テストされました。亜麻猫、凛編
「今日私たちが呼ばれた理由をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか」
僕は、ジント導師を無視して王様に話を振る。
「おお、そうだな。今回お前たちを呼んだのは、引き抜きについての話だ。まず、そこの粉雪は合格だ。あとの3人は何か特技を見せてくれ。ある程度なら、この玉座の間を壊してもらっても構わん」
どうやら、粉雪さんは騎士隊長との1件で実力を認められたようだ。後の3人となると……。あれ?
「すみません。僕は?」
3人とは、粉雪さん、亜麻猫さん、凛姉のことだろう。しかし、それでは僕が含まれていない。もしかしたら、言わなくても分かっているだろうと言うことなのかも知れないが一応聞いておこう。
「先に後ろの3人の実力を見たい。心配しなくても君は合格だ。ただ、お楽しみは最後にとっておきたいものだからな」
王様はニヤリと笑いながら僕を見る。やはり転移魔法が見たいのだろう。1番目は亜麻猫さんが実力を見せるみたいなので、その間にロナさんに相談しよう。
「ロナさん。どこまで見せたら……」
「窓から見える、街の人をここに転移させれば良いと思います。1番近い人なら、血は吐かなくても済むかと」
ロナさんは白い雲を出しながら、僕にアドバイスをしてくれた。そして、そのまま凛姉にアドバイスをし始めた。
「凛さんは右手と左手に、それぞれ違う魔法を今から掛けておいてください。それで、王様に披露するときに、両足に違う魔法を掛けてみましょうか。多分両手の分だけでもこの場では認めてくれると思います」
凛姉は「わかりました」と返事をしてからまずは右手に魔法を掛け始めた。真剣そうなので話しかけないでおこう。
その真剣そうな顔を見ておきたいが、今は亜麻猫さんも気になる。正直、彼女の実力を僕は知らない。ある程度の実力はあるのだろうが、5人の中で凛姉の次に不安だ。
「待たせましたね」
「いえ、私の方も準備が必要だったからおあいこよ」
両社とも準備ができたようだ。両方とも聖水を1本飲んでの勝負と言うことになったみたいだ。
「騎士隊長さんは全身に、亜麻猫さんは両足と利き腕に魔力を込めていますね」
ロナさんが魔力の分析をしてくれた。おそらく両方とも僕みたいに魔法を相手に放つタイプではないようだ。
「どこからでもどうぞ」
騎士隊長が余裕そうに言う。テストみたいなものだから本気ではないのだろうか。
ファイトスタイルがわからないので、彼が他の騎士と違い、文官の貴族が着ていそうな服を、ラフにしたような格好なのが、ハンデなのかそうじゃないのか分からない。粉雪さんみたいなタイプならガチガチの鎧よりこちらの格好の方がよさそうだ。
「ええ、胸を借りるつもりで行くわ」
亜麻猫さんがそう言うと同時に、姿を消した。
彼女は足に魔法を掛けていた。おそらく防御力が上がるのではなくスピードが上がっているのだろう。その予想は半分当たっていた。
「上か」
騎士隊長は僕たちの中で一番背の高い、粉雪さんよりも大きい。おそらく190近くあるだろう。その隊長の剣は彼の身長の3分の2くらいの大さきだ。
彼はその剣を頭上で横に振るった。そしてその剣先を上へと突き出す。
彼の周りに、カランカランと音を立てて、クナイが散らばった。
「まぁ、気づかれてるわよね」
僕は声がした方へ顔を上げる。すると、亜麻猫さんが天井に立っていた。逆さまになっているため、スカートみたいな部分が反対になっている。しかしパンツは見えず、スパッツみたいなものしか見えない。
足をよく見ると、天井に突き刺さっている。壊しても良いとは言われていたが、おかまいなしだなと思った。一応王様の顔色を見ておこう。壊すと言っても、天井を壊すとは思っていなかったかもしれない。
「ほう、すごい跳躍力だな。それにスピードもある」
王様は平然とした顔でいるので問題ないようだ。
「えーと。騎士隊長さん? 遠距離の攻撃手段はある?」
「今回は使う気はないですよ」
亜麻猫さんは騎士隊長に質問する。それに騎士隊長は、彼女から目線を切らずに答える。
「それなら降りるわ」
亜麻猫さんはそう言うと、両手にクナイを持った、そして――。
