロナさんは、宝石盗みに導師は関わっていないと思っている。だから、気に食わない人ではあるが、そこまでする必要は無いと考えていた。そして凛姉は、導師が関わっているかは分からないが、奥さん(?)は関係ないので、今は止めておいた方が良いと思っていた。


 僕は、奥さん(?)には悪いが、一応導師の様子を確認しておきたいと思った。だからベイリーさんに僕たちの席はどこか確認した。もしかしたら、導師たちの席と近いかもしれないと思ったからだ。


 僕の問いにベイリーさんは劇場の中を覗いて、導師の席を確認してから「2席だけ導師の後ろの席ですね」と答えた。


 だから、その2席は僕と……。


「はい。オレンジジュースで良かったのよね」


 亜麻猫さんが座ることになった。


 元々、このミュージカルは人気の物で、席をまとめて取るのが困難な物だった。ベイリーさんも、何とかホール側に騎士隊の権限を使って、席を獲得してくれたそうだ。たから、2席続きと3席続きで別れることになった。


 ちなみに僕たちの席は、右側の前から5列目で、凛姉たちは左側の前から6列目だ。だいたい、横一列に50近く席がありそうなくらい広い。なので、僕たちはかなり離れてしまった。


「ありがとうございます」


 僕は、亜麻猫さんにお礼を言って、ジュースの入った、僕の顔より少し小さいくらいの木製のコップを受け取り、席の横に着いた小さな机に置いた。


「ねえ、あんたもこれちょっとでいいから飲まない?」


 彼女は、普段と同じくらいの声量でそう言った。だけど、導師たちは何も気が付かない。一応、亜麻猫さんの変装術とロナさんの認識阻害の魔法で、導師たちは僕たちを僕たちと認識できていないだろう。うるさくしなければ問題ない。


 そして、彼女が見せてきたのは一升瓶だった。


「故郷のですか?」

「ええ、芋の聖水なんだけど、独特の味はするけど甘いわよ」


 そう言って、彼女は僕に、グラスを渡してきた。


「まぁ、1杯だけなら……」


 芋焼酎は、独特の味がすると聞いていたので、飲んだことが無かった。会社でも飲む人はいなかったように思う。というより、一升瓶ごと売店で売っているのか。


「不味かったら無理しなくてもいいわよ。私が飲むから」


 亜麻猫さんは、一升瓶の口をこちらに向けてきた。いや、ちょっと待ってくれ。水が見当たらない。まさか原酒のまま飲ませる気なのだろうか。僕は持ったグラスを出すことを躊躇った。


「そのままはちょっと……」

「大丈夫よ。ちゃんと水で割るから」


 どこにも水は見当たらないが、亜麻猫さんがそう言うのなら大丈夫だろう。僕をわざと酔わして、どうこうする気は無いだろう。


 僕は亜麻猫さんの言葉を信じて、グラスを彼女に突き出した。彼女はそれの半分くらいまで酒を注いだ。そして、自分のグラスには8分目くらいまで注ぐ。彼女はストレートでいくようだ。


「それじゃ、ただの水割りで良いわよね――。はいどうぞ」


 亜麻猫さんが僕のグラスの飲み口を手で覆う。そして何か呟いたあと、彼女は手を退けた。すると、グラスいっぱいに液体が入っていた。


「魔法ですか?」

「ええ。5:5で割ってるから」


 僕は芋焼酎の度数を知らない。ワインが10パーセントくらいと聞いたことがあったので、多分それくらいにしてくれているだろうと勝手に思った。それに20パーセントくらいあっても、一口なら大丈夫だろう。


 僕は意を決して、グラスに口を付ける。すると、飲む前に芋の香りが鼻を通っていった。


「あ、割とこの香り好きかも」

「あら、それなら大丈夫そうね」


 亜麻猫さんは機嫌良さそうに言ってきた。それなら、ちょっと多めに飲んでみよう。


 僕は再びグラスに口を付ける。おいしかってもこれ1杯にしておこう。導師の動向を探らなければならないのに、ベロンベロンに酔っ払っていたらマズイ。ただ、その心配はなさそうだ。


「あ、イケますねこれ」

「でしょ! それならもう1杯いきなさいよ」


 いや、それは無理だ。いくらおいしくてもこれは僕にとっては度数が高い部類に入る。これ1杯でもゆっくり飲まなければ吐くかもしれない。


「度数が高いので、ゆっくり飲みます。今日は調査もしなくちゃいけないので、また今度ゆっくり飲みましょう」


 僕は途中から、導師に聞こえないように小声で亜麻猫さんにそう言った。


「え。ええそうね」


 亜麻猫さんは、少し顔を赤くして返事をしてきた。僕が気が付かない間に、1杯目を飲み干して、2杯目を自分で注いだのだろうか。顔が赤い割にグラスは全然減っていない。


「それで、導師たち全然喋りませんね――。え」


 導師たちの様子を、小声で亜麻猫さんと確認を取ろうとしたら、何故か身体が震えた。

 僕はこの震えかたに身覚えがあった。ただ、震えなければならないことをした覚えはない。しかし、その原因のほうへ目をやることは、怖くてできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