姉のお風呂を覗くはすが……。
反省会とは名ばかりで、粉雪さんたちの故郷の話で盛り上がった。
正確に言うと、ロナさんに亜麻猫さんを味方に付けたことを気づかれたくなかったから、むりくり次々に話の話題を出していたら、彼女たちの故郷の話が膨らんだ形だ。
その後、夕食の時間になったので、厨房の方へ夕食を貰いに行った。
うどんぽい麺類と、別の器に分けられて、揚げ物が置かれていた。量的には十分で、味もおいしかった。
食事も終わり、粉雪さんたちは自分の家に帰った。
自分の家と言っても借家で、持ち主はこの宿の女将さんだ。彼女たちには、少しでも長く村にいてもらいたいと思って、個室ではなく小さいながらも家を無料で貸しているらしい。ちなみに、僕たちにもその話が来たが、キッチンなどの改造をした後だったので、今のままの部屋を借りることにした。
今は、その自分たちの部屋に帰って来たところだ。
僕は早速、姉のことをロナさんに頼んでみる。
「あの。昨日の今日で申し訳ないんですけど……」
「大丈夫ですよ」
ロナさんは、にっこりと笑ってから前みたいに白い雲みたいなものを出してくれた。
「ありがとうございます」
今は6時ちょっと過ぎだ。姉は何もない日は、このくらいの時間にお風呂に入っていた。僕は、もしかしたらと、淡い期待を持ちながら、雲を覗き込んだ。ただ、その期待は水の泡となって消えた。
「どこの階段?」
姉は階段を上っていた。最初、姉の大学の階段かと思ったが、そんな雰囲気ではない。
途中、社員証を首からぶら下げた男性とすれ違ったのを見て、どこかの会社の面接にでも行ったのかなと思った。ただこれも違うようだ。服装が、僕がプレゼントした白のワンピースだった。
僕にファッションセンスなどない。だから、気が進まないが、溝田に頼んで、服屋についてきてもらい、意見を出してもらって買ったものだ。
私服でご参加ください。と指定してくる企業もあるだろう。ただ、今は6時だ。何となく遅い気がする。それにいくら凛姉が人見知りでも、社員とすれ違えば挨拶ぐらいはする。
本当に凛姉はどこにいるんだろう。そんなことを思っていたら、凛姉が階段を上がり終えた。そして、目の前のドアを開いた。
ドアの向こう側は屋上に繋がっていた。7月ということもあり、まだ空は明るい。
凛姉は屋上へと足を進め、そのままフェンスの所まで歩き、下を見た。
その景色に僕は見覚えがあった。いつも使っている会社からの帰り道の風景だ。確か、この辺りには、7、8階建てのビルがあり、1フロアずつの賃貸になっていたはずだ。
ただ、姉がこのビルに何の用事があるのか、僕には心当たりがなかった。
このビルの中には、フィットネスクラブとか個人経営の塾などの姉には関係がなさそうな場所や、工務店などの姉が就活するのに興味を引かれる会社などは無かったはずだ。
凛姉は、司書になりたいと常々言っていた。そのために司書講習を受けたり、大学もよくは知らないが、そういった講義があるところに通っている。このビルにそれに該当する会社は無いだろう。あとは、クラシックが好きで、弦楽器とかの販売に係りたいとか言っていたが……。
「よし」
僕がそんなことを考えていたら、凛姉は何かを決意したのか小声でそう言い、フェンスによじ登りだした。
「え、なにしてるの!?」
僕が、危ないから降りてと思っていたら、後ろから誰か入ってきた。
「凛ちゃん。何してるの!」
溝田だ。おおかた凛姉のストーカーでもしていたのだろう。ただ、今はそんな場合ではない。姉を早く下してほしい。ただ僕が溝田の方に目がいったすきに、すでにフェンスを乗り超えてしまっていた。
「溝田さん……。今までありがとう」
そう言って、凛姉はそのまま体をビルの外へ――。




