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慣れないからかいなんて、するもんじゃありませんでした。

 道中は特に何も問題は無かった。道すがら、何かモンスターでも出てくるかと思っていたが、あともう少しで主都というところまで来ても、何も出てこなかった。


 窓越しではあるが、チラチラと大きな真っ白な城壁と鉄製の門が見えている。チラチラというのは、僕が馬車内部の装飾の方を熱心に見ているからだ。


 僕は、雑談の時に粉雪さんの服の事を聞いてみた。すると、主都についてからはきちんとするとのことだった。それを聞いて、亜麻猫さんはひどく残念そうな顔を浮かべていた。


 あと、凛姉にプレゼントするのはエメラルドにしようと思う。

 

 エメラルドの石言葉を見てみると、幸運とか希望とかそういった恋愛関係の物ではなかった。しかし言い伝えのページに、恋愛成就や幸せな結婚、そしてお互いの浮気封じと言ったものが書かれていた。この石なら表向きは幸運のお守りとして渡して、裏ではそういった意味で自分の分も買おう。


 ただそうなってくると値段が問題だ。元いた世界では人工的に造りだした物はある程度は安かった。しかし1万円以下の物は、本当に小さかったような気がする。それに、僕が見た物がエメラルドだったとは限らない。もしかしたら、人気のない宝石だったかもしれない。


 エメラルドなんて、宝石に詳しくない僕でさえ知っている宝石だ。もしかしたら凛姉の分ですら買えないかもしれない。そもそもこちらの世界では人工的に造られているのだろうか。


 それを聞こうと思ったが、聞けそうな人がパーティに居なかった。装飾品など誰も付けていない。主都に着いたら、御者台の彼に聞いてみよう。どうせ、宝石店はもう閉まっているだろうし、彼は他の2人と違ってこちらに好意的だ。彼と話をしておいて損はない。


「つーくん。外見て……。あれ止まった?」


 装飾の中のエメラルドっぽいものから、目線を外に移す。確かに止まったみたいだ。


 僕は、御者台の方を見る。すると、真ん中に座っていた彼が居なくなっていた。

 その彼であるが、ガチャと馬車の扉を開け、僕たちに謝ってきた。


「すみません。お泊りって、こちらで決めさせていただいても?」

「いえ、この宿に泊まりたいんですが」


 僕は、村を出る前にもらったメモも彼に見せる。彼を信用していないわけではないが、横のぶっきらぼうな騎士隊員が茶々を入れてきて、変な宿を紹介してくるかもしれない。それなら同じぶっきらぼうでも、きちんと説明してくれた彼女を信じよう。これは雑談の時にパーティで決めたことだった。


「ズィーさんの紹介ですか。分かりました。それでは一応目立たないように馬車の外観を普通の商業用の馬車に偽装をします。5分ほどお待ちください」


 思わぬ形であの女性の名前を知ることができた。ついでにこの人の名前も聞いておこう。そう思ったが、粉雪さんが彼に質問しだした。


「偽装ってどうするんだ? 残りの2人は潰れてるじゃないか」


 確かに僕が気づいた時には、すでに背もたれにもたれかかって寝ていた。彼1人で魔法を使うのだろうか。


「このくらいなら1人で大丈夫です」


 そう言って彼は、腰の、酒瓶を入れるために作られたのであろうフォルダーから酒瓶を取り出し、それを一気に飲み干した。


「ん? それは結構な……」

「これくらいなら全然ですよ」


 彼は粉雪さんに返事をしてから外に出ていく。すると、周りが白くなってきた。材質的にホロのようだ。

 商人の荷馬車に偽装しているのだろう。僕たちの乗っている部分を覆うように木で枠組みができてホロがかぶされていく。

 

