僕も邪な考えの人になりました。
「じゃあ、村の人に聞き込みしましょうか」
僕は亜麻猫さんに連行され、村の前まで戻ってきた。
道中で、ゴブリンの棲家に行く前に聞き込みすれば良かったのではと思い、亜麻猫さんに聞いてみた。
それは粉雪さんも亜麻猫さんもわかってはいたが、僕たちに冒険者としての一連の流れをわかって欲しくてわざとそうしたらしい。
なんでも、粉雪さんたちはさきにゴブリンの棲家の様子をある程度は聞いていたようだ。だから亜麻猫さんは、先に4人で村で行方不明者がいないか聞いてから、すぐに爆竹を放り込む予定だったそうだ。ただ、粉雪さんがそれを止めて、今の状況になっている。
「まぁ……。ロナも気づいていると思うわよ。あの子、頭良さそうだし」
亜麻猫さんがロナさんのことを急に褒めだした。さっきの2人の会話を聞いていなかったら「そうですね」と答えていたのだが……。もう村に入る前に、正直に言ってしまおう。
「あの、さっきの2人の会話聞こえてました。あっ。安心してください。粉雪さんは穴に夢中で聞こえていなかったみたいです」
これから聞き込みの最中に、ことあるごとにロナさんのことをぶっこんでこられても困る。それなら先に釘を刺しておこう。彼女も僕にバレたことを、ロナさんに話したりしないだろう。
亜麻猫さんにそう伝えると、彼女はあきらめた感じの顔をし、やさぐれた声色でこう言ってきた。
「あんた、ロナの何が気に入らないの?」
あからさまに不満な顔をしながら、彼女は僕につっかかってきた。
僕はその威圧感に押され、思わず「いや、僕には凛姉……」がと言ってしまった。
「凛姉? あんた姉がいるの?」
それに亜麻猫さんは不思議そうな顔をしていた。ロナさんから姉がいることを聞いていなかったのだろう。それなら僕が勝手に設定を作って、ロナさんには事後承諾を貰おう。
「実の姉です。二年前に持病で……」
そう言った時の僕の顔は、今にも泣きだしそうな顔であっただろう。なぜなら、頭の中で、凛姉が倒れて病院に運ばれる場面を想像したからだ。
この言い方だと凛姉が死んだみたいな言い方だが、そんな場面など想像したくない。倒れる場面でも、僕の心はギリギリなのだ。
そんな僕の顔とギリギリの心を読み取ったのか、亜麻猫さんは僕に謝ってくれた。
「ごめんなさい」
僕は内心「しめた」と思った。このまま感動路線に持っていて、反論できなくさせよう。ただ、次に言った言葉は裏目に出そうになった。
「ロナさんは多分……。姉の代わりをしようとしてくれているんだと思います」
「姉の代わりって、度が過ぎない?」
亜麻猫さんは間髪入れずにツッコんできた。ただこれは僕も想定内の質問だ。だから僕はこう返した。
「僕と姉は恋仲だったので……」
彼女もマイノリティーな性癖だ。姉弟間の恋愛もある程度は理解があるはずだ。
「私も人の事言えないけど、つらいこともあったんじゃない?」
僕の目論みは当たったようだ。いつもの気だるげな感じではなく、彼女は今、かなり親身な対応をしてくれている。
これで最後だ。
「いえ、僕の周りは祝福してくれる人ばかりだったので。ロナさんも含めてです。だから、僕は思うんです。誰が誰を好きになっても悪いことじゃないって。粉雪さんとのことも、僕は応援しますよ」
僕は、彼女の顔をまっすぐ見据える。それに対しての彼女の反応は、僕は初めて見るものだった。
「ありがとう」
彼女は、ほのかに顔を赤らめ、しおらしげに僕にお礼を言ってきた。
僕はその言葉が何となく嬉しかった。先の僕の言葉に嘘は無い。
誰が誰を好きになっても問題などない。ただ亜麻猫さんは、世間体というものを気にすることができる人だ。だから自分の粉雪さんへの恋心に関して、口を滑らすことはあっても、言い切らず途中で口を閉じていた。
だけど今は、その恋心を隠さず、さらけ出してくれた。
僕と彼女は似ているのかなと心の中で感じたのかもしれない。
性別や体格、性格から好きになった人のタイプなど全然違う。だが、世間から厳しい目で見られる恋というのは一緒だ。
嬉しく思ったのは、そんな話ができる仲間ができたからかもしれない。
ただ、凛姉に邪な感情を持つ奴や、溝田は別だ。そんな奴らは、馬に蹴られて死ねばいいのだ……。
「僕と姉の昔話、またの機会にでも聞いてください。粉雪さんと亜麻猫さんの話も、その時話しましょう」
とりあえずここまで言っておけば、少しの間は僕に、見方してくれるはずだ。それに、誰かの恋バナを聞くことは好きだし、僕も凛姉のことを誰かに話したい。あることないこと話しても嘘だとはばれない。なんて最高なのだ。
この機会に、僕の頭の中の凛姉とのデートプランを亜麻猫さんに話してみよう。
あとになって冷静な時に今思ったことを思いだす。自分で言うのもなんだが……。クソ気持ち悪いことを思いながら、僕たちは村の人たちに聞き込みを行いに向かっていた。




