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王からの呼び出しですが、3人は旅行気分です。

 村の図書館は宿から西に100mくらいの所にある。

 

 この世界では、中世ヨーロッパみたいに本1つで家が建つくらい高価な物ではなく、魔法で量産する体制が整っているため、僕でも買えるくらいの代物だ。しかし、それなりには高いらしい。


 一般人は、本などはあまり買わない。小さい子供を寝かしつける時に話す物語などは、親が暗記しているのを語り継いでいく。それか、この図書館で借りていく。


 宿から近いこともあり、すぐに着いた。僕は静かにドアを開ける。


「ごめんくださ~い」


 図書館ということもあり、小声でそう言ってからカウンターへ向かう。

 カウンターに着くとすぐ、手短に挨拶をして本題に入った。


「身分を証明できる物の提示をお願いね」


 カウンターの内側にいる、70歳くらいの司書のおばあちゃんに、優しげにそう言われ、僕は慌てて冒険者カードを提示する。


「今日はどんな本をお探しかい?」


 身分証明と言われ、写真付きのものを思い浮かべていたが、金融機関ではないので冒険者カードでも通った。いや、この冒険者カードはそれだけ信用があるものなのだろうか。あとで女将さんにでも聞いてみよう。


「宝石の石言葉? 的な本ってありますか?」


 今になって花言葉とかは結構使うが、石言葉はあまり使ったことが無かったので、言い方があっているか不安になった。しかし通じたようだ。


「それなら、6番の本棚に3冊置いてあるよ」

「ありがとうございます」


 僕はお礼を言い、司書さんが指差した6番の本棚に向かう。


 この図書館は女将さんの話では、全部で1000冊くらいの蔵書があるそうだ。この間、夕食を食べた後の配膳を返しに行った時にそう聞いた。


 見たところここの広さは、宿の1階部分とほぼ同じくらいだ。本棚は縦2m横1mくらいのが壁際に10台くらいある。残りのスペースに10人くらい座れる椅子と机が置かれている。たまに村の子供が勉強するのに使っているみたいだ。


「これか、とりあえず3冊とも」


 お目当ての本は一番下の段の右端にまとめてあった。


 30ページくらいの石言葉だけをまとめた『石言葉をまとめました』

 

 先の本の10倍近くある学術書のような『宝石の歴史と魔力について』


 あとは、今手に持っている、500ページはありそうな『石言葉ができるまで』というそれぞれの石の石言葉ができるきっかけを集めた物語の総集編みたいなものだ。


 これから半日ほどの長旅に出るのだ。それなら3冊ぐらい借りても大丈夫だろう。『石言葉ができるまで』は本が好きな凛姉が読んでも構わないし、『宝石の歴史と魔力について』は勉強がてら僕が読んでも無駄にはならない。


 1人5冊まで借りられることもあり、僕はこれらをカウンターに持って行く。


「これお願いします」

「はいよ。ちょっと待ってね。名前控えるから」


 そう言って司書さんは、名簿に本の名前と僕の名前を書き始めた。僕は一回カードを見せただけで名前覚えたんだなと感心した。

 というより、この司書さんが、宝石の本がどこに何冊あるか把握していたことに今気づいた。年もかなりいっているのにすごいなと改めて思った。


「はい。期限は1週間だからね」


 何となく僕は、本を借りる手続きをしている間、貸出名簿を見ていた。そこにはロナさんと粉雪さんの名前があった。2人とも5冊借りていた。


 粉雪さんはこの地方の歴史本や僕の為にだろうか、魔法の常時展開についての本を借りていた。しかし、ロナさんは5冊とも仕事に全然関係ない本を借りていた。


 料理関係の2冊はまだ分かる。冒険者は体が資本の仕事だ。しかし残りの3冊は恋愛関係の本だった。


 僕はそれに気が付かなかったことにして、本を受け取り、みんなのもとに帰ろうとして、振り向いた時だった。


「あ、この間のお兄ちゃん!」

「先日はありがとうございました。もう体調は大丈夫なんですか?」


 振り向くと、この間の親子が手を繋いでこっちに向かってきていた。


「あ、はい。ボクもお母さんの言うことちゃんと聞いてる?」


 僕はお母さんに返事をしてから、しゃがんで、男の子の目線に合わせる。


「うん。ちゃんと聞いてるよ」

「そうか。偉いね」

 

