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現場検証します①

 僕たちは、ベイリーさんが御者をする馬車で問題の宝石店まで進んだ。


 道中、馬車の中で誰が1番怪しいか、とりあえずの印象で話し合った。やっぱり騎士隊の2人が怪しいと、全員が口をそろえて言った。


 しかし、決めつけは良くないと粉雪さんと亜麻猫さんが注意を付け加えた。なので、一応本当に盗まれていると考え、調査に当たろうと言うことになった。


「先に聞いておきたいんですけど、店の人には僕たちが犯人だなんて言っていませんよね?」


 店長と導師、それに騎士隊の2人は、別の馬車ですぐあとを追ってきていた。僕は店長が馬車を下りると同時にそう聞いた。


「私の口からは何とも……」


 そう言って店長は騎士隊の2人を一瞬見た。ああ、この2人があることないこと言いふらしたのだなと思った。そして、その騎士たちは素知らぬ顔だ。殴っていいのならボコボコに殴ってやりたい。


「何ともって……」


 僕はわざとらしくそう言った。いくらなんでも店長としてフォローには入ってもらいたい。


「従業員は全員、待機室で控えてもらっていますので、先に事情を説明してきます」


 店長が扉に手をかざす。そうすると、扉が赤く光り、何かが外れる音がした。おそらく魔法で鍵をかけていたのだろう。彼はそのまま奥へと姿を消した。


「では、我々もお邪魔させてもらおうか」


 ジント導師は、僕たちより先に騎士隊を引きつれて奥へと進んでいく。


 やはり、導師の様子がおかしい。いくら実験に使うからといっても、そこまでして必死になる物ではないだろう。最初に会った彼と、今の彼は違いすぎる。


 ただ、それだけ焦っているのかもしれない。自身が頑張って研究していた物が、3廻りは違う年齢の子に、いとも簡単に、それも何の代償も払った形跡もなく、発動されれば、暗い気持ちにもなるだろう。もし自分が導師の立場なら逃げ出したくなる。


 自分の研究はなんだったのかと。そう自問するだろう。


 しかし、導師を見るにそうではないように感じる。本来の性格は、負けず嫌いなのだろう。けれど、負けを認めることはできる人だと思う。

 そうでなければ、僕に魔法陣を見せて、改善点を聞いてはこないだろう。


 だから、今のジント導師の様子はおかしいと思う。別に僕に負けを認めているのだから、術式の完成期限が延びても支障はない。エメラルドも少し待てば、再度入荷するだろう。その時にまた、術式を完成させれば良い話だ。


 急ぐ必要のない依頼を僕に解決してくれと懇願する導師は、何を考えているのだろう。


 それでは、まるで“エメラルドを他の急ぐ事に使うから”焦っているみたいだ。


「おーい、つーくん。みんな行っちゃったよ? 私たちも行こ」


 考え事をしていた僕の耳に、凛姉の透き通った声が入ってくる。


「ごめん。行こうか」


 僕と凛姉は慌てて、他のみんなの後を付いて奥の控室に向かう。


 店内は、電燈は点いているが、人がいない。ただ、僕が客として入った時にはいなかった、人間の頭ぐらいの大きさの目玉が7∼8匹くらい、浮かんでいた。


「きゃ」

「うほっ」


 僕の横を歩いていた凛姉は、小さく悲鳴を上げ、そして僕の腕に抱き着いてきた。胸の柔らかい感触がとても気持ちが良い。そして、心臓の鼓動も可愛らしく思えた。


「ごめんね、つーくん。化粧はしてないから、服は汚さないから」

「大丈夫だよ」


 凛姉は、少し体を折り曲げ、僕の肩の付近に顔を埋める。


 なんて役得なのだ。もう少しゆっくり歩いても……。あっ。


「もう少し早く歩けないか?」「無理です。粉雪様」


 少し奥で、粉雪さんに引っ付く亜麻猫さんが目に入ってきた。


 いや、あんたは無理があるだろう。粉雪さんと一緒にゴブリンの首を切断していただろうに、今更目玉くらいで怖がったりしないだろう。声も喜色良さそうな声色だ。


「少し早く歩こうか」「うん」


 そのやり取りを見て、何となく「嘘を言ってまで、ああはなりなくない」と思ってしまった。今更遅いかもしれないが、凛姉の為に早くこのエリアを抜けよう。


「早く行きますよ。てい」「あいた……。なにすんのよ」


 僕は早歩きで、凛姉を誘導しながら進む。そしてのろのろしていた、亜麻猫さんのふくらはぎを軽く蹴った。


 彼女は文句を言おうとこちらを向いたが、僕は侮蔑の眼差しを彼女に送った。そして……。


「ロナさん。横、失礼しますね」

「え、ああ、はい」


 僕はロナさんの所まで行き、凛姉をロナさんと僕で挟む形にした。


 途中、凛姉の誘惑に負けかけたが、今は依頼を受けている身だ。なんとか持ち直した。だから、亜麻猫さんに再度、侮蔑の眼差しを送っても恥ずかしくないはずだ。


「ん、もう。わかったわよ。粉雪様行きましょう」「何だ、平気だったのか」


 僕から2度もそんな目を送られて黙っていられなかったのだろう。彼女は粉雪さんから、身体を離した。しかし、離したあとすぐ粉雪さんの手を握って、こちらに駆け寄って来た。


「これでいいんでしょ」

 

 亜麻猫さんが不満げにぼやく。


「いや、手――。「あんたも人のこと言えないでしょ」


 僕は、手を握っていることについて言及しようと思ったが、先に先手を打たれた。ただ、これは凛姉が怖がっているからであって、深い理由は……。


「そうですね」

「分かればよろしい」


 ここで、反論しても仕方がない。そうだ仕方がないのだ。僕は無駄なことはしない主義なのだ。だから肯定したに過ぎない。


 ロナさんは僕たちのやり取りを黙って聞いていた。いつもの黒いオーラは感じられないのでセーフだ。


 粉雪さんは何の話をしているか分からないようだ。少し鈍すぎる。亜麻猫さんも苦労するだろう。


 そして凛姉は「もういない?」と小声で僕に聞いてきた。


 とてつもなく可愛かった。

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