感じの悪い騎士たちが来ましたが、臨時収入が手に入りました。
「引き抜きって私達全員かなぁ?」
凛姉が僕たちを見ながら質問してくる。
「パーティ単位だとは思うが……」
粉雪さんは自身なさげに答えた。
粉雪さんたちは、僕たちがこの世界に来る前から情報収集をしていた。その時に知った情報だと、基本は事前に通達があり、準備期間のようなものがあるらしい。しかし今回は、そんな通達は無かった。
僕たちが首を傾げていると、先ほどの女性が男性2人と一緒に戻ってきた。
「それじゃあ後は頼む」
女性は、僕たちの方を指さした後、元いた席に戻り、本を読み始めた。もうこちらのことなど気にもしていないようだ。
おそらく騎士隊の人であろう、一緒に入ってきた、軽そうな鎧を装備した男たちは呆れたのか彼女を睨んでからこちらに話しかけてきた。
「お前たちか。転移魔法を使ったというのは?」
騎士隊(?)の1人がかなり高圧的に、面倒くさそうに言う。もう1人の方も面倒くさそうにして、あくびをしている。
「はい。僕と……」「私です」
僕は、ロナさんの顔を見た。するとロナさんも返事をした。
「なら、国王がお呼びだ。一緒に来てもらう。ついて来い」
男たちは、そう言うと僕たちの事情など気にする素振りすらなく宿を出て行こうとした。
「ちょっと待ってください。説明をお願いします」
ロナさんが困り顔で男たちを呼びとめた。しかし男たちはこれまた面倒くさそうに「嫌なら来なくて良い」と言ってきた。
「お役所仕事が過ぎない?」
亜麻猫さんは僕と凛姉にそう小声で言ってきた。
僕は、これはお役所仕事ですらないと思った。
元いた世界では仕事柄、役所関係の人と一緒に仕事をすることが多かった。確かに、仕事中の待機時間にプライベートの話を振っても、あまり話してくれない。けれど仕事の話は丁寧に話してくれるし、合同の飲み会などでは楽しく話してくれる。
目の前の2人に対して、お役所仕事と言うのは、僕が今まで会って来た人を馬鹿にされているように感じた。
「ちょっと待ってほしい」
僕がそんなことを思って、文句の1つでも言おうとしていたら、先ほどの女性がロナさんと男たちの間に割って入ってくれた。
本を読んではいたが、こちらの話を聞いていてくれたようだ。
「何だ。お前は本でも読んでろ。こっちは仕事でこんな所まで来ているんだぞ」
「仕事なら真面目にして欲しい。私は1週間前に報告を行って、来る前に連絡を入れてほしいと手紙を書いた。それなのにあなた達は、私に了解とだけ書いた手紙を送ってきて、冒険者にも事前通達を送っていない。それなのに説明もなしに連れていくのはひどい」
彼女は淡々と、しかし先ほどの機械音声のようではなく、少し怒り気味に男たちに言う。
「なら、お前が説明しろ。私たちはここで聖水でも飲んでいる。おい女将、カルアミルクを頼む」「私はカシスオレンジだ」
男たちはふて腐れながら席に着き、女将を乱暴に呼ぶ。しかし頼んだ酒はかわいらしいものだった。
「申し訳ない。同僚に代わって私が説明する」
女性はペコリと頭を下げ、僕たちの近くの席に座る。
「お願いします」
僕が困惑していると、ロナさんが入り口近くから戻ってきた。
「私はこの村の監視騎士。役目は密告と有望冒険者の報告。私が、あなた達が転移魔法を使ったことを主都に報告した。だからあの騎士たちが引き抜きの話を持って来たのだと……思う」
彼女は、途中までは無機質に喋っていたが、最後の方は少し語尾が上がり、疑問形になっていた。
引き抜きに来たにしては、騎士たちの態度がひどすぎる。彼女が疑問形になるのも理解ができる。
「今から1時間後に出発してほしい。あなたたちもそれでお願い」
彼女は男たちの方を向いた。
男たちはすでに出来上がっていた。顔を真っ赤にして「それでいいぞ」と言っている。
僕は、自分が言うのもなんだが弱すぎるだろうと思った。それと同時に、あれで騎士が務まるのかと疑問に思った。
そんな僕をよそに粉雪さんが手を顔の横くらいまで上げた。
「すまない。それは5人ともだろうか」
そう言えばそうだ。彼女の言い方では、僕とロナさんだけみたいだ。それなら断ろうと僕は思った。2人なんて不安すぎる。
しかし、僕のそれは杞憂に終わった。
「そう。5人でお願い。あなたたち3人も一応報告してある。それとこれは王の話を聞くから渡すのであって、引き抜きを受けても受けなくても返さなくていいから」
彼女は、僕たちの前に紙幣で10万G出してきた。
「これも分割でいいか?」
粉雪さんが僕たちに確認を取ってきた。僕を初め、全員が首を縦に振った。
「私の説明は以上。何か質問はある?」
「ここから主都までどのくらいかかりますか?」
彼女の言葉に、凛姉が質問する。
今はもう、2時になりかけている。距離によっては夏といっても暗い時間に王に会うことになるかもしれない。
「半日だけど、少し待って」
そう言って彼女は、スーツみたいな服の胸ポケットから手帳を出して何か書き始めた。そして書いたページを破って、僕に渡してきた。
「これを主都の門に入ってすぐの、一般向けの方の宿の女将に渡して。タダで泊まれるから。それと王への謁見は、基本は11時から12時までの1時間だけだから」
彼女は破ったページを僕に渡すと、さっきまでいた席に戻りまた本を読み始めた。
「えー」
凛姉と亜麻猫さんは呆然として口から声が漏れていた。あとの二人は互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべていた。
それに対して僕は、ニヤリとしていた。
今の彼女の話なら自由時間がある。その時間を使って、これ以上悪い虫が寄ってこないように、凛姉に指輪をプレゼントしよう。
主都に移籍することになっても、この村に残ることになっても、これからも凛姉には悪い虫が寄ってくることには変わりはない。
僕は、4人に断りを入れて図書館に駆けて行く。石言葉を調べるためだ。




