テストされました。ロナ、ツヨシ編
「あんなか細い子まで……」「あの、亜麻猫って子も隊長とあそこまで善戦した上に、あの威力の魔法まで使えるのか。自身無くすわ」
脇に控えていた騎士隊員たちが少しざわめきだした。ここまで全員テストを合格している。それに、割と僕たちは規格外だったようだ。
「それでは、最後は私ですね。ツヨシさんも一緒に来てください」
ロナさんは周りがざわめいているのを無視して、窓際に向かって歩き出した。僕は彼女には何か考えがあるのだろうと、黙って従った。
「ズィーの報告では、君は回復魔法を使って転移の手助けをしたと書かれていたが、何を見せてくれるのだ?」
王様は、自分のもとへ僕たちが歩みを進めていると思っていたのか、窓際に向かう僕たちに質問してきた。
「回復魔法は、ツヨシさんがこの後、転移魔法を使いますので一応残しておこうと思います。今からお見せするのはこれです」
そう言って、ロナさんはあの白い雲みたいなものを取り出した。
僕に見せてくれていたものは、両手サイズくらいの大きさだったが、今回はロナさんの身長の半分くらいのサイズだ。
「これに、まずはここから見える広場の情景を出します」
ロナさんは白い雲に、なにやら小声で呟きながら魔力を込め始めた。おそらくこれはパフォーマンスだろう。異世界を映し出すときは何も言っていなかったのに、目に見える距離で何か言うのはおかしい。
「おお、映ったな。これジント導師、本当に今の情景か確認してくれ」
「……はい」
ジント導師が、王に言われ僕たちのほうへ来た。そして外の様子を確認しながら雲の様子も確認する。
「今の情景です」
凛姉の時と違い、ジント導師は冷静にそう言った。この魔法はあまり珍しくないのだろうか。
「そうか。まぁ、君に関しては回復魔法が本命だからな――。「それでは、次は見えないはずの場所を映し出します。失礼ですが王様のマントを貸していただけませんか? なにやら魔法妨害系の魔法がかかっているみたいですので……。そのマントで騎士隊長の剣を隠し、その内側をこれに映し出します」
ロナさんは王の言葉を遮り、失礼なことを言い出した。今の魔法では王が満足していないと思ったからなのか、最初から次の事も考えていたのかどちらかはわからない。
王の言葉を遮ること自体失礼なのだが、そのうえマントなど貸してくれるのだろうか。
ただ王は、そこらへんは気にしないタイプの人のようだ。
「おお、良いぞ」
王は快く引き受け、近くに控えていたメイドにマントを渡す。そのメイドがロナさんに渡しに来ようとしたが、ロナさんは騎士隊長に渡してくださいと言った。それを聞いて、メイドは騎士隊長の所へゆったりと歩いて行った。
僕はメイドの子に何か既視感を覚えたが、たいしたことではないだろうと思い頭からその考えを外した。
「ありがとう。えーとこれで良いかい?」
騎士隊長はメイドからマントを受け取ると、すぐに自分の剣に被せた。抜身のまま被せたので、マントが斬れるのではと思った。ただロナさんは、魔法妨害系の魔法が掛かっていると言っていたので、物理的衝撃から護る魔法もかかっているのだろう。実際今のところ傷ついた様子はない。
「はい。大丈夫です。そしてこれがその中の様子です」
ロナさんがパチンと指を鳴らす。すると、雲の中にマントの内側の様子が流れた。騎士隊長の剣と右手が映っている。
「あの子もか」「まぁ、あの子は最初からわかっていたし」「いや、王様のマントにかかっているのって結構強力な妨害魔法でしょ。ヤバくない? すごいって意味じゃなくて、危ないって意味で」
雲にその様子が映し出された瞬間、周りがまたどよめきだした。確かに、妨害魔法が効かない相手は怖い。ただ、彼女もそれは分かっているようだ。
「安心してください。私は攻撃的な魔法は使えません。完全な後方支援タイプです」
「君も合格だ」
ロナさんは、にこやかにそう言ったが、王は少し顔を引きつらせながら合格を言い渡した。攻撃的な物は使えないと言われても、それが本当の言葉とは限らない。というより、突破される可能性を考えていなかったのだろうか。
「それでは、最後は君だな。転移魔法を見せてくれるのだろう?」
王が、なにやら先ほどのメイドに耳打ちをしている。メイドは聞き終わると、一瞬で姿を消した。
「あれ、消えた?」
「気にしなくても良いわよ。ただ部屋を出て行っただけみたいだから」
僕の疑問に亜麻猫さんが答えてくれた。粉雪さんも頷いている。彼女たちは目で追えていたようだ。
「それなら、えーと、中庭にいる騎士隊員さんをここに呼びま――。「待った」
僕の言葉を遮ったのはジント導師だ。顔がかなり切羽詰まっている。
「この子を君の側から外してくれ。何かサポートするかもしれん」