 僕は窓から手を出して出来上がった部分を触ってみようとした。しかし、手がすり抜けてしまった。


「あれ、これ幻ですか」

「あんた。なにか分からないものに、むやみやたらに触らない方が良いわよ」

「え、ああ、そうで……。粉雪さんもですね」


 亜麻猫さんの注意を受けて、僕は慌てて手を馬車の中に戻した。そして、彼女の方を見ようとしたら、粉雪さんも窓の外に手をやっているのが目に入った。


「ああ、粉雪様もそんなことを……」

「すまない」


 粉雪さんが引っ込めた手を、亜麻猫さんが素早く握る。

 あ、これは心配しているんでは無くて、自身の邪な心を満たすために握ったなと僕は思った。顔が緩みきっている。


 その顔を見て僕は、亜麻猫さんをからかってやろうという気になった。

 僕はカバンの中からメモ用紙を取りだす。そしてそれに文字を書き、粉雪さんの手を離した亜麻猫さんに渡す。


「ん? ああ」


 僕の予想とは裏腹に、亜麻猫さんの反応は薄い。いや、何故かニヤリと笑ってこっちを見ている。


「粉雪様。ツヨシが……」

「メモか? なっ」


 僕が亜麻猫さんに渡したメモは、粉雪さんの手に渡ってしまった。彼女の顔が真っ赤になっている。僕は慌てて弁明に入ろうとした。だがそれは聞き入れてもらえなかった。


「いや、違うんで――「私は誰にでも粉をかける安い女じゃないぞ!!」


 僕は亜麻猫さんをからかおうと、メモを渡した。

 その内容は、『彼、聖水の耐性強そうですけど大丈夫ですか? 止めに入らないで』と言うものだ。


 彼が飲んだ聖水は、粉雪さんの反応からしてかなり度数が高いものであろう。それなら彼女の恋愛対象に入るだろうし、背も彼女より少し高く、顔もきれいな顔立ちをしていた。

 

 僕みたいなチンチクリンに対して最初、敵意をむき出しにしていた亜麻猫さんなら、こう言えば慌てふためくと思った。しかし彼女は、僕にこうしてカウンターを返してきた。


 それよりも今は、粉雪さんに言い訳をしなければならない。


「えーと、嫉妬と言いますかなんと言い――「なっ」


 僕が嫉妬と言った瞬間、粉雪さんは小さく声を上げ、顔はさらに真っ赤になった。こちらは解決しただろう。あとで冷静になった彼女に謝ろう。しかし……。


「つーくん。やっぱり……」


 凛姉は悲しそうな顔をしている。

 先日の誤解は解けたのだが、今の言葉で、凛姉の中で疑惑が再燃したのだろう。僕にとって、今現状で2番目の問題だ。そして1番の問題は……。


「ふふふ」


 今まで静かに読書をしていたロナさんが、黒い気を纏いながらこちらを見ている。


「あの、亜麻猫様?」


 僕はかなりへりくだった態度で亜麻猫さんに助けを求める。しかし。


「からかってきた相手を助けるほど、お人よしじゃないから」


 亜麻猫さんはそう言って、閉じていた本を再度読み始めた。いや、顔が笑っている。それに、ベタベタなことに、本が逆さまだ。


 僕は、なれないことなんてするんじゃなかったと思いながら、辺りを見渡す。すると、馬車の外で、こちらの様子を伺っている御者の彼がいた。


「あ、もうすぐ着くんですよね。それなら、僕も御者台のほう見学させてくだ――


 僕は席を立ち、彼のもとへ向かおうとしたら両手を取られた。片一方は凛姉だ。再燃した疑惑の話をしたいようだ。そしてもう一方は……。


「どこに行こうというんです?」

「ひえっ。戻りま……す」


 僕は思わず声が出てしまった。そして、問答無用で席に戻された。

 しかしそこに助け舟を亜麻猫さんだが出してくれた。


『しょうがないから、宿に着いたら助けてあげるわよ。それまでは耐えなさい』


 亜麻猫さんから先ほどのメモに、そう付け加わって返って来た。


 思わず僕は、亜麻猫さんの方へ顔をやった。


 辺りは白いホロで囲まれ分からなかったが、亜麻猫さんの背後の、御者台に彼が乗っており、指で前を指しながらこちらを見ている。


 そして亜麻猫さんは、本の向きを戻して読みだした。


 僕は御者台の彼に対して、首を縦に振った。すると、彼は前を向いて馬車を動かし始めた。


 この馬車は、魔法で制御されて揺れないはずだが、今僕はふらふらしている。


 ただ、この馬車の中に天使が1人……。2人いるのを感じながら、そのふらふらを我慢し宿への道のりを耐えることにした。

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