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このあとは観光旅行です。

 騎士隊は不満をブツブツ言いながらも、玉座の間から退場した。その後、エクスと呼ばれたメイド以外のメイドも部屋を出て行った。こちらは比較的物静かだったが私語をしている者もいた。


 王がフランクな人なのもあり、そこらへんは割と緩いのだろう。それとも、いつもは静かに退場しているが、今回は最後まで見たいと言うことなのだろうか。騎士隊の人がブツブツそんなことを言っていたような気がする。


 とりあえず吐き気の波も治まったので、僕は立ち上がろうとした。すると、横に控えてくれていたメイドのエクスさんが声をかけてくれた。


「もう1本入ります?」


 彼女は、こちらに水の入ったビンを差し出してきてくれた。ありがたく貰っておこう。


「ありがとうございます。用意がいいですね」


 さっきもまるで分かっていたかのように、水を持って来てくれた。今もちょうど良いタイミングで僕に水を差しだしてくれた。やっぱり、王様に仕えるメイドは一味違うのだろう。しかし彼女はそれを否定した。


「妹のズィーから聞いていたので。あなたが下戸なことは」


 それもそうか。彼女が報告した時に、その事も伝えるだろう。というより、彼女のお姉さんだったのか。道理で既視感を覚えるはずだ。淡々と抑揚なくしゃべる話し方も容姿もそっくりだ。ただズィーさんの髪はショートヘアーで、エクスさんより少し色素の薄い青色だった。


「おーい。大丈夫ならそろそろこっちに来てくれ」


 王様が、玉座に座って僕たちを呼んでいる。凛姉たちも玉座が置かれている壇上前で待っており、騎士隊長たちは、壇上に登り玉座の周りに着いている。


「はい。今、参ります」


 彼女のくれた水には、ミントが混ぜられていたのか、気分は少しスッキリしている。これなら、小走りでも……。いや歩いて行こう。体調が優れないフリをして、説明は全部ロナさんにしてもらおう。その方が、ボロが出ずに済む。


「お待たせしました」

「うむ。それでは始めようか」


 エクスさんが王の隣に着くと協議が始まった。話の節々で、王も僕たちを歓迎しているのがわかる。協議に時間はかからないだろう。そう思っていたが別の問題が発生した。


「あなたたちはパーティを組んだままが良いのでしょうか。できることなら粉雪さんと亜麻猫さんは騎士隊に、ロナさんと凛さんは魔術部隊に入ってもらいたいのですが……」


 エクスさんが淡々と僕たちに聞いてきた。冒険者として引き抜きが来たわけではなかったのか。あれ? 僕の名前が無かったが、僕は冒険者を続けても良いのだろうか。その疑問は王が解消してくれた。


「そしてツヨシ君だが、王族お抱えの魔術師になってもらいたいのだが……。どうだ」


 王様が期待の眼差しでこちらを見てくる。しかしそんな眼で見られても困る。


 はっきり言って凛姉と離れるのは嫌だ。それに、王族お抱えなんて何かあったら真っ先に責任を取らされて見せしめに処刑されそうだ。そうでなくても、命を張って王族を護らなければならないだろう。そうなれば、ロナさんの試験もクリアできなくなる。


「いやー。ちょっと……」

「給金ははずむぞ?」


 そう言う問題ではないのだ。どうやって断ろうかと僕は悩んだ。

 思わず、返事をしたのがいけなかった。酒で気分が優れないフリをしてロナさんに任せれば良かった。


 今からでも遅くはないから、ロナさんに任せようかと思ったが、意外にも王は素直に引き下がった。


「そうか。残念だが……。それでは宿に依頼という形で発注したら受けてはくれるかな。こっちは無理そうなら受けてくれなくても良い。ただし、敵が攻めてきた際、最優先で転移魔法を使うのだけは約束してほしい」


 王様の顔が今日一番険しくなった。あちらとしてもこの話は譲れないのだろう。


 受けたほうがよさそうだ。今の僕たちは、規格外の新人冒険者だ。それも王様の寝首を掻くことができるレベルだ。それが自分のもとに恭順しないとなると排除しにくるかもしれない。


 この国の最高戦力をぶつけられると勝てるかわからない。そもそも戦いたくない。おそらく、四天王と呼ばれた目の前のフードを被った人たちが、僕たちを殺しに来るのだろうが、何とも不気味だ。


「私たちも冒険者続けたいんだけど、いいかしら」


 亜麻猫さんが王様に割と慣れ慣れしく聞く。何となく上の立場の人には敬語を使う人だと思っていたので意外に思った。


「ああ、それで良いのであれば全員、主都の冒険者の宿に登録しておく」


 王の険しい顔がさっきまでの朗らかなものに戻った。僕たちが引き抜きには応じると思ってくれたのだろう。とりあえずは安心だ。


「それでは、移籍金の話はメリー村で店主と話す方が良いだろう。このエクスを交渉に向かわせる。エクスや、仕事とは別に2週間ほど暇を与えるから妹の様子でも見てくるか?」


 やっぱり王様お付きのメイドなだけあって、優秀なのだろう。そんなことを考えていたら騎士隊長が話に入ってきた。


「それなら、次女も一緒に連れて行ってやってくれませんか? あいつ働き詰めなんで、こっちも2週間暇を与えます」


 どうやら3姉妹のようだ。次女さんも淡々とした喋り方なのだろうか。もしかした騎士隊なのでハキハキとした喋りかもしれないと思ったが、ズィーさんも騎士だったことを思いだした。そうとは限らないだろう。


「それが良いな。エクスよ、どうだ。引き受けてくれるか?」


「私は構いませんが、妹のワイは隊長が説得してください」


 次女さんはワイと言うそうだ。XYZから名前を取っているのだろうが4人目が生まれたらどうしていたのだろうか。いや、もしかして3つ子だったのかもしれない。


「それでは解散としよう。12時はとうに過ぎておる。一緒に昼食でもどうだ?」


 正直遠慮したい。この王様なら礼儀を気にしたりはしないだろう。しかし、そうは言っても気にしてしまう。それに緊張して味などわからないだろう。あとは、協議中は何も言ってこなかったが、こちらをずっと睨んでいた、ジント導師をこれ以上刺激したくない。


「申し訳ありません。騎士隊の方ですでに手配してありますので……」


 騎士隊長が助け舟を出してくれた。これなら行かなくても済みそうだ。


「そうか。ならしょうがないな。3日ぐらい街に滞在してくれ。その間に、交渉の準備を進めておく。馬車も帰りは1ランク大きめのものを用意させる。君たちの活躍を楽しみにしているぞ」


 そう言って王様は、エクスさんと四天王を連れて脇の扉から部屋を出て行った。


「それでは、あとはベイリーに任せてありますので、私も業務に戻ります。ジント導師も戻りましょうか」

「ああ」


 僕たちは、あとから入ってきたベイリーさんに連れられて王宮を後にした。

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