ツヨシとロナの二人会話
3人が部屋を出て、僕とロナさんだけになった。
僕とロナさんはお互いベッドに腰を掛けた。
僕から話始めようかと思ったら、ロナさんが先に聞いてきた。
「思い出したのですか? 付き添いの天使が記憶を消したのに」
やっぱり僕の記憶は意図的に消されていた。
「夢の中で公園での一部始終を見たんです。多分、ロナさんが回復してくれていたから、思い出すことができたんだと思います」
僕が起きた時、ロナさんはベッドの側に座って寝ていた。そして、目の下に大きなクマを作っていた。おそらく回復魔法を使って、夜通し看病をしてくれていたのだろう。だから夢で、あの公園での出来事を思い出すことができたのだろう。あの時も、僕の怪我を魔法で治してくれたから。
「それで、何で記憶を消す必要があったんですか? 別に、魔法の所だけ消せば良かったのでは?」
「あの天使は、神様の補佐官です。基本は人間と関わりません。なので、人間の都合なんて考えず、記憶を全部消したほうが早いと思ったら迷いなく消します」
「なんでそんな天使さんが地上に?」
神様の補佐官なんて、絶対天使の中でも地位が高い。そんな天使がなぜ……。
「それは、私が正式に天使になったら補佐官見習いになる予定だったからです」
ロナさんは苦笑いしながら、そう言った。僕は、その苦笑いを課題の厳しさに対してのものだと思ったが……。
普通の人間に3年で1億も稼がせる課題を課すのはおかしい。いや、神様は僕の体質の事を知っていたから、これくらいならできると思ったのだろうか。
しかし、僕が思っていた理由とは違った。
「やっぱり、補佐官になるにはかなり無茶なお題を出されるん――。あれ……? 予定だった?」
「私が拒否したからです……」
なんとなく、“だった”の部分が引っ掛かったので聞いてみた。
ロナさんの答えで、なんで苦笑いしているのか分かったような気がした。
「何で、そんな名誉そうな職を辞退したんですか?」
「それは、私が元々、地上の娯楽に興味があったからです」
ロナさんの話では、天使見習いの間では、神様の言うことに従うのが最高の幸せということに表向きはなっているらしい。だから、娯楽が発展しづらい環境になっている。
彼女は小さなころからその教えはおかしいと思っていたので、自分が地上の監視の仕事に就いて、人間の娯楽を知り、天使の間に広めようと思っていたらしい。
「その後、紆余曲折ありまして……。今回の試験が成功すれば、私は地上の監視の仕事に就けることに。ただ、失敗すると補佐官見習いになることになりました」
「僕が、こんな体質ってこと神様は知ってるんですか?」
もしかしたら神様も、僕の体質を知っていたから僕を試験対象に選んだのかもしれない。ただ、これはロナさんに否定された。
「知らないと思います。魔力の感知については、天界でいる間は神様クラスの私でさえ、あなたの体質に気が付かなかったんですから……」
さらっととんでもないことを言ったなと僕は思った。ロナさんの顔は真顔だったので真剣にそう思っているのだろう。
「3年で1億って聞いて絶望しました。ただ、あなたが試験対象と聞いて、駄目だったら諦めがつくと思いました」
「なんで僕だったら諦めがつくんですか?」
「あなたが、私の後押しをしてくれたからです。実を言うとあの時、娯楽を広めるのは無理だと思って諦めかけていたんです。それで、今度の人間界の見学でなにか自分の中で心にくることが無かったら素直に補佐官見習いになろうと思っていたんです。ですけど投げ込みの練習をしていた時、ツヨシさんがとても楽しそうにしていたので、私も楽しくなって、やっぱり人間界の娯楽を天界にも広めたいって改めて思ったんです」
僕は正直、そんなことで将来の進路を決めたのかと思った。しかし天界はそれだけ娯楽に飢えているのかなと思い、口にはしなかった。
「それで、神様は何も言ってこないんですか。思っていた展開ではなさそうですけど」
「直接は言ってこないと思います。それは全知全能を謳っている神にとって、あってはならない自分の間違いを認めることになります。このまま何も言わなければ、もし私達が成功しても、よく私の試練をクリアしたとか言って威厳は保てますから」
彼女は、なんとも言えない顔をしたかと思えば、急に何かを決意したように真面目な顔になった。
「どうしたんです?」
「あの、今更と言いますか、改めてと言いますか……。これからもよろしくお願いします」
彼女は、僕の目をまっすぐ見つめてそう言った後、お辞儀をしてきた。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
僕もお辞儀をし返した。
お金を貯めることしか考えていなかった僕だが、凛姉がこちらの世界に来たことで、散財することも考えてお金を稼ごうと思っていた。それに加えて、今の話を聞いて、ロナさんの娯楽探しのためにも、もっとお金を稼ごうと僕は思った。
「それでは、凛さんを呼んできますね。二人きりで話したいこともあるでしょうし」
「え、待ってくだ――。 バタン。
ロナさんは僕の返事も聞かずに、部屋の外へと出て行った。
僕は何から話すべきか、心の準備がまだできていなかった。




