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色々ありましたが、楽しく飲めました。

「ありがとうございました。日を改めてまた来ます」


 僕は店員さんに頭を下げて、店を出た。


 結論から言うと、凛姉の分だけすら、今の僕の所持金では買えない。一番安い、米粒くらいの大きさのエメラルドの指輪が3万円だった。


 今回はあきらめよう。初めての貴金属のプレゼントだ。もっとちゃんとしたものを渡したい。クソ野郎対策は、僕が四六時中見張ることにしよう。


「何か買われました?」

「あれ、ベイリーさん。さっきの人は?」


 店を出ると、ベイリーさんが1人で待っていてくれた。


「同期の騎士が見回りしていたので、引き渡しました。それじゃあ、食べに行きますか」


 そう言ってベイリーさんは僕の返事を聞かずに歩き出した。


 僕が質問に答えず、関係ない質問をしてしまったのが悪いのだが、「何か買われました?」と聞かれた質問に返答ができなくなってしまった。


 彼もそこまで気になる話題では、無かったということだと思い、僕は彼の後について食事処に入った。


◇◇◇


「ハハハ、もう1杯どうです?」

「明日もあるので……」


 ベイリーさんと一緒に店に入ってから2時間が経とうとしていた。


 ベイリーさんは酒が弱いと言うわけではない。むしろかなり強い方だ。しかし、顔が真っ赤になっているし、素面の時の冷静さは、今は無い。


「ハハハ、そうですか。それで、女性陣に尻に敷かれてんです~?」


 彼は、酔うと笑い上戸になるようだ。まだ、怒り上戸や泣き上戸じゃないだけマシだが、それでもこのレベルの笑い上戸は、サシで飲むのはきつい。それも今日会ったばかりの人だから、どこに地雷があるかわからないのもあって下手に質問も投げられない。


「いえ、敷かれていないです」


 とりあえず、彼の質問に答える側に回ろう。その方が、気が楽だ。


 そう思ったが、正直には答えられない質問が飛んできた。一応、否定はしておこう。


「うっそっだーぁ。機嫌を取ろうとして、宝石店に行ったんでしょ」


 確かに彼の言うとおり、あの修羅場を見ていたら、宝石店に行くのは機嫌取りにしか見えない。


 一応本当の事を伝えておこう。


「うそじゃないです。姉に指輪を買ってあげようと思ったんですけど……。高かったので、また次回、お金が貯まったら買いに行こうと思います」


 僕はベイリーさんの顔を見てみた。すると、まだ疑っているといった顔つきだった。


 酒の席だから、聞くのは止めておこうかと思ったが、宝石店の話が出てきた。一応、さっきの男の事を聞いておこう、なにやら知り合いのようだったし……。


「あの、聞きづらいことなんですけど……。さっきのジント導師? って人とお知り合いなんですか?」


 僕の質問に、彼の顔から笑みが消えた。しかし、殺気だったとかではなく、何か言いづらそうにしている。


「あ、別に話づら――「いえ、話しておいた方良いですね」


 ベイリーさんは、僕の言葉を遮って話し出した。


「今日、騎士が2人いたじゃないですか。僕と指示系統が違うって言っていた、あの人たちの上司の上司みたいなものです」


 ああ、だからベイリーさんは僕に後処理をさせたくなかったのか。それに多分、騎士たちの上司の上司と言うことは、ある程度の人なら顔を知っているはずだ。だから見回りの騎士に任せても大丈夫だったのだろう。


「そうだったんですね」


 僕は、目の前に置かれたリンゴジュースを飲み干した。最初はシードルを頼んだが、2杯目からはリンゴジュースにしていた。

 僕が2杯目を頼んだときには、彼は、5杯目の聖水を頼んでいた。そして、ベロンベロンに酔っ払っていたので、僕がジュースを頼んだことに気がついていない。


「すみません。同じのもう1杯お願いします」


 僕はさっき持って来てくれた店員さんに、名前を伏せて注文する。すると、ベイリーさんがからかってきた。


「ツヨシさん。シードル好きっすね」


 実際、元いた世界で飲んでいたのは、甘口のものを飲んでいた。しかしここのものは辛口であまり好きにはなれそうになかった。なので、彼の言葉にどう返事をしようか困ってしまい、少し間ができてしまった。

 そこで、店員さんが余計なひと言を言ってしまった。

 

「あれ、シードルでしたっけ。リンゴジュースでは?」

「え、ちょっ」


 僕は、顔を店員さんからベイリーさんに戻した。


 ベイリーさんは、笑ってはいるが目が座っているので怖い。


「ごめんなさい。本当は僕、強くないので2杯目からジュースを飲んでました」


 僕は内心焦っていた。


 僕がまだ新入社員の時に聞いた話だ。違う部署に転勤になった先輩が昔、酒が弱いからビールを注がれたくなかったので、日本酒を飲んでいるように見せかけて水を飲んでいたそうだ。

 ビールはビンを持って注ぎに廻る人が多いが、日本酒のビンを持って廻る人は少ないからだそうだ。

 しかし、酒好きの上司にそれがバレて大目玉を食らい、ペラペラのだがアルミの灰皿で頭を思いっきり叩かれたらしい。


 その時先輩は言い訳をしたから、余計に怒らせてしまったと言っていた。その話を聞いてからは、酒の席では、悪いことをしたら言い訳をしないようにしようと思った。


「まぁ、弱いなら、弱いって言って欲しかったですね。無理には進めませんし」

「すみません」

 

 少し落ち着いた声で、ベイリーさんが僕に言ってくる。そして、飲んでいた酒を一気に飲み干した。


「僕も、彼と同じでリンゴジュースもらえます?」


 ベイリーさんはにっこり笑いながら、店員さんにそう言う。店員さんは気まずそうに固まっていたが、急いで厨房の方へ向かって行った。


「飲みすぎたら奥さんに叱られますから……。僕も尻に敷かれているんで」

「はは、大変ですね」


 ベイリーさんは、空気が凍ったのを感じ取ったようだ。おちゃらけながらそう言う。


 僕は彼の優しさに、内心お礼を言いながら、彼の奥さんの愚痴を30分程度聞いた。


 愚痴を聞いているというのに、胸のつっかえが取れたからか、笑いながら聞くことができた。

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