 男の子は自慢げな顔をして、胸を張ってそう言った。僕は、男の子の頭を撫でてあげてからお母さんに話を振る。


「今日は絵本でも借りるんですか?」

「ええ、畑仕事も夫ともども一段落着いたので……」

「明日はお父さんも一緒に遊ぶの」


 そう言って男の子は本棚の方へ走っていた。お母さんも僕に少し頭を下げて「ごめんなさい」と言って男を追いかけて行った。


「それじゃ、またね」

「今度はお兄ちゃんも一緒に遊ぼうねぇー」

 

 僕は思わず顔に笑みを浮かべながら、男の子に手を振って、お母さんに頭を下げて図書館を出た。


◇◇◇

 

 図書館を出て、宿の自分の部屋に帰ると、ちょうど凛姉が部屋から出て来た。

 

 ちなみに、凛姉は僕とロナさんと一緒の部屋で暮らしている。夜寝るときは、僕が台所に布団を敷いて寝ている。あと、お風呂を造る話は一時的に頓挫している。ロナさんが、僕の治療をしていたからだ。それと、今回の引き抜きの話次第では完全に流れることになるだろう。そうなった場合は、せっかく造ってくれた台所も戻さなくてはならない。


「凛姉。もう準備は終わったの?」


「あ、つーくん。私とロナさんは終わったよ。だから、粉雪さんたちの様子見てくるから、つーくんは準備しててね」


 凛姉はそう言って粉雪さんの家へと歩いて行った。僕はそれを眺めながら、僕の準備の手伝いより、粉雪さんたちのほうを優先するのかと少し嫉妬した。


「まぁ、良いけどね」


 僕は部屋にそう、一人ぼやきながら入った。準備といっても酒を2本と一応狩人のような服を……。


「王様に会うのに、こんな服で大丈夫なのかな」

「大丈夫らしいですよ」


 僕が、居間の方へ入ると同時にロナさんが答えてくれた。


「粉雪さんたちが言っていたんですか?」


 僕はロナさんが座っていた丸机の向かい側に座り、ベッドの縁に背中を預けた。


 僕の今の格好はスーツだ。元いた世界では偉い人に会うのにはこの服でもまだセーフだろうが、こっちの世界では不安だ。

 ロナさんは大丈夫と言っていたが、もしそれが粉雪さんの言葉を真に受けての事だったら安心などできない。あの人はあの姿のまま国王に会いそうだ。いや、さすがに亜麻猫さんが止めるだろう。


「いえ、あの女性が大丈夫と言っていました」


 僕が図書館に向かった後、凛姉が服装のことについて気にしだしたらしい。そこへあの女性が「王は寛容な人だから大丈夫。ただし露出は控えめに。特にあなたは腰に巻いた上衣をちゃんと着て欲しい」と本を読みながら助言してくれたそうだ。


「私と凛さんは今回のことを抜きにしても、替えの服が欲しいので、向こうに付いたら服を買いに行きます。ツヨシさんも一緒に行きましょうね」


 ロナさんは机に置かれた本に目を一瞬動かし、僕の方に再度目線を移した。


 机の上には、ロナさんが借りた本が置かれていた。しかもご丁寧に、料理の本2冊と恋愛関係の本3冊は分けて置かれていた。そして、ロナさんが目線を移した本は恋愛関係の方だ。


「そうですね。荷物持ちくらいならしますよ」


 村の防具屋にも戦闘で使うような服以外にも農作業用の服や普段使いの服なども売っていた。なので、就寝用の服とジャージみたいな服を、ゴブリン退治でもらったお金で買った。ギリギリだった。


 けれど凛姉とロナさんは、お金を貯めて街の方でおしゃれな服を買いたいと言って就寝用の服を買っただけだった。


 今回、思わぬ臨時ボーナスが入り、主都に行く機会を得たため、2人は僕がいない間に話を詰めていたようだ。凛姉が僕の手伝いをしないで、粉雪さんたちの所に行ったのも、ショッピングのお誘いに行ったのかもしれない。


 その後のロナさんの追撃を何とか躱しながら、僕は出発準備を進めた。

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