テストをされました。
ベイリーさんと食事をした後、僕は真っ直ぐ宿へと帰った。凛姉は先に寝ていたが、ロナさんは起きてくれていた。一応、心配してくれていたようだ。
元いた世界では、その役目は凛姉がしてくれていたが、疲れていたらしい。
僕はロナさんに、あまり飲んでいないことを伝え、待っていてくれたことに礼を言った。
そして、ジャージに着替えそのままベッドに入った。
お風呂は部屋に簡単なものが備えられているので、明日の朝入ろう。
ロナさんと凛姉はもう入り終わっていたので、ロナさんも自分のベッドで横になった。
僕はロナさんにおやすみなさいと言って、返事を待ってから目を閉じた。
◇
そして今は10時50分。場所は王宮内部1階。
「みなさん。少し早いですが、王の方は準備ができたそうなので行きましょう」
先導として、ベイリーさんが王宮内部を案内してくれた。いかにも西洋風の白基調の建物造りだ。ちなみに、王宮に入る前に所持品検査が行われた。しかし、武器類や聖水は取り上げられなかった。おそらく実力を王の前で示せと言うことなのだろう。
玉座の間は2階にある。なので、目の前の階段に足を掛けようとしたその時だった。
「少し待っていただきたい」
階段の上で、何やら男が僕たちを呼び止める。黒髪のオールバックで、年は60ぐらいに見える男だった。
白いローブを着ているため、魔術師だと思う。
「ジント導師。どうされましたか」
ベイリーさんが、困った様子を浮かべながら男の名前を呼ぶ。僕はその名前に聞き覚えがあった。
宝石店にいた男もたしか、ベイリーさんにそう呼ばれていたはずだ。ジントと言う名前がこの世界でポピュラーなものなのかはわからない。しかし、ジント導師と言われると、そう何人もいるとは思えない。けれど、店であった男は白髪だった。たぶん別人だろうが、あとでベイリーさんに聞いてみよう。それよりも今は、目の前の男が何かこちらに用があるようだ。
「御嬢さん方は、王がお待ちですのでお先にお行ください。だが、君は残ってくれ」
目の前の男は、あからさまに僕に対して敵意を向けてくる。やっぱり昨日の宝石店の男と同一人物なのだろうか。この世界なら髪の色を変えるのは楽そうだ。
「いや。理由が知りたいんだが……」
粉雪さんも相手の敵意に気付いたのか、あからさまに不機嫌そうにそう言う。服装もきちんと上衣を着ているため、いつも以上に迫力を感じた。
それを見てジント導師は、腰を折って説明しだした。
「これは失礼しました。こちら男の子が転移魔法に成功したと聞きまして。私も転移魔法の術式開発をしている身といたしましては、勝負がしたくなりまして……」
そう言って彼は何か小声で呟いた。すると……。
「え、魔法陣?」
僕の目の前の階段に魔法陣が現れた。
「その魔法陣は、この玉座の間の扉の内側すぐに繋がっています。王には、余興の一環だと伝えてありますので、そこに乗っていただけますかな? 私はきちんとした成果があると言うことを伝えたいので」
導師はやはり、僕に喧嘩を売っているようだ。
転移魔法は、物語の中でも多大な犠牲を払って、少しの距離を移動させるものだった。現代でも、1人2人の力でできるものではないらしい。だから長距離転移を成功させた僕たちを疑っているのだろう。
「私たちは、先に行って待ってるから。一応、こいつが王に許可を取ってるのか確認するから、それまでは乗らないようにね」
亜麻猫さんが、僕にそう注意する。そして、いの一番に階段を駆け上がって行った。それを、ベイリーさんを先頭に次々と追いかけて行ったので、僕1人残されることとなった。多分、王様に確認を取る前に堅苦しい挨拶などが行われるだろう。連絡が来るまでの間に、目の前の男に聞いておこう。
「昨日、宝石店にいました?」
「ゴホッ――」
あ、この人態度に出やすい人だと瞬間的に分かった。
「誰かと勘違いしているんじゃないか?」
一応、彼も取り繕うようにそう言ってきた。ただ、先の反応を見るに同一人物だろう。
僕は少しカマをかけてみようかと思った。しかし――。
「確認取れたから、踏んでいいわよ」
亜麻猫さんが、階段上から確認が取れたことを伝えてくれたので、僕は魔法陣を踏む決意を固めた。とりあえず、王が許可を出したと言うことは変な所には繋がっていないだろう。
「それでは、てい」
