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宝石店で軽いトラブルになりました。

 主都の中央広場と言うだけあって夜だというのに人でいっぱいだ。それにここは、先ほどの街道と違い昼のように明るい。


 その理由は、先ほどの道なりには、店は無く街灯だけだったが、広場は街灯と店の光で照らされているからだ。そのため広場はビアガーデン状態になっている。飲んだくれが結構そこらかしこにいる。

 この世界では、飲んだくれがたくさんいても不思議ではない。しかし、主都の中央広場にいるのは普通なのかなとは思った。あとで聞いてみよう。


「こっちです」


 思わず足を止めてしまった僕を、ベイリーさんが5歩先くらいのところから呼んでいる。


「すみません」


 これでは、おのぼりさんに見られてしまうと思い、すぐに彼のもとへと小走りで駆け寄った。


「宝石店ならあそこですよ」


 ベイリーさんが指差した方を僕は見る。他の周りの飲食店とは明らかに違う。まず、木ではなくレンガで建物が造られている。そしてショーウインドーには、何点も宝石が展示されている。


 ショーウインドー越しに店内が見える。光が灯っているのでまだ閉めてはいないようだ。


 一応時間を確認すると、9時40分になっていた。今日は値段の確認だけにしておこう。


「入っても大丈夫ですか?」

「ええ、私も妻の誕生日が近いので見学しようと思います」


 ベイリーさんの何気ない一言に僕は少し驚いた。何となく、僕より1∼2歳くらい上だと思っていた。だからまだ独り身なのだろうと考えていた。


「それでは、一緒に入りますか」


 ただ、この話題を深く掘り下げるのは酒の席でだ。今は、足を止めて話す時間はない。


 僕とベイリーさんは、宝石店のドアの前に着いた。そして僕がその扉を開けた瞬間だった。


「なぜ拒否するのだ。これは、この国の為になる研究に必要なのだぞ」


 僕は思わず、扉を閉めた。チラッとだが、初老と思われる白髪の男性が店員に怒鳴り散らしているのが見えた。


 あれだけ大きな声が外まで聞こえないのはおかしいと思ったが、防音の魔法でも建物全体に掛けているのだろう。少し気になったが自己解決した。

 それよりも今は、エメラルドの値段が知りたいのだ。しかし、今入ると初老の男性に絡まれるかもしれない。一応、絡まれた時の為に、ベイリーさんに確認を取っておこう。


「あの、ベイリーさ――「ツヨシさんごめんなさい。先に食事処に入っていてください。この宝石店の隣の店です」


 ベイリーさんは右隣の店を指差した後、宝石店の中に入って行った。


 彼が入って行ったということは、この問題は解決するだろう。先に飲食店に入って注文していても良いかもしれないが、一応彼のフォローに向かおう。


「ごめんください」


 突然の事態で頭がきちんと廻っていなかったのか、それとも、宝石店なんて入ったことがなかったので気が動転していたのか、普段言わないような言葉が自然と口から出た。


「いらっしゃいませ。あのお客さま、こちらのほうへ――「あ、えっと。後から来た、あの男の人のツレです」


 僕が入るなり、扉の近くにいた店員が僕を彼らから遠ざけようとする。とりあえずは、僕が彼の知り合いだと説明しておこう。


「そうでしたか、となりますと騎士様ですか?」

「彼はそうですけど、僕は違います。ですけど、彼の協力者ではありますので……。何があって、あんな大声を上げる事態に?」


 僕が再度入っても、まだ白髪の男性は声を荒げている。よほど腹に据えかねることがあったのだろう。


「魔術の研究にエメラルドが必要だからあるだけ出せ、金は後払いだ。とおっしゃっているのです。誰ともわからないような人に信用売りはできませんので……」


 そういうことか。それなら、店側は何も悪くない。あの白髪の男性が全面的に悪い。それに、エメラルドの買い占めなんて、今日、明日は止めてもらいたい。


「ジント導師、一度落ち着きましょう――「ええい、離せ」


 そろそろ、僕も止めに入ろうかと酒瓶に手を掛けた時だった。ベイリーさんをジントと呼ばれた男が突き飛ばした。


 僕は半分でも大丈夫と思い、新しい酒瓶を開け、少し飲んだ。そして――。


「動くな」


 僕はジントと呼ばれた男に向かってそう言い放った。ジントは、ベイリーさんを突き飛ばした後、再度店員に食ってかかろうとしていたが……。


「だから、なぜだっ――――な」


 成功したようだ。

 僕は手慣れたものだと思いながら、ベイリーさんを助けに行く。


「大丈夫ですか?」

「ええ。突き飛ばされただけですから。それよりもこれは?」


 ベイリーさんは、膝を払いながら僕に聞いてくる。


「僕がやりました。店員さんから事情は聞きましたので、とりあえず外に引きづり出しましょうか?」


 僕がそう言って、ジントを退けようとしたら、ベイリーさんが止めに入ってきた。


「それは、私がやりますので……」


 彼は少し申し訳なさそうにしている。多分、こういった荒事をお客人に解決してもらうことに抵抗があるのだろう。それならお言葉に甘えよう。


「お願いします。けど解除は……」

「それなら、私ができますのでご心配なく」


 そう言って、ベイリーさんはジントの両脇に手を入れ外へ引きづって行った。


「それじゃあ。3分だけ見て廻らしてください」


 時計を確認すると9時52分になっていた。10時ちょうどまでいるのは気が引けたので、5分前には外に出ようと思い、近くにいた店員にそう言った。

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