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いざ、主都ロマネへ

 僕たちは村の入り口で騎士隊を待っている。もうすぐ1時間が経とうとしていた。それなのに今いるのは、さっきの男たちではなく違う男だけだ。馬車をひく馬の世話をしている。


 馬車は馬2頭でひくタイプで、人が乗る部分はしっかりとした造りで、荷物を運ぶ時に使う白いホロを被せただけのような物ではなく、6人ほど乗れる屋根付きの物だ。外観周りに無駄に華美な装飾がなされている。

 他のパーティメンバーはすでに中に入って座っている。


 馬の世話をしている男は一応騎士だが、戦闘は本人の話ではからっきしで、大概は誰かの移送任務を受けているそうだ。ただこの男は、2人とは違い、僕たちに友好的に接してくれいる。なので僕は積極的に話しかけてみることにした。


「あの、馬って1時間くらいで休息できるものなんですか」


 僕は生で馬を見るのは初めてだった。職場の先輩に競馬好きの人がいたので、競馬雑誌とかを読ませてもらったことはあった。しかし目の前の馬は雑誌で見た馬より全体的に太く、これに蹴られたら間違いなく死ぬなと再度思った。溝田さ……。凛姉に手を出す男はこれに蹴られればいいんだ。


「うーん。本当は半日走らせてるから、もっと休ませたいんですけどね。魔法を使って無理もさしてますし。けど王様もお待ちだから。それに“僕の方”は直属の上司から、王様に会わせる前に主都の街の案内もして、もてなせって言われているんです」


 男は馬の腹を撫でながらそう話してくれた。そのあと、小さく「あっ」と言った。多分もてなしの話をこちらサイドに伝えたのはまずいと思ったのだろう。しかし僕は違うところが気になった。


「僕の方はって言われましたけど、今聖水を飲んでいる騎士隊の人達は言われてないんですか?」


「えーと。僕とあの2人は、指示系統が違います。あの人たちの上司は――「全員居るな。それじゃ、出発するぞ。早く乗れ」


 そう言って騎士隊の2人は、赤ら顔で御者台に座る。そしてもう1人の騎士は、僕に頭を下げ、2人の間に座りに行った。


「つーくん。早くしよ」

「あ、うん」


 僕も馬車の中に入った。外から見ても分かっていたことだが、やっぱり中も豪華だ。外に比べると少ないが、それでも宝石などで華美に装飾されていた。


 僕はみんなが荷物置きにしていた亜麻猫さんの隣の席に、宿から借りたカバンを置いた。そして凛姉の横の席に座った。ソファーに座ると、自身の体が、軽く、心地よく、沈んでいくのを感じられた。


 それぞれの席の位置は、入り口の右、御者台側の奥から、荷物、亜麻猫さん、粉雪さんの順に座っている。そして、反対側は奥から、僕、凛姉、ロナさんの順だ。馬車の上座、下座については知らない。電車だと進行方向に向いて窓際に座る方が上座だが、この馬車は反対側も乗り降りができるようになっているみたいだ。この場合、どちらが窓際になるのだろうか。


 パーティ内でそんなことを気にする人はいないと思い、あとでさっきの男の人に聞いてみようと思い、外を見ていた顔を前に向けた。すると、窓ガラス越しにさっきの男の人が、御者台からこちらを見ていた。そして、前を指差して何か口パクで何か言っている。多分、出発すると言っているのだろう。僕は手で○を作って首を縦に振った。


 すると馬車が動き出した。しかし振動や馬が走る音が全然ない。今動き出したのが分かったのも窓の外の景色が動き出したからだ。それも最初はゆっくりだったが、徐々に速くなっている。


「あれ、もう発進してるんですか? 全然揺れたりしませんね」

「魔法で制御しているみたいですね」


 凛姉の言葉に、ロナさんが答えている。確かに魔法で制御しているのだと思う。ロナさんは天界でなら神様クラスの魔力感知ができたみたいだし、言っていることは合っているだろう。


「それなら良かった。かなり揺れると思って、まだ安定してそうな真ん中に座らせてもらったんだけど……」

「「あ」」


 その言葉に僕と亜麻猫さんが思わず反応した。多分亜麻猫さんも僕と同じことを思ったのだろう。馬車が思いっきり揺れたら、隣の人に抱き着いても自然だなと。しかし、魔法で制御されているとそんなことはできない。


「どうしたの? 2人とも」

「なんでもない」「なんでもないわ」


 ほぼ同時に、僕と亜麻猫さんは返事をした。凛姉の顔越しにロナさんを見ると、にっこりと笑っていた。

 なんとなくだが黒いものが見えた気がしたが、気のせいだと思うことにした。それより、今は図書館から借りてきた本でも読もう。揺れないのなら車酔いしないで済むだろう。


 そう思い、カバンの中から『宝石の歴史と魔力について』の本を出した。僕が借りた本の中では一番娯楽からは遠い本だ。これなら読んでいても、まだそれほど、嫌な感じにはならないだろう。  


 こんな閉鎖された空間でいきなり1人本を読み始めるのはどうかとは思う。けれど、男は僕1人で、後は4人とも女性だ。1対1ならともかく、何となく話しづらい。それなら、勉強している素振りをしておいて、話しかけられたら話に加わろう。そう考えていた。しかし……。


「それじゃあ、私はこれで。粉雪様はこれでしたね。ロナと凛は何読む?」

「私は1番上の本で」「私は魔法関係の本で」


 亜麻猫さんが居酒屋でお酒を頼むみたいな感覚で何の本を読むか聞いている。そして、凛姉たちもパパッと答えていく。


 そして、みんなに本が行き渡り、全員黙々と本を読み始めた。


「え、えっ」

「どうしたの? つーくん」


 予想外の展開に僕はまたしても声を出してしまった。それに凛姉が反応してくれる。


「いや、女子4人で話始めると思っていたから……」


 僕が小声で、凛姉に返事をしていると亜麻猫さんが代わりに答えてくれた。


「ツヨシが外にいる間、疲れが溜まっていない最初のうちに本を読みこんで、途中途中で雑談でもしましょうってことを話していたの」

「それで、つーくんは何を読んでるの? 宝石?」

「うん。ゲームとかなら宝石に魔力を込めたりするから、こっちの世界はどうなんだろうと思って」


 とりあえず、考えていた言い訳を凛姉に言う。宝石を買ってあげるのはサプライズにしたい。指の大きさは、1年前姉が寝ている隙に測ったことがあるので、大体は分かっている。なぜ測ったかというと初任給で指輪を買ってあげようと思ったからだ。しかし、その時は高価なものはいらないと言われたので、計画を変更して少し高めのお店に夕ご飯を食べに行った。その時は、なぜか溝田さん……。溝田も一緒だったが。


「ふーん。まぁ、何か気になる記事があったら、雑談の時にでも話しなさいね」


 亜麻猫さんは、自分が持っている本を読みだした。一応、僕が雑談の時に、話に入れるようにお膳立てもしてくれた。こういう気遣いはできる人なのに、色々と残念な人だと再度思った。


 なぜなら、今も本を読むふりをしているが、目線が粉雪さんの胸の谷間に行きっぱなしになっている。対する粉雪さんは、本に集中しているのか、その視線に気づいていないようだ。


 というより、粉雪さんは服をちゃんと着ろと言われたはずだが……。王の前だけはきちんと着るのだろうか。


 雑談の時に聞くことが増えたなと思いながら、僕は凛姉と僕にぴったりの石言葉を探すのであった。

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