「ここからは、隠れはしないわ」
彼女は、天井の壁をさらに壊し、加速しながら落ちて来る。その勢いのまま、彼の頭上に掲げられた剣に攻撃を加えた。
「申し訳ないが、これは折られたくないので、魔法で防御を固めている」
騎士団長は剣を捨てて、亜麻猫さんの打撃を捌き出した。
「あら、良いの?」
「さっき一撃は、魔法で固めてなかったら折られていただろうからな。折れたものとして扱ってくれ」
「それなら、遠慮なく」
亜麻猫さんは反撃を食らわないように、攻撃を加えてはある程度距離を置く。いわゆる、ヒットアンドアウェーで戦いだした。本気を出した騎士隊長なら分からないが、今の彼では捌くので精一杯のようだ。たまに顔やみぞおちを殴られて、怯んだりしている。あとは両者の体力勝負になりそうだった。
「そこまでで良い。えー、亜麻猫? であっているな。そなたも合格だ」
王様は拍手をしながらそう言う。すると、両方とも動きを止めた。両者とも息が乱れていない。まだまだ続けていられそうだった。
「ありがとうございました」
彼女は、王様に礼をしたあと、騎士団長にも頭を下げてお礼を言った。
「君も強いね」
彼女のお礼に騎士団長は、賛辞で返した。ただ、なんとなく亜麻猫さんは不機嫌そうだ。
「本気を出してないくせに」
「はは、ごめんね。2回り近く年が違いそうな子に本気は出せないよ」
そう言われても亜麻猫さんは不機嫌そうな顔を崩さない。
今、粉雪さんが亜麻猫さんをなだめに行った。これで彼女の機嫌は直るだろうと思っていた。だがその顔は、凛姉の行動で崩れた。
「あ、それ触らないで!!」
「え、キャー」
凛姉は自身の両手に魔法を掛け終えていたようだ。それで、亜麻猫さんたちが少し揉めているのを見て、クナイを拾おうとそれに手を出した瞬間だった。凛姉の腕が青白い雷みたいなものに包まれた。
それを見て、亜麻猫さんと粉雪さんは慌てた様子で、凛姉のもとへ駆けよる。ただそれよりも先に――。
「凛姉! 大丈夫!?」
僕は、凛姉の腕を触る。不思議なことに服は焦げておらず腕も何も怪我をしていないようだ。ただ飛び散った火花が当たった床は黒こげになっていた。それも木の床ではない。大理石の床が黒くえぐれている。
「良かった。大丈夫そうね」
亜麻猫さんは凛姉を見て安心したみたいだ。だけど、説明はしてほしい。
僕がそんなことを言おうとしたら王様が代わりに言ってくれた。
「クナイに魔法を仕込んでいたのか?」
「はい。だけど騎士団長には見抜かれていたみたいで全部はじかれました」
辺りには、5∼6本クナイが落ちている。これ全部に先ほどの雷みたいな魔法が仕込まれているのか。僕は騎士団長を見た。彼は顔を青くしていた。
「いや、これには気が付いていない。これを全部食らったら、本気で相手していても数秒動きが止まる」
彼は、控えの騎士から聖水を受け取り、それを飲み干す。そして、クナイを拾い始めた。
「分かっていても聖水を飲んでなかったら抵抗できない」
そう言って彼が最後のクナイを拾おうとした時だった。
「待ってください。最後の1本を凛さんに拾わせてください」
「なぜだ?」
ロナさんが彼に拾うのを止めるように言った。なにか考えがあるのだろうか。王様が彼に拾うのを止めさせ、ロナに質問する。
「彼女は右手には防御魔法を使っていました。そして左手には魔法解除の魔法を保持しています。それも亜麻猫さんの試合が始まってからずっとです。それの証明として右手は十分説明を果たしたと思います。それならついでに左手もと言うことです」
ロナさんは凛姉に拾うように促す。ロナさんの魔力を見る目は確かだ。さっきのもクナイに魔力が宿っているのに気が付いていて、わざと凛姉を止めなかったのだろう。
「それでは、拾います」
凛姉はロナさんのことを信頼しているのか、自身の能力を信頼しているのか。多分前者であろう。少し緊張気味にクナイを拾った。大方の予想通り、何も起こらなかった。
「うむ。君はツヨシ君の姉の凛ちゃんだな。君も合格だ」
「嘘であろう……」
そう言えば後ろに、ジント導師がいたことを忘れていた。
彼はブツブツと「あの年で、違う種類の魔法を同時に維持できるのか」や「あの威力の魔法を消せるのか」などと言っていた。