何となく、両足でジャンプをして魔法陣を踏んだ。すると。
キーーン
何か、甲高い、金属同士がぶつかる音が聞こえた。これが転移時の音なのだろうか。
僕は、辺りを見回す。多分ここは玉座の間に違いない。武装した騎士たちが両脇に並んでいる。そしてその間に、高そうな豪華な服を着た、恰幅のよい男性が、高価そうな椅子に座ってこちらを見ている。とりあえず、自己紹介をした方が良いのだろうか。それとも、ジント導師が来るのを待ったほうが――。
「亜麻猫!!」
「分かってます!」
そんなことを考えていたら、粉雪さんの怒鳴り声が耳に入ってきた。あれ、そう言えば粉雪さんだけなぜ、僕の前にいるのだろう。そして、その横にいる騎士の人は、なぜ自身の手を押さえているのだろう。
「いきなり攻撃をしてくるなんてどういうつもりだ」
粉雪さんはいつになく怒っているようだ。今も、模擬試合の時に僕に向けた以上の殺気を相手に向けている。止めに入った方がよいのだろうかと迷っていた時だった。不意に体が後ろに引っ張られた。
「ツヨシ、下がりなさい!」
僕を引っ張ったのは亜麻猫さんのようだ。後ろから声が聞こえてきた。僕はそのまま、後ろに倒れ込んだ。そして、さっきまでいた場所に、剣が降ってきた。
「つーくん!?」「凛さん。大丈夫ですよ」
僕は思わず後ろを振り返る。そこには、鬼の形相でクナイを構える亜麻猫さんと、泣きそうになっている凛姉。凛姉を抱きしめるロナさんがいた。
刀を抜いていなかったので、のんきに構えていたが、さっき粉雪さんは攻撃がどうとか言っていた。そして、頭上から剣が降ってきた。おそらく、そこで手を押さえている騎士隊の人のだろう。ということは――。
僕は、急いで酒瓶一本を空にする。そして。
「動くな。停止」
一応手強そうな人だったので、いつにもまして厳重に、二重に言葉を重ねた。騎士隊の人の様子を伺うと、成功したようだ。しかし、いつもと様子が違う。
「か、ほっ」
騎士隊の人の顔色が見る見るうちに、青くなっていく。
まずい。息ができていないようだ。
「わわ、解除」
僕は思わず、解除と言ってしまった。もしかしたら反撃が来るかもしれない。しかし、解けた後、彼は前のめりに床に手を着いて息を吸いだした。
「一応、刀は首に置いておく」
粉雪さんは、いつでも彼を殺せるようにか、刀を抜いて、彼の首近くに持って行く。しかし腕が伸びきってしまっているので、あのまま彼の首をはねるのは無理であろう。ただ、あれは本当に斬るためではなく、玉座の間にもかかわらず、刀を抜いて、あまつさえそれを騎士隊員に向ける事態になるほど、こちらは怒っているというパフォーマンスなのだろう。
それを見て、王が玉座から立った。
「どうか、それを納めてくれ。その男は騎士隊長で、私が命令して君らの実力を測らせたのだ。非礼はわびさせてもらう。本当に申し訳ない」
そう言って、王は僕たちに頭を下げてきた。これは、こちらとしても気まずい。思わず僕は声を出していた。
「こちらこそ、そうとは知らずに申し訳ありませんでした」
僕は、王が頭を下げた以上に頭を下げて謝った。すると、粉雪さんも刀を納めた。しかし、殺気はまだ騎士隊長に向けたままだ。
それに彼も気が付いたのか、それとも息を整え終わったからか、僕たちに説明しだした。
「ズィーからの報告で、少年以外にも手練れが何人もいると書いてあったのでね。一応これくらいなら対応してくれるかなと思って攻撃したんだ。すまなかった。彼女たちもそうだが、君にも思った以上の手痛い反撃を食らったよ」
騎士隊長がそう言うと、粉雪さんも殺気を引っ込めた。彼の顔を見ると、何故か涼しげにしている。おそらく、魔法の常時展開をしていないから、粉雪さんの攻撃を食らって、手がしびれ、僕の魔法も普通に効いたのだろう。今の彼からは何も魔法の流れを感じない。騎士隊長ということはこの国でトップレベルに強いはずだ。きちんと態勢を整えてからであれば彼は強いのだろう。
「すみませんでした。それで、ジント導師にも実力を測るように言われたんですか?」
「いや、あれはあいつから言って来たんだが……。そうだろう、ジント導師」
王が扉の方を見ながらそう言ったので、僕は振り返った。
そこには、苦虫を噛み潰したような顔をしたジント導師がこちらを睨んでいた。