いや、ロナさんには僕の側にいてもらいたい。そもそも転移魔法は、命を犠牲にしなければできない大魔法と言うものではなかったのか。それなら1人ぐらい増えても良いだろう。それに、王様も僕とロナさんが転移魔法を成功させたと報告を受けているはずだ。
あれ? そう言えば、あの魔法陣は転移魔法なのに、この場にいる人は誰も驚かなかった。どういうことだろう。
「ここから中庭までは500m程度だ。20mまでなら私が完成させた魔法陣で対応できる。コストも、君1人を雇うのと同じくらいだろう。それに今現在、距離を伸ばす実験中だ。これが成功すれば、500m位ならいずれ転移できるようになる」
なんだろう。切羽詰まっているからだろうか。支離滅裂というか、希望的観測が多分に含まれた内容の嘆願だった。
「ツヨシさんなら1人で大丈夫ですよ」
ロナさんは、雲を片づけながら僕を励ましてくれた。そして、凛姉たちの所へと帰って行った。
「それでは、一応中庭の彼に協力を取ってから……。すみません。今からあなたをこちらに転移させます」
僕は窓を開け騎士隊員の人に呼び掛ける。彼は「なにバカなこと言ってるんだ」とこちらに返してきた。一応、玉座の間にいる人間が呼びかけているのだから、もしかしたらこんな身なりでも偉い人なのかもと思わないのだろうか。
いや、王様が引き抜きの際はテストをしているのを知っているのかもしれない。それで彼には僕が、王様に良いところを見せようとするホラ吹きに見えているのだろう。
「魔法使ってもいいですね」
「ああ、できるものならな」
言質は取った。彼には悪いが協力してもらおう。僕は酒ビンを一応2本空けた。そして――。
「転移」
「ハハ、そんな一言で――。え、どこ。マジ」
成功した。僕の横に笑い顔の騎士隊員が転移してきた。そしてその笑顔は今、真っ青になっている。
「え、あんな安物の聖水でか」「というよりホラじゃなかったのか」「さすがにズィーさんが間違った報告はしないだろう。それでも、もっと純度の高い聖水を何本も飲む物だと思っていたが……」
何度目だろうか。騎士隊が騒ぎ始める。まぁ無理もないだろう。僕たちが入ってきた時は整然としていたのだから、彼らは態度が悪いとかそう言うのではない。
「おお、すばらしいな! それで、本気なら何mくらいまで行けるのだ」
王様が今日初めて席を立ち、こちらに近づいてくる。ここは逃げよう。説明はロナさんに任せよう。
「すみません。体調が悪いので少し休ませてください。説明はロナから聞いてください」
僕は状況がきちんとできていない騎士隊員に「ありがとうございました」と言ってから、王様に自分の身体の現状を伝える。
別に凛姉を転移させた時みたいに、血を吐きそうとかいうことはない。ただ吐いてしまうかもしれないくらいのレベルだ。これなら元いた世界でも吐かずにいられた。しかし、ここは王宮だ。なんとなく吐きたくはないので、一応念には念を入れておきたい。
「おお、そうだな。しかし、言葉を喋れているから、まだ大丈夫そうだな。ワシが座っていた椅子にでも座って休んでくれ」
それはさすがに嫌だ。気を使うなんてものじゃない。今も吐きそうだが、素面でもそんな状況になったら吐く自信がある。
「それはあれなので遠慮しておきます。それよりも水をください」
飲み物の催促はかなり失礼だが、この場で吐いてしまうよりはマシだ。
あと一応、バケツも頼もうかと思った。その時だった。
「連れてきた。あとこれ水」
メイドの子がフードをかぶった4人を連れて帰って来た。そして読んでいたかのごとく、水を持って来てくれた。
「ありがとう。え、転移?」
メイドが持っていた水のビンをフードを被った4人の内の1人が手に取った。
しかし何故かフードの人に渡ったはずのビンが、今は僕の手の中にある。
「僕も無機物だったら、この部屋の中、程度の距離なら、ってあ、イタ」
一人称は僕だが、声の感じではどちらか分からない。その人が今、後ろにいた180㎝位の大きさがある人に頭を叩かれていた。身長差がかなりあり、叩かれた人は僕より少し高い位だ。
他の2人はロナさんたちと同じくらいだ。ちなみに、メイドの子も同じくらいだ。クールな顔立ちをしており、青髪を後ろでお団子状にしてまとめている。服装はロナさんと同じ系統のメイド服だが、亜麻猫さんみたいに下は見えても良いものを着ているみたいだ。
おそらく、クラシカルなメイド服は動きづらいのだろう。彼女も王の近くで控えているので、ある程度は戦闘ができなければならない。だからあんな服なのだと思う。
メイドとローブの二人は、転移魔法を使った人たちを無視して、王様の近くに行く。それを見て2人も後を追った。
「今から協議に入る。ツヨシ君たちと騎士隊長と導師それにエクスと四天王。これ以外の者はこの場から出てくれ」
なんだか物々しい雰囲気になってきたなと、水を飲みながら僕はその場にしゃがみ込んだ。




